大六壬の古典紹介


はじめに

 大六壬の本は、日本ではごく少ないですし、台湾でも、最近ようやく増えてきましたが、風水や四柱推命などに比べると非常にわずかです。
 まして、古典の解説となると、断片的には知ることができますが、概括的な紹介は日本ではいまだ見たことがありません。
 そこで、私、浅学非才の身ではありますが、意を決して、大六壬の古典についてざっと紹介することとしました。
 もとより、すべての古典を読破したわけではないので、さらに私の知識が増えれば、この章も増えていく予定です。
 さきほど、「日本ではいまだ見たことはない」 と言いましたが、香草社から出ていた「新五術占い全書」には六壬本の紹介がありました。しかしながら、「新五術占い全書」はしばらく前に絶版となってしまいました。(復刻していなければ)
 なお、ここでの古典とは、第二次世界大戦以前ぐらいの意味と思ってください。平安、鎌倉の頃ではありません。
 手に入りやすく、読みやすく、かつ重要性を鑑みて、順に紹介することにします。私の独断と偏見による順序ですので、あくまで参考まで。
 書名のみ挙げています。著者や出版社は参考文献のページをみてください。




六壬大法、六壬大法心得(六壬演課三伝に所収)

 日本で手に入る古典といえば、「六壬大法」でこれは香草社から出版されています。また、「六壬大法心得」は「六壬演課三伝」に解説があります。
 私は透派ではありませんが、この2冊は日本で出版されていますので、手に入りやすいということで、トップバッターにあげました。
 透派については、日本にも何人か(あるいは何十人か。まさか何百人ということはないと思いますが) 秘伝を伝承されている方がおられるようです。(私は全く面識がありませんので、透派については他の方に尋ねて下さい)
 「六壬大法」についていえば、簡潔にまとまっており、よい詩賦だとは思いますが、簡潔すぎてある程度六壬をやった人でないと活用は難しいでしょうし、その真意も汲み取ることができないでしょう。心得も同様です。
 なお、透派の六壬(六壬だけではないが)は一般的な方法と違った独自の方法(例えば三伝の出し方など)があるので注意が必要でしょう。それが正しいのか誤りであるのかは私には判定しかねます。ただ、他書とは違っていますよと言っているだけですので、念のため。



占事略決

 陰陽師安倍晴明が書いたとされる本で、これは日本オリジナルで、中国や台湾ではまず手に入らない古典です(笑)。
 これについては、「安倍晴明「占事略決」詳解」(松岡著、北斗柄氏です)に詳しく解説があります。
 ただ”これ”で初心の方が六壬を学ぶのは無理で、また現代の大六壬とも違った部分が多いです。あくまで研究者向けの書であり、”第一線”の占い師が読む本ではありません。
 しかしながら、このような本がすでに平安時代に書かれていたというのは、私には感動ものです。まあ不朽の名作「源氏物語」だって平安時代に書かれたわけで、とくに驚くことではないのかもしれません。こと左様に、平安時代というのは、文化的には大変すぐれた時代だったのでしょう。(まあ占いが文化なのかという議論はあるでしょうが)
 万人の必読書とまではいいませんが、六壬に興味のある方はぜひ「安倍晴明「占事略決」詳解」をご一読ください。

 この部分については、北斗柄氏のブログに厳しい意見を書かれてしまいました。
 ”これ”というのは、「占事略决」を指すのであって、北斗柄氏の著書を指しているつもりはなかったのですが、確かに読み返すと、北斗柄氏の著書を指すようにとられてもしかたありません。また、”第一線”というところも、実占家という意味で、実占家なら先に読む本があるべきでしょう、という意味だったのですが、北斗柄氏ならびに皆様には不快感を与えてしまい、大変反省しております。申し訳ありませんでした。
 この部分は全面的に削除したいところですが、自戒の意味を含めて、そのままにしています。
 もとより北斗柄氏の六壬に対する姿勢、知識、識見はすばらしいものであり、また著書もわかりやすく書かれているものです。しかもソフトまで付いており、六壬をわかりやすくしようとする氏の努力には頭が下がります。
 六壬を万人に広めようという考えは私も同じつもりです。

以下は、私の自戒のため、北斗柄氏のブログからそのまま転載しています。 原文は下記サイトにあります。
http://d.hatena.ne.jp/hokuto-hei/20080405#c
ただ、そのままといっても、テキストのコピー&ペーストなので、枠線とかは省略しています。

