題 |
呪禁局特別捜査官 ルーキー |
著 | 著: 牧野修 |
版 | 祥伝社ノン・ノベル 2003年, 838円, ISBN4-396-20766-2 |
帯 | 呪禁官ギアの活躍が読めるのはノベルズだけ!! 牧野修 |
話 |
なんの前触れもなく魔術・呪術が現実に影響を与える技術となってから40年あまり。
オカルトが体系的に産業利用される一方、科学は資金・人材的に凋落し衰退する思想となっている未来。
魔術犯罪を取り締まる呪禁局特別捜査官の新人、葉車(通称ギア)は、世界初の霊的発電所の周囲で頻発する
呪的事故の背後にいる、魔術テロリスト・サイコムウの存在を知る。
時を同じくして、昔の子供向け特撮番組のヒーローである科学戦隊ボーアマンを名乗る派手なコスチュームの一団が現れ、
同じ番組でオカルト帝国の首領であったサイコムウと同名のテロリストの犯罪に立ち向かう。
あまりにも不自然かつ作為的な科学vsオカルト決戦を背景として進む、霊的発電所の致命的欠陥をねらった
世界を破滅に導く企みを打ち砕こうと、ギアと養成学校時代の仲間達は立ち上がる。 |
評 |
統合人格評★★★ / SF人格評★★ / ホラー人格評 ★★ |
かなりヤングアダルトな一作。いわゆるキャラ萌えな造りが目立つのだが、
牧野作品らしいグロテスクなカリカチュアは健在。科学に魂を売った男の率いる科学戦隊の活躍や、
エノク魔術や古神道の秘儀に代わり誰もが使える魔術として開発された「スペルズ」の呪句の間抜けさといい、
毒々しい冗談が満載。でも、やっぱりヤングアダルトのヌルさからは抜けきれていないのが僕にはちょっと。
これはシリーズ2作目で1作目は読んでないんだけど、あらためて読むかといわれると、うーん、どうかな。 |
イカした言葉
『終わりましょう。静まってください。なぜなら自然だからですね。ハレルヤハレルヤ』(p143) |
題 |
不在の鳥は霧の彼方へ飛ぶ (原題: The Impossible Bird) |
著 | 著: パトリック・オリアリー (Patrick O'Leary) / 訳: 中原尚哉 |
版 | ハヤカワ文庫SF 2003年, 940円, ISBN4-15-011444-7 |
帯 | 神林長平氏絶賛!「完璧な虚構の中にも真実は潜んでいる」 |
話 |
離れて暮らす、CMディレクターの兄マイクと文学部教授の弟ダニエル。
価値観も生き方も全く異なる二人とも、実は既に死亡しているのだがそのことに気付いていない。
彼らのもとに現れた謎の男タカハシに強要されるまま互いを探すことになった兄弟は、
その旅路で「越境者」と「矯正者」と名乗る二つの集団間の争いに関わっていくことになる。
越境者のリーダーで兄弟のかつての教師クリンダーが明かす世界の秘密。
それは、彼らが存在しているのは、地球を訪れたエイリアンがハチドリの頭脳の中に築き上げた死者の世界だという驚くべき事実。
エイリアンと交信できるダニエルの息子のショーンをもう一つの焦点として、
二人は生前にできたある亀裂を埋めるべく遍歴する。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★ |
全ての作家はユニークなのだけど、P・オリアリーの孤立ぶりは突出している。
前作『時間旅行士は緑の海に漂う』に続き、またもや誰とも似ていない作品世界。
地球人には認識すら困難なエイリアンが、鳥達の脳内に作り上げた暗号に満ちた虚構の世界。
死んでも直ぐに再生される不死の世界を愉しむ越境者と、
そこから抜け出そうとあがく矯正者の暴力的な対立が密かに続く世界で繰り広げられるのは、
人生の真実の発見と、兄弟の和解と赦しという極めてまっとうな物語。
なにもこんなに突拍子もない舞台を設定しなくてもいいと思うのだが、奇妙さの中で清清しさが際立つ不思議。 |
イカした言葉
「この質問に答えてくれないか、教授。赤くて緑色でぜんぶ透明のものはなんだ?」(p56) |
題 |
ドゥームズデイ・ブック (上・下) (原題: Doomsday Book) |
著 | 著: コニー・ウィリス (Connie Willis) / 訳: 大森望 |
版 | ハヤカワ文庫SF 2003年, 各940円, ISBN4-15-011437-4/4-15-011438-2 |
帯 | ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞 /
恩田陸氏絶賛!「極上の読書時間を保証してくれる」 |
話 |
時間旅行が可能となった21世紀半ば。
