七政占星術の基礎 その6


 その5までで星図を完成させました。
 これまでは、西洋占星術の看方を援用して、七政占星術の解説を試みてきましたが、その6からは、七政らしい星図の読み方を解説していきたいと思います。
 七政らしい読図の方法を知るためには七政の基礎的な専門用語をある程度は理解する必要がありますので、まずはそれから入ります。何事も基礎が重要です。
 とはいえ、目的は星図を読みこなすことであり、言葉をやたらと覚えることではないので、用語そのものの意味は、「七政占星用語集」にまとめておきます。(都度追加しますので、最初は不十分かとは思いますが)


 −このページの目次−
   1.入門四十四看法
   2.二十四要法
   3.あらためて七政四餘の看方、学び方について
   4.専論十主
   5.最緊四事
   6.歩天経訣
   7.星曜歌訣について
   8.主星守宮歌




1.入門四十四看法

 「入門四十四看法」という呼び方は、『星平会海』にある呼び方です。看法とありますが、「四十四基本用語」といった方が適当のように思います。
 で、それらの用語の意味は「七政占星用語集」を見てもらうとして、ここではいくつか補足説明を加えることにします。
 この四十四の用語のうちとくに重要な言葉が、“宮主”“度主”“対”“合”“衝”“拱”“夾”“会”“迎”“送”です。
 宮主、度主のうち重要なのが、命宮の宮主すなわち命主、命度のある二十八宿(このことを単に命度ということが多い)の度主です。例えば、2012年6月6日7時半のときの命宮は未宮です。未宮の宮主は月(太陰)ですから、命主は月ということになります。また、命度は未16度で井宿にあたるので、命度主は井宿の主星である木星ということになります。
 対、合、衝、拱、会というのは、星や宮の位置関係です。西洋占星術でいうアスペクトです。
 対と衝は同じで、約180度の関係(オポジション)です。衝の場合はとくに剋関係を意識した言葉です。
 合と拱は約120度の関係(トライン)になります。あわせて合拱という言い方をすることも多いです。
 会というのは約0度の関係(コンジャンクション)です。
 七政では90度の関係、すなわちスクエアはあまり重視しません。しいていえば“刑”ということになるのでしょうが、入門四十四看法では触れていません。
 さて、これらの用語で注意すべきは、いろいろな専門用語との混乱です。
 例えば、天文学用語で合というのは、地球から見て惑星が太陽と同じ方向に見える(実際は太陽の光で見えないわけだが)位置を言い、衝とは地球から見て惑星が太陽と逆の方向に見える位置を言います。天文学用語でいう合は120度ではありませんし、合や衝はあくまで太陽が基準で惑星間の位置を示す用語ではありません。
 四柱推命などで会という場合は、半会というように120度の関係を指す場合が多いので、七政で使われる言葉と混乱しないようにしなければなりません。また、拱は四柱推命では単に挟むという意味で使われることもありますので、これも注意を要します。
 夾は文字通り“はさむ”という意味です。
 迎と送は七政ならではという用語です。例えば大限が寅宮で卯宮に星がある場合、隔宮迎といいます。同じように二十八宿の場合は隔度迎といいます。逆に星からみた場合は寅宮が迎ということになります。送とは迎の逆でもう過ぎ去ったことをいいます。
 同じような言葉に前後、引従という用語があります。それぞれ宮に使うのか宿に使うのか星に使うのかという場面によっての違いがあるようですが、位置関係としては、前と引は同じで、後と従は同じです。



2.二十四要法

 「二十四要法」は『星平会海』では「入門四十四看法」の次に配されています。
 これは七政占星の看方のポイントを二十四の詩で示したものです。ここでは詩の原文は紹介はせず、ポイントだけを述べることにします。

