場所とダンス(基礎の基礎その3)
リアルの条件 [8] |
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桜井圭介
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先週、15年振りの北海道・初めての札幌で、それからきのうは、群馬県の前橋でダンスを見た。全国8ケ所のダンス・スペースを巡回公演する、JCDN 企画の『踊りに行くぜ !!』。札幌コンカリーニョはレンガ造りの古い倉庫、前橋のCAMPも銀行だった建物で、どちらも天井が高く広々した、そして雰囲気のある空間だった。 普段、東京にいてそれなりにダンスを見ているわけだが、そして札幌や前橋で見たダンスも東京や大阪で活躍するダンサーつまり普段見慣れたダンサーだったりするのだけれど、「所変われば」というか、ダンスが違うものに見えたのでした。というわけで、前回に引き続き「場所とダンス」についてのお話。 たとえば、安川晶子の《解放と快楽》は、ほんの数日前に横浜の『踊りに行くぜ』(STスポット)で同じものを見ていたのだが、そのときには「こんな狭い場所でどうしてそんなに大きく動くかなー」という(前回書いたような)印象しか残らなかった。ところが、コンカリーニョの広々とした空間では、水を得た魚のようにのびのび、いきいきしていて、見ているほうにもそれが伝播するのだった。いや、STスポットが悪いわけではなく、彼女の踊りには狭過ぎたのだ。東京発の最近のダンスが「踊らないダンス」と言われたり、僕なども小さく踊ることの重要性を言ったりしているというのも、実は普段使うスペースの大きさといういわば「下部構造」がそれなりに関係しているのだ。 しかし踊るスペースのサイズは自分で設定することも出来る。ヤザキタケシの《スペース4.5》は、ステージのなかに白線とスポットで四畳半きっかりを区切り、その中だけで踊る。ダンス自体は「最小空間内における運動の可能性の探究」というようなそれなりに抽象的なものなのだが、観客のサブリミナルに刷り込まれる「男の四畳半」のイメージによって「よく晴れた休日なのに狭い部屋で独り暇と体力を持て余している独身30男が、いかに些細な由無し事で暇を潰すか」が出現する仕掛けになっている。コレ見るの2回目なのにやっぱり笑っちゃったよ、最高。 ところでこの公演、札幌ではミラクルワンダーズ、前橋ではスタッカート・オン・スタッカートという地元のグループが参加していたのだが、どちらもヨカッタ。たしかに稚拙で荒削りではあるけど、「この子たち、何やってるの?どうしちゃったの?」的な、こちらの頭が点になるワケワカラン振りが随所に見られた。それは東京=「いわゆるダンス」との距離、といえるかもしれない。地方にいて、東京のダンスシーンのトレンドなんかまるで無関係にやっているから、自然と「オリジナル」な表現(ま、デタラメってことですが)になっちゃうわけだ。これは東京の若手ダンサーたちにも見せたい!と思いました。それでも、札幌より前橋のほうが東京に近い、ということはある。デタラメ度が若干だけど薄いのよ。さてはこいつら「いわゆるダンス」もそれなりに知ってしまっているな、ってね。 そうそう、今回の巡回公演で、最大の「事件」と言えば、山崎広太(札幌、富山)でしょう。Rosy Co.を突然解散し事務所からも独立し、身ひとつ、丸裸になった山崎の「からっぽ」の踊り、やってくれましたよ、バカパワー全開! 上半身裸の「白塗り」にオレンジの布を(ローウエストで)巻きスカート状に。首に赤いチェックのマフラー、頭にはオレンジの花びらのようなリボン。という出で立ちで、ソロソロというか、イソイソというか、落語家が登場するみたいに舞台に入る。林家ペー(似てるんだよ)かと思った。踊りの基調は「ナンチャッテ暗黒舞踏」(あと大野一雄、山海塾そしてヌレエフも)。しかもかなり丁寧に踊るので本気にも見える。そして踊りながらデタラメなしゃべくりを続ける。「寒くない?」「愛してる」「あ、間違えちゃた」「伸ばしてー、伸ばしてー、もっと」「パッピプププ、パ!」「うーん、ちょっと飽きてきたかなー」。このかなりのスキゾなダンス、自己愛の相対化とイロニーそしてその反転としてかろうじて自己(愛)肯定、めめしさとマチョ、笑いとエロス、ダメさとカッコ良さ、そういう2項対立が高速のバーミックスにかけられているようでした。しかし、こんな「清水の舞台」が出来たのも、いくぶんかは「地方だから」「旅先の恥のかき捨て」というところもあったかもしれない。東京の「Rosy Co.の小ジャレた山崎広太」ファンが見たら卒倒モノでしょう。いや、間違いなくこれは、東京から遠く離れて、「ダンス」から遠く離れてもう一度リアルなダンスを見い出すこと、だったはずだ。東京でこれを踊らないでどうする! (──などと言ってたら、程なくして東京の舞台が決定した。《 Ko & Kota.Co. 室伏鴻vs山崎広太》神楽坂ディプラッツで2001年12月28,29日。)
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■JCDN『踊りに行くぜ !!』2001年10月27〜28日 札幌コンカリーニョ 山崎広太「JUNK」, 安川晶子「解放と快楽その4」, MIRACLE WONDERZ「Metalic Water」 11月6〜7日 前橋シアターCAMP ヤザキタケシ「スペース4.5(タナトス小僧のエロスな気分)」, staccato on staccato「 スタッカート・オン・スタッカートの『花道』」 |
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