オックスフォード大学史学部の学生キブリンをペスト襲来直前の1320年に送り込む試みは成功したものの、
担当技術者が病に倒れ、到着を確認できなくなってしまう。
さらに、この技術者を第一号とする伝染病が爆発的に拡がり外界と隔離された街は混乱を極める。
危険度の極めて高い時代への無謀な冒険を当初から危惧していた指導教官ダンワージーは、
彼女を救うべくクリスマスの街を駆け回るが、電話はつながらず、
無能で横暴な史学部副部長(計画の張本人)の前に事態は悪化の一途をたどる。
一方、14世紀のキブリンも到着直後、発病し倒れ帰還のポイントを見失ってしまう。
彼女を助けた領主一家と過ごし、当時の生活を観察・記録しながら帰る道を探るキブリンだが、
ありえないはずの疫禍が村を襲う。
すさまじい疫災に見舞われた現代と中世で、疫病との闘いと救出/帰還への努力が続く。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★★ |
SARS騒動の中の妙にタイムリーな読書体験だったが、読みながら、
ずーっと違和感を感じていたことがあって、それは、この世界(21世紀の方)に携帯電話もインターネットもないこと。
これらさえあれば、少なくともダンワージーの苦労はほとんどないはずなのだ。
もちろん原作が発表されたのは1992年だし、舞台となる時代までの数十年の間にこれらのインフラが何らかの理由で
失われるということも考えられるんだけど、非常によくできた小説だけに気になってしまった。
で、実はこの小説はSFのS(サイエンス)はほとんどない。
極めてリアルな現代/中世の生活とそこに生きるキャラクター達の魅力でもっている話で、
逆にキャラの性格付けがメリハリありすぎるのが鼻につくところでもあるのだ。
いや、感動場面もバランスのよい盛り上げも巧妙で、なにしろ面白い小説なんだけど。
ところで、史学部長のベイジンゲームって結局どこに行っちゃったんだろう? |
イカした言葉 「ここはきれいです」(上巻p96) |
題 | 壊人 (かいじん 原題: SLOB) |
著 | 著: レックス・ミラー (Rex Miller) / 訳: 田中一江 |
版 | 文春文庫 2003年, 857円, ISBN4-16-766129-2 |
帯 | 極悪・激重の巨漢殺人鬼チェーンギャング、ここに登場。 |
話 |
チェーンギャングことバンコウスキー、幼児虐待でねじまがった精神を、
人間離れした膂力と知力、ベトナム戦争で鍛えた戦闘能力を備えた体重500ポンドの巨躯で包んだ恐るべき連続殺人鬼。
何の理由もなく残虐な犯行と破壊を繰り返し世間をパニックに陥れる彼を追うのは優秀な刑事アイコード。
ある被害者の未亡人と次第に心を通わせながら執念を持って追いかけるアイコードの存在を知ったバンコウスキーは、
アイコードに対する罠を仕掛けようと動き始める。 |
評 |
統合人格評 ★ / SF人格評 - / ホラー人格評 ★★ |
ボブ・サップの肉体にランボーの戦闘能力を詰め込み、頭脳と精神はレクター博士で、
殺人への嗜好と節操のなさはヘンリー・リー・ルーカス。
こんな殺人鬼が本当に存在するなら半径1キロ以内には近づきたくないものだけど、
ここまでくれば現実感なさすぎで逆にあまり怖くない。
それに、突出しているのはキャラクターだけで、
凶悪なサイコキラーを追う優秀な刑事が、サイコキラーに気付かれ愛するものをおとりにおびき寄せられる、
ってストーリーは『レッド・ドラゴン』を始めとしてありふれた話なんだよね。
といっても原作は1987年に書かれているので、その手の話のはしりだったのかもしれないけど。 |
イカした言葉
「赤の他人の車に、だれが乗る気になるだろう?」だと? 決まってるじゃないか、おまえだよ。(p142) |
題 |
驚異の発明家(エンヂニア)の形見函
(原題: A Case of Curiosities) |
著 | 著: アレン・カーズワイル (Allen Kurzweil) / 訳:大島豊 |
版 | 東京創元社 2003年, 3800円, ISBN4-488-01635-9 |
帯 | 形見函、それは尋常ではない物語を宿した骨董の函 |
話 |
とあるオークションに出品された骨董品の「形見函」に納められた品々が語る
ある発明家の数奇な生涯。
18世紀フランスの片田舎に生まれた発明家クロード・パージュは、
幼い頃から音に対する敏感な感性と器械に対する傑出した才能を示していた。
彼の才能を見出した領主(尊師)のもとで、エロチックな機構を隠した時計造りを手伝うパージュだが、