(1)看三主
 三主を見よ、ということですが、三主とは宮主(命主)、度主、身主の3つです。身主というのは身宮の宮主のことです。これらの星の廟旺陥落、生剋(星と宮や宿、星どうしの関係)、化曜星、神殺などをみて判断することがまず第一に看るべきこと、重要なことであるということをいっています。
(2)論四時
 四時を論ずるとは季節の気を見ることです。暑さ寒さと陰陽の関係をみます。
(3)分昼夜
 昼夜を分けるというのは、昼生まれか夜生まれかということです。
 昼生まれの場合は、日木土紫計水孛が陽宮陽度にいるのがよく、夜生まれの場合は、月火金羅が陰宮陰度にいるのがよいとされます。
(4)弁陰陽
 陰陽を弁えるとは太陽と太陰(月)の関係を見るということです。詩を訳すと、太陽と月がバラバラで暗いと孤独で、子供を損なわなければ妻を損なう。太陽と月が明るければ妻子は盛ん、光がなければ父母と生別する、となります。それを字義通りとるのはどうかと思いますが、要は、太陽と月の明るさと位置に着目せよ、ということでしょう。
(5)推遅留
(6)考伏逆
 以上の2句をあわせて述べます。
 遅は文字通り進みの遅いこと、留はとどまること(動かないこと)、伏は太陽と重なって見えなくなること、逆は天球上の逆方向に進むことです。。
 木火土金水の五星、すなわち五惑星は、それぞれの進む速さ(あくまで天球上の)がそのときどきで異なります。また通常は十二宮位を逆に進む(亥→戌→酉という順)のですが、ときどき後戻りします。天文用語でいう逆行です。
 天文学的には、逆行現象というのは見かけの問題ですが、それは(天文学用語でいう)合や衝の時期に起こります。地球と惑星との軌道上の速度が異なり、外惑星については地球が追い越し、内惑星の場合は地球が追い抜かれますので、このときに惑星の天球上での速さが極端に変わったり逆行したりします。このあたりは他の天文関係のサイトを参照してください。
 ところで、天文学用語でいう合や衝の位置というのは太陽との位置関係によるわけで、とくに合の位置は太陽の方向に惑星があることになりますから、すなわち見えないということになるわけです。
 この惑星の動きに着目せよというのがこの詩の趣旨です。これは七政だけではなく西洋占星術でも重視していることです。
(7)明禄貴
 禄貴を明らかにせよとは、宮主や身主、度主が禄宮や貴宮にあるかどうかを見ます。禄宮とか貴宮とは、十二宮位の神殺で判断します。例えば天乙とか玉堂とかは貴宮といえますし、飛刃とかは殺宮(悪い)です。
(8)利生旺
 生旺を利するとは、命主、身主、度主が生旺の宮にあることをいいます。前の明禄と似たような話です。
(9)忌断躔
 断躔を忌むとは、七政四餘が忌む宮のことをいいます。それを訳しますと、木星は辰宮と酉宮で失い、火星は辰宮と酉宮を恐れ、土星は亥宮と寅宮を走り、金星は卯宮と戌宮で溶け、水星は戌宮と午宮で漂い、刑都は寅亥卯で愁い、紫気は酉宮を憂い、月孛が戌宮にあるのを三丘(墓地のことか?)とし、羅[ゴウ]は酉宮亥宮を忌み、日月は光なく卯酉にあるのはよくない、とあります。
(10)逢死絶
 死絶に逢うとは、命主、身主、度主が死絶宮に入ったり、大限や小限が死絶宮になったりすることをいいます。死絶とは十二運でいう死や絶のことですが、悪い神殺のときも含まれると考えていいでしょう。
(11)太歳衝
 太歳とは流年干支のことですが、それとの衝はよくないということです。太歳との衝というのは歳破です。歳破という神殺はかくも重く見るということでしょうか。
