胃のお話

 胃に住むヘリコバクター・ピロリと言う細菌が見つかって以来、慢性胃炎、潰瘍、胃癌への理解が深まり、機能的胃腸症と言う皆さんには聞き慣れない病名も使われるようになりました。



○ 機能的胃腸症とは

 
皆さんは子供の頃から食べすぎたり、緊張したりすると、下痢をする、お腹が痛くなる、胃がもたれるなどの症状がたまにはあったと思います。そのような症状が1ヶ月程続き、患者さんの胃腸に潰瘍などのキズが無い場合に機能的胃腸症と言う症状に対する病名をつけます。
 悩み事があることを、頭が痛いと言いますね。ストレスがあることを、胃が痛くなると表現します。機能的胃腸症は神経質な方がなるとは現在は理解されていません。ストレスに対する一般的な胃腸の反応だと理解して下さい。
 症状で差し障りがあるときは、お気軽に、早めにご相談下さい。

機能的胃腸症を三つに分類すると

@ 酸分泌型 : 胃に胃酸の分泌力が充分保たれている方で、胃酸を刺激する油物、アの付く甘い物、コーヒー、炭酸飲料などがお好きな方に多いようです。内視鏡で見せて頂くと、お歳のわりに、萎縮性変化が少ない胃が多いようです。
  緊張なども誘因となり、胃酸分泌が亢進して食道に逆流するために症状が出る方は、胃食道逆流症と言います。症状は胸やけなどの定型的症状の他に、非定型的症状として、のどのイガイガ感、詰まっている感じ、胸痛、喘鳴などがあります。
  また空腹時に上腹部痛 、背部痛と、あたかも十二指腸潰瘍の様な症状が出る方は、以前は胃酸過多と言われていたタイプです。


A 胃排出能遅延型 : 消化管運動がうまくいかず胃下垂の様な胃のもたれ、膨満感、悪心等がある

B 内臓知覚過敏型 : 消化管は空腹時にも約80分おきに強い蠕動運動をします。そのたびに消化管内圧が高まりますが、多くの方は内圧を感じません。ところが、消化管内圧の高まりを感じ取ることのできる、芸術家のような、素晴らしい神経をお持ちの方がいらっしゃいます。しかし、内圧の高まりを感じると、胃痙攣の様な痛みを感じてしまいます。


ちなみにA、Bの大腸版が過敏性腸症候群で腹痛、便秘、下痢などがおこります。それぞれの病態にあった様々なお薬がありますのでご相談下さい。



○ ピロリ菌と慢性胃炎

 
慢性胃炎の多くは慢性萎縮性胃炎です。1983年に胃の中に住みついたピロリ菌を発見した、バリー・マーシャルというオーストラリアの内科医は、ピロリ菌が萎縮性胃炎をひき起こすと考え、自分でピロリ菌を飲むことによって証明してみせました。

日本人の感染者は約
6000万人といわれ、40歳以上では約8割が感染しているといわれています。どうやら子供の頃に口から入ってくるようで、大人になってから感染することはほとんどないようです。感染すると胃の粘膜に炎症をおこし、何十年も胃の中に住み続け萎縮性胃炎をおこします。

胃カメラで見ると、萎縮性胃炎のない胃の粘膜は、ピンク色でみずみずしく、若々しい印象ですが、萎縮性胃炎では、色が薄くなり血管が透けて見え、表面がゴツゴツしたりしていて、胃が歳をとっている印象です。萎縮性胃炎でも症状のない方は治療の対象にはなりません。



○ ピロリ菌と胃十二指腸潰瘍

 
萎縮性胃炎によって潰瘍ができやすくなります。潰瘍の治療として、ピロリ菌を排除するのが、除菌治療です。これは胃酸をおさえるお薬とペニシリン、クラリスロマイシンと言う2種類の抗生物質を、1週間飲むだけです。この方法で除菌できる確率は8割から9割といわれ、除菌に成功すれば、潰瘍の再発はほとんどありません。




○ 胃癌について


 
塩分をたくさん摂るほど胃癌になりやすくなることは統計上証明されていました。多くの先生は、ピロリ菌も胃癌と関係すると考えていましたが、国立国際医療センターの上村直実先生が、胃癌撲滅への大きな一歩となるような研究を世界的に最も権威のある米国医学雑誌に発表されましたのでお話します。

 呉共済病院で、胃カメラを受けている胃ポリープや潰瘍などの患者さん
1526人が、ピロリ菌に感染しているかどうかをまず調べました。非感染者が280人、感染者が1246人でした。この患者さんに平均7〜8年間にわたって胃カメラを呑んでいただいたところ、この間、非感染者からは胃癌は一人も見つかりませんでしたが、ピロリ菌感染者からは、3%にあたる36人から胃癌が見つかりました。すべてのタイプの胃癌がピロリ菌と関係しているわけではなく、日本人の約8割はピロリ菌感染者ですが、ピロリ菌が胃癌の発生に強く関係していることは確かなようで、解析の結果ピロリ菌感染者100人中10年間で5人に胃癌が発生する計算になりました。

 さらに注目されている結果は、ピロリ菌感染者のうち、途中で除菌を希望し、除菌に成功した
253人の患者さんに、平均4〜8年間胃カメラを呑んでいただきましたが、この間、胃癌は一人も見つかりませんでした。

 ピロリ菌感染者が除菌をすれば、胃癌になる危険を減らせるかどうか、大規模臨床試験の結果がLancet 2008年8月2日号に掲載されました。胃癌を手術ではなく内視鏡で治療した患者さんを、除菌をした群としなかった群に分け、胃癌の再発率を比べた結果、除菌により胃癌の発生を約3分の1に減らせることが分かりました。

 胃のお話の終わりに皆さんにお知らせします。大田区の胃癌検診の期間は9月、
10です。早期胃癌には症状がありませんのでぜひ胃癌検診を受けて下さい。


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