ある事件をきっかけに出奔しパリに向かう。
パリでは、心ならずも俗物の書店主の徒弟となり抑圧された生活を送ることになった彼だが、
様々な人たちとの交流に支えられ、再び器械師への道を歩みはじめる。
そして、尊師との再会を機に、それまで誰もなしえなかった言葉を喋る自動人形の創造に取り組んでいく。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 - |
ジャケ買いの一冊。なんとも魅力的なタイトルと美しい装丁だけど、
中に納められた物語もそれに劣らず魅力的。一人の若者が逆境に負けず夢を持ちつづけ、
素晴らしい友人達の助けを得ながら夢の実現を目指す、という言ってしまえば顔が赤らむような話ではあるのだが。
なんといっても当時のフランスの生活・風俗の描写が濃密で、有閑上流階級や市井で力強く生きる庶民達の行き交う路地の音や、
彼らの食卓の匂いが行間から立ちのぼる。
この物語の中で主人公は様々な器械を作り上げる。それは時計であり、自動ロースターであり、屋根裏部屋を彩る世界であり、
そして彼の世界の中心を占める(歯車仕掛けの器械とはいえ)人間である。
つまり聖も俗も志向しない彼がふるうのは造物主の技である、ということに僕のSFマインドは刺激されるのだ。 |
イカした言葉
「梃子を自家薬籠中のものにしてしまえば、世界じゅう思いのままじゃ」(p94) |
題 |
モンスター・ドライヴイン (原題: The Drive-In) |
著 | 著: ジョー・R・ランズデール (Joe R. Lansdale) / 訳: 尾之上浩司 |
版 | 創元SF文庫 2003年, 600円, ISBN4-488-71701-2 |
帯 | 伝説の怪作ついに出現! |
話 |
親しい友人が街を出て行くというので、最後の大騒ぎをすべく、
いつものように巨大ドライヴイン・シアター 〈オービット〉に集まった「ぼく」たちは、
オールナイトの6本立てB級ホラーを楽しんでいた。
ところが、赤い彗星の出現を境に〈オービット〉は謎の黒い物質(触れると溶かされる!)
に囲まれて脱出不能となってしまう。最初は戸惑いながらも助け合っていた観客達も、
時間の感覚をなくし、食料も尽きて飢えていくうちに次第に理性を失っていく。
暴力と混沌の中で怪異は続き、友人が変化した異形の王が支配するドライヴイン・シアターで
「ぼく」たちは何とか正気を保ちながら生きのびていくのだが... |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★ |
ランズデールが最初期に書いた夢も希望もない話。
人がいかにたやすく秩序と「人間性」を失っていくかがひたすら淡々と描かれていく。
ゴールディングの『蝿の王』にたとえるのは言い過ぎかもしれないが。
実は、この物語で描かれてるものはもう一つあって、それは若いときに誰もが持っていた(少なくとも僕はそうだった)
周囲の世界に対する「リアルでない感じ」。
自分ではどうにもならないもどかしい現実は、スクリーンの中の世界と同じであり、
ある種の諦念を持って傍観するしかないのだ。 |
イカした言葉
「わたしはポップコーン・キング。わが支配が、これより始まる。きみたちの面倒を見てやろう」(p133) |
題 |
鉤爪プレイバック (原題: Casual Rex) |
著 |
著: エリック・ガルシア (Eric Garcia) / 訳: 酒井昭伸 |
版 | ヴィレッジブックス 2003年, 880円, ISBN4-7897-1980-4 |
帯 | またまたウワサの恐竜ハードボイルド! |
話 |
「このミス」2003年版で第7位を獲得した
『さらば、愛しき鉤爪』に続く
恐竜探偵ヴィンセント・ルビオ シリーズ第2弾。
前作から遡ること1年ほど前、相棒アーニーがまだ生きている頃の話。
ヒトの扮装で暮らす恐竜コミュニティの一員でロスに事務所を構えるルビオらに、
アーニーの前妻が、弟を宗教カルトから救出して欲しいと依頼してきた。
恐竜としての自然な生き方を謳い世界中で勢力を広げる「祖竜教会」に潜入し、彼を奪回するが、
洗脳解除後すぐに弟は自殺してしまう。
同じようにして事故や自殺で死んでしまう若者達が多数いることに疑念を抱いたルビオとアーニーは
教団が研修を行うハワイに飛ぶ。
美しい女教祖にうつつを抜かし、研修の中で戸惑いながらも野生を解放する探偵たちは、