(12)神殺露
 神殺が露わとありますが、流年月神殺が巡ってくることを指しているようです。流年月神殺は数多くありますので、取捨選択が重要です。それについては、別に説明したいと思います。
(13)寿令泄
 寿令を泄らすとはわかりにくいので、『星平会海』にある例を示します。納音が火に属する命(例えば甲戌年生まれ)で夏生まれで、命度が参宿、度主が水星の場合、大限なり小限が胃宿(度主は土星)に行けば、寿令ともに泄らすといいます。すなわち、土は夏生まれの火命を洩らしますが、同時に度主の水星を剋するわけです。すなわち極端に命が弱くなるわけでよくありません。
(14)剋命度
 『星平会海』にはくどくど説明がありますが、要するに命主や度主を宮や二十八宿が剋するのはよくないということであります。その程度というのがありますが、詳細は省略します。
(15)六甲空
 いわゆる空亡のことです。命主や大限、流年支等で空亡が重なれば死は疑いなしと注釈にあります。そこまでではないにしろ、空亡の象意(中身がない)が出てくることになります。
(16)四刑忌
 註には、これは4つの賎格にあたることを刑忌というとあります。また解釈には、金星が寅宮にある、土星が巳宮にある、火星が酉宮(牛角とありますが金牛のことでしょう)にある、水星が子宮にあることをいっています。
(17)値難[キョウ]([キョウ]は木へんに号)
 註によれば、値とは正月二月の太陽の類い(冬の太陽で勢いがない)、難とは八殺宮の主とありますが、疾厄宮の主星のことでしょう。[キョウ]とは天囚星、天耗星のことだということです。ただし、八殺宮については、別の説もあります。(判田格師の『七政四余』に八殺宮が載っています)それらを命主、身主、度主、あるいは行限の主星が犯せば「雪上に霜を加える」ような悪さだということだそうです。
(18)怒失令
 失令を怒るとは、まさに季節的に弱い星のことです。春生まれの土星、夏生まれの金星、秋生まれの木星、冬生まれの火星で、これらを黒道の星としています。何らかの救いがあればいいのですが、なければ悪いということになります。
(19)殺畳殺
 殺に殺を重ねるとは字義のとおりで、凶の神殺が重なると悪いということです。註ではとくに天雄とか地雄、劫殺亡神が取り上げられていますが、とにかく凶殺が重なることはよくありません。
(20)鬼見鬼
 鬼が鬼を見るとは、命主や身主、度主に対して、大限、小限、流年、あるいは剋する星が重なることを言います。例えば度主が木星の場合、大限で亢宿(金星が主星)に行き、流年が金星で三合や対になった場合に、鬼見鬼となります。
(21)利添利
 利に利を添えるとは、鬼見鬼の逆であり、生じる場合をいいます。
(22)空中空
 ここでいう空とは、いわゆる空亡(旬空)のほか、天空を指します。太歳の次を天空殺といい、太歳の後を驀越殺といいますが、これに空亡が加わることをいいます。
(23)扶陽勢
 陽勢を扶けるとは、命度主と太陽との関係をいっています。また命度主以外の星が太陽によって勢いづけられ、その星が命度主を剋する場合は非常に悪いとします。
(24)三滅関
 三関とは、初関、中関、末関で、これは十二宮位の深さを示しています。太陽は十二支を逆行していきますが、例えば子の初関とは丑宮から子宮に入ったばかりのとき、すなわち子の初度、中関とは子宮の真ん中、つまり子15度、末関とは子の29度ということです。凶の神殺のある位置によって悪い時期が変わってくるというものです。このことはおいおい解説していきたいと思います。