---------------------------------------------------

私にとっては酷評だね


hirotoさんて方のサイトでは六壬をあつかっているのだけど、「大六壬の古典紹介」というページがあって、占事略决もそこで取り上げられている。で、占事略决に対する評価で最初に来るのが、

「ただこれで初心の方が六壬を学ぶのは無理で、また現代の大六壬とも違った部分が多いです。あくまで研究者向けの書であり、第一線の占い師が読む本ではありません。」

確かに、陰陽道史総説所載の略决そのものとかだとそうかもしれない。ただ、このページでは、この評価の一文の前に、

「これについては、「安倍晴明「占事略決」詳解」(松岡著、北斗柄氏です)に詳しく解説があります。」

とあって、略决のテキストとしてhirotoさんの念頭にあるのが、拙著『安倍晴明「占事略決」詳解』のようだというところが、私にとっては酷評と感じさせてくれるわけだ。

しかし、

「あくまで研究者向けの書であり、第一線の占い師が読む本ではありません。」

って拙著は実占の役には立たないとでも言いたいのだろうか?初めて六壬に触れる人でも最低限の占いはできるようにと、古六壬にも近代六壬にも対応している課式の作成プログラムを添付し、最低限の吉凶の判断方法も書いたわけなんだが。

三伝の出し方もif 〜 then 〜, else if 〜 then 〜の形態に落とし込んで、プログラミングの素養のある人なら、素直にプログラムに変換できるように留意して書いたんだけどなぁ。そういう努力がhirotoさんに伝わらなかったのなら非常に残念だ。

それと素朴な疑問として「第一線の占い師」って研究しないものなんですかね。

これでは最後に、

「万人の必読書とまではいいませんが、六壬に興味のある方はぜひ「安倍晴明「占事略決」詳解」をご一読ください。」

とあってもゲンナリだよね。

-----------------------------------------------------

 以上が北斗柄氏がブログに書かれたコメントです。全く申し開きができません。
 何度も書きますが、「占事略決」自体は古い六壬であって実占に役に立つかどうかは私には判断できませんし、それ自体で六壬を学ぶのは難しいと思いますが、北斗柄氏の「「占事略決」詳解」の解説(六壬一般を含めての)は一級品ですので、一読を薦めます。



大六壬探源

 大六壬の古典と言われるもので比較的ポピュラーなのは、「大六壬探源」でしょう。もっとも中華民国初めの頃ですので、古典というにはちょっと新しすぎですね。
 著者は「命理探源」でも有名な袁樹珊です。前半は大六壬の見方を説明し、後半では古典というか古い詩や所説、歌訣などを紹介しています。さらに最後の方で、「占卜一班録」という自身の六壬の実例を紹介しています。この「占卜一班録」は中井瑛祐著の「大六壬占術」に翻訳が所収されています。
 この書は、大六壬の中の(新法の)標準といってもいいかと思います。著者は占術に限らずありとあらゆる書を読み、比較検討して書いていますので、異端というところはまずありません。正統派といえます。
 後半はともかく、前半はわかりやすく、和訳本が出てもよいと思うのですが、まだ出ていないようであります。もっとも、台湾においてすら、最近まで手に入りにくかったのですから、和訳本が出ていないのは無理もないかもしれません。
 しかしながら、うれしいことに、このほど第二版が台湾の武陵出版から出て手に入れやすくなりました。日本でも、台湾の書籍を扱う本屋さん(鴨書店など)がありますので、そこから入手するとよいでしょう。




大六壬尋原

 次に有名な古典といえば、「大六壬尋原」でしょう。
 この本も比較的よく整理された本で、神殺や図がちょっと煩わしいですが、余分なところはほとんどありません。一部の通信教育ではこれがテキストと使われているようですし、その他の六壬本でもこの本を引用、あるいはもろ翻訳したものが使われています。
 特徴としては、審象精薀のところの各項目の始めに、吉神と凶神が挙げられていること、その項目についての着眼点が分けて記載されていること、そして六壬による推命が章を分けて書かれていることでしょう。
 本書の始めに例言があり、その部分にこの本の特徴が述べられていて全部訳したいところですが、次もありますので、ここでは省略します。古書の引用が多いのですが、この本は持っていて損のない本です。