事件の謎と教団が隠すある野望に近づいてゆく。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★ |
抜群に面白いのよ、これが。
伝統芸能のごとき古臭くも堅固なストーリー展開を誇張した骨格と、
ハードボイルドな文体とセリフをスラップスティックに変調した皮膚の間には、
緻密に構築された奇想の筋肉が張り巡らされていて、その力強く動くさまはお見事。
「恐竜が絶滅をまぬがれたばかりか、ヒトの扮装をつけて暮らしていたら」という
バカバカしい前提がただ一つ設定されているだけで、世界観も伏線も謎解きも
すべてここから論理的にビシッと導かれるものばかり。これって優れたSFの手法なんだよね。
2作目でインパクトが減ってる分★を減らしたけど、面白い小説が欲しければ、これを読め。 |
イカした言葉
ワッフルはすさまじい味がした。(p210, これがまたいいシーン) |
題 |
プランク・ゼロ / 真空ダイヤグラム (原題: Vacuum Diagrams) |
著 | 著: スティーヴン・バクスター (Stephen Baxter) / 訳: 古沢嘉通・小野田和子 他 |
版 |
ハヤカワ文庫SF 2003年, 『プ』860円/『真』820円, ISBN4-15-011427-7/4-15-011430-7 |
帯 |
生命と時空を自在に操る手腕において彼を超えるハードSF作家はいない。(野尻抱介氏)
/ まさに畏怖すべき想像力の結晶。(アーサー・C・クラーク) |
話 |
他の種族にはその原理すら分からない超越的な科学技術を有し、
100億年以上前から銀河団すら建築資材として謎の活動を続けている超種族ジーリー。
宇宙進出から次第に版図を広げ、無謀にもついにはジーリーに挑んだ人類の500万年にわたる興亡と、
人類を歯牙にもかけないジーリーでさえ敗北し宇宙全体が滅亡するにいたるまでを描いた「ジーリー年代記」の短編集。
原書の1冊を2分冊で邦訳。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★ |
凝った人物造形とか、入り組んだプロットとか、ましてや人情の機微とか、
そういったものが読みたければ他の物語を手にとればいい。
ここで描かれているのは、直径1000万光年にも達する工学的建造物や、
自らを生きる宇宙船に作り変え他の種族に売ることを生存戦略として選択した種族や、
重力定数10億倍の異なる宇宙で何とか文明を支え続ける人類の物語。
途方もないアイデアが連発されるだけではなく、彼の筆にかかれば時間と空間の尺度はたちまち対数目盛となり、
1プランク長と1億光年の距離は同一の視点で歪みなく描かれて、眩暈を感じるほど。
まあ文句をいうなら、数百万年の時間軸の中で科学理論に飛躍的なパラダイムシフトが起こってないのが不自然で、
相対性理論と量子力学とビッグバン理論が遠未来でも支配的な概念というのはいくらなんでも、ね。
超越的な技術にしても、例えば「パウリの排他律を回避して」みたいな表現で、
多分スゴイことをやってるにしてもアプローチが工学的なのが気になるところ。
ここで無茶をすると奇想のリアル感がなくなっちゃうのだけど。とにかく、SFの一つの精華がここにある。 |
題 |
紙葉の家
(原題: House Of Leaves) |
著 | 著: マーク・Z・ダニエレブスキー (Mark Z. Danielewski) / 訳: 嶋田洋一 |
版 | ソニー・マガジンズ 2002年, 4600円, ISBN4-7897-1968-5 |
帯 | この紙葉をめくる者、すべての希望を捨てよ。 |
話 |
高名なフォトジャーナリストが購入した家は
外側から測ったより内側が大きく、さらにありえない方向に伸びる廊下を経て
刻一刻と姿を変えつづける広大無辺な迷路につながっていた。
探検家らを交えて行われた数度の探索行と、
気味悪がりながらも暮らす家族の関係の変化を
数編のビデオでとらえた『ネイビッドソン記録』は上映されカルト的な人気を博した。
『記録』の真贋と意味についてなされたおびただしい議論と研究について膨大な注釈をつけて書き綴った大量の紙片を、
孤独に死んだ老人の部屋で見つけた青年ジョニーはそのテキストにのめり込む。
存在しない『ネイビッドソン記録』の迷宮の謎に追い詰められるように社会との接触を断ってゆくジョニーは、
自らの人生についての独白めいた膨大な注釈をさらに加えてこの本を発行する。 |
評 |
統合人格評 ★★★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★ |
