ニブロール「駐車禁止」

桜井圭介

 WTCに旅客機が突っ込んだ翌日に、ニブロール『駐車禁止』の舞台を観た。それはまるで「自爆」のような「乱暴」なパフォーマンスだった。「過激にヴァイオレンス」というのではなく単に「荒れてるなー」という意味で「乱暴」。2000年に初演されたこの作品はもともと「駆けずり回り、ぶつかり合い、倒れ、わめき、で、また駆けずり回る‥‥だいたいそんな感じ。」としか説明のしようがない、タイトルからの安直な連想で言えば「人と車と電波の交通する東京の交差点」のような作品で、つまりそこにはこの国の「今・ここ」のリアルがたしかにあったとはいえ、むろん世紀の大惨事と交差点の衝突事故は違う。それでも9月12日の舞台のちょっとどうかと思う「乱暴」さは、「普遍」とか「原理」とか「信仰」とかの「世界標準」のリアルから遠く離れて、にもかかわらずそのあまりの「ぶっ壊れ方」が我々のこの場所の空虚な悲惨を語っているように思えたのだ。あちらも大変なことになっているようだけど一応ドラマチック! でもこっちはこっちでしょーもなくフラットなまま完璧壊れてまーす、って。
 とにかく一つ一つの動きを、狂ったようなフルスピードで突んのめりながらフルパワーで吐き捨てるように叩き出す。もともと、非ダンサーを起用し、ダンス的であるよりもむしろアクションと言ったほうがいいような、ぶっきらぼうなまでにそっけない“踊り”かたが身上で、だから通常ダンスが追求するとされる「身体運動のフォルム」の明確さなど二の次ではあるとしても、その日のパフォーマンスはあきらかに限度を超えていた。そこまでいっちゃうと、そもそも一個一個の「動作」としてすら体を成さない、それくらい「乱暴」なのだった。たとえて言えば「BPM250のテクノ」その心は「いくら速いほうがイイったって、アンタねー」という感じ。
 振り返ってみると、私は初演から数カ月おきに通算4回この作品に立ち会って来たのだが、ふつう、一つの作品を一年間さまざまな場所で何度となく繰り返し上演していけば、振付が要求するやや無理めなスピードや激しさもパフォーマーの身体になじんでいき、余裕でこなすようになるはずだ。粗削りな部分やリスキーな箇所は、ていねいにブラッシュアップされていくというか。ところが実際は、何故か回を重ねるごとにどんどん壊れていき、ついにはシステムクラシュで暴走、自爆という過程をたどった。それは、ダンスとも呼べないようなダンス「パラパラ」を踊るあのヤマンバ達が「過剰」の一途を突き進み、臨界点を超え気が付けば消滅、というのに似ていなくもない。
 今やストレートの黒髪で美白肌のあの方々が、「カフェ」な毎日を過ごされているわけでもないだろうが、新作タイトルは『コーヒー』だって。妙にさわやかじゃん。つい最近、振付の矢内原美邦と話をしたが、彼女のまなざしの先にあるものが「今・ここ」から「向こうのほう(未来・他所)からやって来るもの」へと変わりつつあるような感触が感じられた。何処へ行くニブロール。
(ちなみに新作公演と同じ日に開催されるバニョレ国際振付賞横浜プラットフォームに『駐車禁止』をもって出場するという。「一班、二班」だって。つくづく「乱暴」だ(笑)。)

初出『STUDO VOCE』2002年3月号 無断複製、転載を禁じます。

copyright (C) by Keisuke Sakurai


※旧バニョレ国際振付賞Rencotre Choregraphique Interenational de Saine St.Denis は、横浜はじめ各国のプラットフォームでの審査会がすべて終了した後、決定される。受賞者はフランスで開催される受賞記念公演に参加出来る。で、結果としては、ニブロールは落選。
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