大六壬指南

 はじめのころはあまり重要性を感じていなかったというか、内容がわかりにくかったのですが、最近はこの本の重要性を認識してきました。
 明から清の時代の陳良謨という人の著作で、巻一は「心印賦」の解説、巻二は「指掌賦」の解説、巻三は「会纂」、巻四は「占験」、巻五は「神殺」となっています。
 「心印賦」の解説と「占験」を読めばいいと思います。「神殺」は表になっていて便利ではありますが、多すぎて迷います。神殺については、古典などよりは今の解説書で勉強した方がいいです。
 「占験」とはいってみれば実占例集であり、豊富な実例が示されています。
 注意しなければいけないのは、「占験」は古い十二天将の取り方をしているとか、時折昼貴人と夜貴人が逆になっているとか、今の六壬のやり方ではない方法をとっていることです。さらに、どうしてこういう占断を得たのかがわからない、ということがままあります。
 よって、注意深く読む必要があり、初心者にはお薦めしません。ただし重要な本ではあります。幸い、武陵出版より陳剣著「注解大六壬占験指南」という解説書が出ていますので、この本を手がかりに読むといいでしょう。




六壬粋言

 清代劉赤江という人の著作で、前半は「畢法補談」で「畢法賦」の解説であり、後半は「指南匯箋」で「大六壬指南」の解説です。その後に実占例が挙げられています。
 先に紹介した秦瑞生氏は、この本は必読書であると言っています。粋言(エッセンス)というだけあって、古典を自分なりに十分咀嚼し、解説をほどこしているのがよくわかります。
 初心者にはかなり難しいと思いますが、とりあえず大六壬をひととおりマスターした人ならば、挑戦してみる価値はあると思います。ただし、私の経験からいうと、理解するのには時間がかかります。ただ、「畢法賦」「大六壬指南」を読む時には非常に重宝しますし、わかりやすく独自の整理の仕方をしています。




畢法賦

 これは一冊のまとまった本ではなく、古くからある詩賦です。作者ははっきりしませんが、宋代の凌福之だといわれています。前に書いた「畢法補談」の元ネタです。
 今昔のほとんどの六壬の本に引用されており、これを読まずしては大六壬は語れないといってもよいくらいのものです。
 本文は七言百条、わずか七百文字しかありません。まるで般若心経のようですが、まさに同じで、単にこの賦だけ読んだのでは何のことかわかりません。注釈書が必要です。
 その他、非常にわかりやすい注釈書として、最近、(といっても結構前ですが) 秦瑞生著「畢法賦精注詳解」が武陵出版から出ています。この本は例も豊富で、一句一句を丁寧に解説していますので、非常にわかりやすいです。「畢法賦」を理解したいのなら、一読をすすめます。
 とにかく、「畢法賦」については、大六壬を学ぶ人は、その存在を知識として知っておくべきと思います。
 なお、私のページにも簡単な訳と解説をつけて載せています。「畢法賦百条解説」を参照してください。




壬学大成六壬{ヤク}

 これは古典というほど古くない本です。前書きにあるように、古今東西の古典の論を集約した本です。著者は虞山蒋問天ですが、いつのころ書かれた本かははっきりしません。
 「六壬学教科書」と銘打っていますが、確かに始めの方は六壬に関する知識を簡潔に述べています。しかし、課体編、断法編となると、さまざまな古典から抜書きしており、教科書というような本ではなくなります。ただ、抜書きですから、オリジナルよりは分量が少なく簡潔です。また実例が全くありませんから、応用の方法はわかりません。
 ところで、どうでもいい話ですが、私は、集文書局のポケット版を持っていて、値段が安く手軽なので、ちょっと疑問に思ったことや古典で確認したいことがあると、この本か范[イ]文著の「天文易学六壬神課」(この本も手軽)をパラパラとめくります。そういう意味では持っていて損はない本です。ポケット版をおすすめします。




占卜講義

 手に入れやすいという意味では、韋千里の「占卜講義」という本があります。「韋氏推命学講義」という中村文聡氏の和訳本がありますが、同じ著者です。ひょっとすると同氏が和訳本を出しているかもしれません。私は寡聞にして和訳本が出ているかどうかは知りません。ただし、中井英祐氏の「大六壬占術」には実例のみが訳されて載っています。
 どうせ中国語で読むなら、まず「大六壬探源」から読むべきでしょう。中華民国時代の本で、よくまとまってますが、とくに目新しいことはありません。「大六壬探源」とは違い古書の引用がほとんどです。しかし薄くて手軽な本ではあります。




