「祖父の形見の品を、龍泉寺というところに届けたいのですが……」
石見から聞ける話を要約すると、以下のようになります。
先日、深見の和泉正賢氏を訪ねた際、面白ひ事を聞ひた。国造神話に名高きイザナギノミコトの黄泉来訪の下りであるが、その際イザナミノミコトを地上へと呼び戻す為に用ひられたのが、件の昴であると云ふ。ところが昴は六つしか揃へられて居らず、その不完全なる力をば開放した結果、イザナミの復活も又不完全なる形で行なはれ、伝説に伝へられる処の腐れ切った『生屍(うじ)』として甦ってしまったと云ふのである。と云って七つの昴を揃へた処で死者の復活が成るわけでは無ひ。それは迷へる魂を救ふのが力であるとも云ふ。
「黄泉路と云へば、高千穂には黄泉津平坂と云ふ名の洞が有るさうですね」と云ふと、「その洞の奥で有った話だと云ふ事ですよ」と云って和泉氏は笑ふ。かつがれてゐるような気もしたが、和泉氏所有の昴を拝見するに至って、この話もあながち嘘ではあるまいと思はれる。その妖しくも美しき輝きは、さう信じさすだけの力を秘めてゐる。
一方、昴を返す先である「龍泉寺」についてですが、「龍泉寺」だけを地名として調査しても、該当する地名は見つかりません。また、寺の名前として「龍泉寺」を探しても、やはり見つかりません。これは、どんな方法を用いても一緒です。
しかし、「昴」というキーワードと絡めて調査すると、まず昴に関する一般的知識が分かります。簡単に説明すると、次の通りです。
深見という地名を探すと、熊本の阿蘇に「深見町」という地名があることが判ります。(これは架空の町です。もし実在したとしても、本シナリオの内容とは何の関係もありません)
(ワンポイント)俳優たちがここまでたどり着いたら監督は、「はい、それじゃ熊本ロケに行きます」と宣言してください。熊本までの移動は…恐ろしいことに…ロケバスで行われます。しかも、高速に乗る金はありません。途中の宿泊はすべてロケバスの中。食事は途中のコンビニ弁当やほかほか弁当で済ませます。入浴は途中の町で銭湯に入る他ないでしょう。《ちなみに、おやつは300円まで。バナナはおやつに入らないんですって》監督は、この移動の様子を適当に演出してください。俳優たちも、このノンビリした旅を楽しんでくれるはずです。
もっとも、このメタプレイに俳優たちがついてこない場合、あるいは監督に時間的または精神的余裕がない場合、このシーンはカットして一向に構いません。
視聴者の視点には、熊本空港に着陸する飛行機の映像が、「熊本空港」というテロップと共に流れます。(このシーンは、ちょっとだけ空港に立ち寄って撮影します)
熊本に到着し、深見町の役所で調べるか、町の老人に聞くなどの方法をとれば、深見町には龍泉寺と言う寺がかつてあったことが判ります。住職が亡くなった後、寺は廃寺となりましたが、亡くなった住職「和泉 正賢」(いずみ しょうけん)氏の未亡人、「和泉 佐和」(いずみ さわ)という老女が、今もこの町に住んでいることも判ります。俳優たちが常識的なものの尋ね方さえすれば、快く佐和の住まいを教えてくれるでしょう。
俳優たちが頼めば、佐和は保管されている6つの昴を見せてくれます。色は赤、橙、黄、青、藍、紫の6色です。それらは見事な桐の箱に、六角形を描くように収められています。
ここで<警戒>技能でロールに成功すると、仏壇に真新しい卒塔婆と骨壷があるのに気づきます。佐和に聞くと(これはやや失礼なことになりますので、俳優のセリフには気をつけさせてください)、悲しそうな表情で、つい先日交通事故で死んだ孫娘、「和泉 涼子」(いずみ りょうこ)のものだと教えてくれます。
ここまで確認できたら俳優たちは石見正悟に連絡を取るでしょう。正悟は、「明日の朝の便で『四つ目の昴』を持って熊本に飛んでいくので、熊本空港に迎えにきてくれ」と言います。
(ワンポイント)実際の映画の撮影なら、俳優たちが迎えにいくシーンは熊本に到着するシーンを撮った時に別撮りしているでしょう。監督がそのような発言を織り交ぜることで、プレイヤーたちにこれが「映画の撮影」であることを意識させることにつながり、メタ・プレイの雰囲気が高まるでしょう。そして、それは興味深いものになるはずです。
(もし、俳優が残ると言ったら?)俳優は別行動を取り、一部が佐和の元に残って、一部が石見を迎えに行こうとするかもしれません。その場合、残る俳優はどこかホテルに泊まる必要があることを示唆してください。何の危険も予兆されていない段階で、いきなり訪ねてきた初対面の人間が他人の家に泊まることがいかに非常識であるか、説明の必要があるでしょうか?