これは何かとてつもないモノだ。装丁と本文の仕掛けのあまりの異様さに、
その高価さにもかかわらず即買いしてしまったのだが、文学という領域を突き抜けて無人の野を独り行くがごとき本書には、
とにかく圧倒されてしまった。
ビジュアル的にも物語の構造としても、分岐し、行き止まり、変質し、ねじまがり、
裏返り、逆行し、繰り返し、内部と外部が逆転するテキストは、
ネイビッドソン家の迷宮そのものなのだが、
これらすべてのレベルの迷宮の中には(おそらくは同一の)魔物が潜みこちらをうかがっている。
その姿・正体が全く見えないだけに恐ろしい。
いくつもの解釈が可能なようで、そのくせすべての解釈を拒絶するような希代の書。 |
イカした言葉
これはあんた向きじゃない。(ix 巻頭言) |
題 |
闇の果ての光 (原題: The Light At The End) |
著 |
著: ジョン・スキップ & クレイグ・スペクター (John Skipp & Craig Spector) / 訳: 加藤洋子 |
版 | 文春文庫 2003年, 829円, ISBN4-16-766126-8 |
帯 | 【ニューヨーク発】地下鉄に吸血鬼、現る!! |
話 |
ニューヨークの地下鉄で続く虐殺事件の陰に、吸血鬼がいることに気がついたのは、
メッセンジャー会社のスタッフに、ホラーおたくのカップルに、生前の吸血鬼の友人だったダメ文学青年ら。
ナチスの収容所を生き延びた老人、地下鉄の作業員等を仲間に加えて、
彼らはニューヨークの街と地下鉄をダンジョンに見立て、罠をはり、十字架と聖水を武器に吸血鬼退治に乗り出した。
素人パーティのメンバーは、一人また一人と吸血鬼ルーディの毒牙にかかり命を落としてゆくが、
それでも次第にルーディを追い詰めていく。そして地下鉄車内での対決が始まる。 |
評 |
統合人格評 ★ / SF人格評 ★ / ホラー人格評 ★★★ |
小説としてはものすごくヘタ。しかも敵である吸血鬼が、
所詮は偶然にピストルを拾って急に気が大きくなったチンピラのレベルでかなり情けない。
まあ、だからこそ、その辺の兄ちゃん達が立ち向かえるのだろうけど。
真の親玉たるモノがさっさと遠いところに行ってしまってて
主人公達はその存在すら知らないのはちょっと面白いんだけどね。 |
イカした言葉
「死んでるだけじゃない。死んでるだけじゃ答になってないぞ」(p452) |
題 |
アバラット (原題: ABARAT) |
著 |
著・画: クライブ・バーカー (Clive Barker)
/ 訳: 池央耿 |
版 | ソニー・マガジンズ 2002年, 2600円, ISBN4-7897-1973-1 |
帯 | 未知なる旅の扉は、いま、ここに開かれた — アバラットへようこそ。 |
話 |
暴力的な父親や退屈な日常に飽き飽きしているミネソタの田舎町の少女キャンディは、
ある日草原で、異界の住人ミスチーフ(またはジョン兄弟)に会う。
ミスチーフから〈キー〉を渡されたキャンディは、突如現れた大海を越えてアバラットに渡る。
そこは、午前0時から午後11時までの時間を司る24の島々と時を越えた25番目の島からなり、
異様な生物や人々が暮らす魔法の世界。
こちらの世界(ヒヤアフターと呼ばれている)から来たキャンディの存在はアバラットに波紋を起こし、
複雑な勢力分布は大きく揺れ動き始める。
彼女自身や〈キー〉を求める真夜中の王キャリオンらに追われるキャンディは、
彼の地に住む様々な人物(?)と出会いながら冒険の旅を続けるうちに、
自分がアバラットに来たのは初めてではないことに気付く。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★ |
ハリーポッターの後追いが並ぶ書店の棚で見つけた一冊。
あのバーカーがこんな話を書いたとは。しかも、2004年にはディズニーで映画化されるとは。
もちろん、バーカーがかなり力を入れているという話だけに、人物・生物の奇怪な造形は際立っているし、
善悪が混沌とし闇の力の強い世界観や本人の描くイラストも美しい。
これくらい毒があるほうが子供にもいいと思うが、異世界モノとはいえ、逃避系ファンタジーの色がちょっとあからさまかな。
それから、訳文がいかにも古くさすぎる。故意?
4部作だそうなので、しばらくお付き合いしましょう。
バーカーには、昔に戻ってもっとグロテスクなホラーを書いて欲しいんだけどね。 |
イカした言葉
「死と暗黒は、話せばその分、向こうから寄ってくる」(p350) |