大六壬大全

 私は武陵出版のものをもっているのですが、非常に読みにくいです。編著者は郭御青で、康煕時代に書かれたようですので、17世紀後半ごろの本です。
 内容は、上巻は神殺や基本的な詩賦の解説、中巻は「課経」、下巻は「畢法賦」「分野」でそれぞれの解説なのですが、誤記も多く、少なくとも初心者には薦められません。
 と以前は書いたのですが、中級以上の人には「課経」は必読かもしれません。しかし、無理して中国語の本を読むよりは、阿部泰山の本を読めば十分のような気がします。




大六壬心鏡

 宋代の徐道符の書いた本と言われていますが、ほんとのところはわかりません。内容は、課体の解説、十二支十二天将の意味、占断の方法です。占断の方法といっても実例はありません。
 この本も読みにくく、また用語も独特であり、初心者には薦められません。ただ、私は今この本をパラパラと暇な折に読んでいるのですが、秘伝的な部分が散見されます。そのうち、秘伝と思われる部分を取り出して検証、紹介してみたいと思いますが、優先順位は低いです。




六壬断案

 これは、六壬の実占例集というべき本ですが、私は原書は持っておらず、「大六壬断案新編」という注釈書を持っているだけです。
 「六壬断案」そのものは、宋代の邵彦和の占例をまとめたもので、天時(気象占)から雑占(射覆など)まで218の事例が収録されています。そのなかには一つの課式で二つのことを占う例など興味深い例が満載です。
 この本は本当に面白くかつためになる本で、とくに数目の使い方などは勉強になります。この本は少しずつ翻訳して紹介しようと思っています。ただ、ところどころ私にも注釈を読んでさえわからないところや、課式の立て方で独特のところがあるなど、初心者には手に余るところはあるでしょう。しかし、ある程度六壬を勉強したら、一読を薦めます。



大六壬金口訣

 本は持っていますが、中身はあまり読んでいません。
 というのは、「口訣」というように、詩賦の形で簡潔に書かれており、その意味するところが判然としないためです。
 解説を読んでも、私にはほとんど理解できず、今のところ読まずに放置しています。読む本がなくなったら、再挑戦するつもりです。
 と言っていたのですが、今結構読んでいます。ただ、私の持っている本の解説はあまりよくなく、解説は参考にせずに原文だけ読んでいるところです。参考文献に書いてある本とは別の本を買ったほうがいいでしょう。
 金口訣自体、普通の六壬とは少し違います。初心者は読まないほうがいいと思うのですが、この本を金科玉条の如く扱っている術者を時折見かけます。日本にも熱烈なファンがいるようです。




大六壬苗公鬼撮脚

 現在翻訳中で、途中までは公開しています。内容は「鬼撮脚上、中、下巻」を参照してください。(下巻は未翻訳)
 もっぱら射覆のための本といえるでしょうか。射覆というのは、隠されたものを見抜くということで、 相手から占いの目的を聞く前に占いの内容を当てるものです。 射覆でよく行われるのは、「私の持っているものは何でしょう?」という問いに対する答えを占いで当てるというものです。まあ、座興ですな。
 射覆の本ですので、当然のことながら十二天将や十二支等の象意について、詳しく解説してあります。




大六壬玉藻金英

 著者は劉日新ですが、いつの時代の人かはわかりません。文献マニアではないので、別に調べようともしていませんが。
 内容は、六壬の風水への応用です。家宅秘旨と陰宅秘旨の二巻に分かれています。
 六壬による風水というのはあまりポピュラーでなく、解説書もほとんどありません。そういう中では貴重な古典といえます。この中には、風水をみるための独特の課式(天地盤)の立て方があります。ただし実地に応用できるのか(すなわち実例があってそれが適当なのかどうか)は私にはよくわかりません。台湾では割と簡単に手に入るので、興味があれば読んでみるといいでしょう。あまりわかりやすい文章ではありませんが。





まだ十分に咀嚼していない古典については、適宜補足追加していくつもりです。