俳優たちが石見 正悟を伴って『四つ目の昴』を持参すると、佐和が意識を失っています。<医学>または<応急手当>の技能に成功すれば、佐和が薬で眠らされているだけで、生命には別状ないことが分かります。「ドリーム・ダイブ」を試みることは可能ですが、薬で眠らされているだけなので、特に異常は見当たりません。
やがて意識を取り戻した佐和は、「昴がない」と言って慌てます。なるほどテーブルの上には、昴を収めてあった桐箱が放置されており、中は空です。
佐和に話を聞くと、六つの昴を持ち去ったのは、佐和の孫、「和泉 賢宏(いずみ たかひろ)」。彼はどうやら、昴に秘められた力のことを信じており、それを用いて死んだ妹の涼子を蘇らせようとしているらしいのです。
死者復活の儀式が行なわれる場所は、もちろん、黄泉津平坂の奥以外にありえません。
赤 橙 黄 緑 青 藍 紫
この扉の紋様は魔術的な扉で、開くためには正しい順序で玉に触れなくてはならない仕掛けになっています。誤った順番で触れると、触れた者はSPに20点のダメージを受けることになります。
ここで俳優たちに、以下の歌を思い出させてください。
上に上げたのは、正解のうちの1つに過ぎません。この歌の読み方には、色々なパターンが考えられるのです。場合によっては「ござれ」の「ざ」で「3=黄」を押そうとしたりするなどのケースがあるでしょう。監督は、俳優が歌の中に織り込まれた数字に注目し、それと玉の色の順番を関連付けて、触れる順番に筋道が立っていると判断したなら、それを正解として構いません。
扉を抜けた奥には、不思議な光に満ちた地底世界「黄泉国」が広がっています。
生屍の女王(涼子)
サイズ : 6 速度:100
体格 :25 SP:240
知性 :20 人気: 20
FXロール:60 ダメージ: 30
技能:<格闘>
戦闘特殊効果:
その他の特殊効果:再生(1フレームで上限まで回復)
弱点:『四つ目の昴』による攻撃を受けると再生できない
『四つ目の昴』による攻撃を一撃受けるたびに、ダメージが5点減る
生屍の女王の周辺には、六つの昴が放つ6色の光が怪しく渦巻いています。黄泉の門が開いているのです。
生屍の女王を通常の方法で攻撃しても、今やその胸に輝いている六つの昴のパワーで再生してしまいます。浄化するためには、胸の中央に『四つ目の昴』を叩き込み、七つの昴の力で浄土の門を開く必要があります。
女王の胸の六つの昴の力によって、周辺から次々に生屍(エキストラ扱い、<格闘>50、ダメージ10、SP10)が復活してきます。俳優の人数や戦闘用技能の数値にもよりますが、1ターンに2d10体くらい復活してくることにしても大丈夫でしょう。もちろん、「エキストラに対する複数回攻撃」のルールを適用してください。また、俳優たちには「夢の中における製作」が行えることを示唆し、武器を作らせるようにしてください。
生屍の女王に対し、昴を持った俳優が格闘でロールして、カッコよく決まれば(人気/5以下で成功すれば)一撃で胸の中央に叩き込み、女王を浄化することが出来ます。普通の成功だと、涼子の肉体が部分的に浄化されていきます。『四つ目の昴』による攻撃のダメージは、便宜的に40点として扱います。6回命中すれば、女王の全身が浄化されます。
(ワンポイント)生屍の女王が強力すぎて、俳優が死にそうになることもあるでしょう。しかし、生屍の女王と化してしまった涼子にも、またかすかに人間の意識が残っています。俳優が適切なセリフと共に<説得>技能の判定に成功すれば、涼子は攻撃しようと振り上げた腕を止め、そのフレームは俳優に対する攻撃を行いません。また、そのターンにはエキストラ生屍も増えません。
浄化された涼子は、声なき声で「ア・リ・ガ・ト・ウ……」と言い残し、七つの昴が合わさって放たれる真っ白な光の渦の中に消えてゆきます。涼子の浄化と同時に、全ての生屍も浄化され、消滅します。後には、真っ白な水晶玉が1つ、残されているのみです。