 以上で二十四要法の説明は終わりです。読めばわかるように、要するに、命主、度主、身主と宮、宿、星、神殺、空亡等と太歳、行限(大限、小限)などとの関係をよく見なさいと言っているわけです。
 私は、七政四餘の看方はこの二十四要法に尽きるといっても過言ではないと思っています。とまあ、そこまでのことはないにしても、七政四餘の考え方の基本であるということは言えるのではないでしょうか。このことは別に紹介する占例を見たときにわかると思います。



3.あらためて七政四餘の看方、学び方について

 ここまで説明したところで、あらためて七政四餘の看方について考えてみようと思います。
 「七政占星術の基礎その1」および「その2」では、西洋占星術との対比で七政占星術の星図とか象意とかをあげました。そこで言いたかったことは、七政占星術は西洋占星術とは別に発達したものではなく、基本的なところでは同じような考えに基づいて作られている、ということです。ということは、七政占星術の看方のひとつの方法として、西洋占星術で使われる看方と同様の看方ができると考えます。
 例えば、西洋占星術では星と宮との関係やハウスとの関係をみますが、そういう看方が七政でも可能ですし、実際行われています。また、星と星との関係(角度)を見る方法もあり、これも七政でやられている方法です。
 しかしながら、西洋占星術にはない考え方が七政占星術にはあります。それは、五行思想であり、またそれに基づく神殺であり、行限であり、また格局という考え方です。とくに五行思想というのは独特です(似たような考えが西洋にないと言っているわけではありませんので、念のため)。中国占術に共通の思想ですが、自然界は五行によって成り立っているという前提に基づく、ある種演繹的な思想です。この五行思想に当てはめて水星、金星、火星、木星、土星と名付けられたわけです。
 そのほか、紫気という全くの仮想的な星を用いていることも違いの一つですし、十干化曜星のように、七政四餘の性質が生まれ年によって変わるというような発想(広い意味で神殺といえる)も西洋占星術にはないものでしょう。

 ここでいったん、七政四餘の書において、七政四餘の看方がどういうふうに書かれているかを見てみましょう。
 まず『七政四余』(判田格著 国書刊行会)です。この書は(占術専門の書店でない)一般書店に売られている本としては初の本格的な七政四餘に関する本です。いわゆる原書に忠実な解説書であり、おススメの本であります。
 で、この本では基本的な用語を説明した後、割と早く格の解説に入っていて、そのあと七政四餘と宮度の関係については原文訳を載せています。占断例をみると、格および星と宮度の関係、さらに神殺を用いて判断を下しているようで、七政四餘の基本に則っていると思います。これで十分細かい判断ができており、師の力量と七政の深さに感心します。ちょっと面白いと思ったのは、241ページの「実例の女性は高い場所が苦手な人になる」という判断で、これには私もびっくりしました。(決して悪い意味ではなく、そういう象意の取り方もできるのかと感心したのであります)
 この本の看方では、まずは格のどれに当てはまるかということになります。どの格に属するのかを調べる時間はかかりますが、その作業自体は(こういうと何ですが)、機械的でわかりやすい方法だと思います。
 最近(といっても2008年)台湾で出版された『七政四餘快易通』(白漢忠著 大元書局)は質疑応答形式のわかりやすい本です。もちろん中国語がわからない人には読めませんが…。
 この書の順序も基本用語の説明の後、格局の話になっていて、そのあと七政四餘と宮宿との関係、そのあと二十四秘法(二十四要法)、李燈問答や貴格とか十二宮(命宮とか財帛宮とかの各論)という話になっています。この本も同様に格局の話が先に出てきています。
 私思うに、この順序は、七政の原書中の原書である『果老星宗』にしたがった結果であり、格局というアプローチによって、星図の着眼点をさぐるという看方だと思います。これは別に七政四餘だけでなく、四柱推命(とくに『淵海子平』)にもそういうところがありますし、奇門遁甲でもそういうところがあります。ただ七政四餘の場合には、貴格も忌格も当てはまるものがたくさんあって、その中のどれを取捨選択するかというプロセスを経ることになり、四柱推命とかとはその点で異なります。
 では、みな格局を重視するのかといえばそんなことはなく、七政と称する本でも格局にまったく触れない本もありますし、触れるのは触れるのですが、最後の方で触れる本もあります。とくに西洋占星術をもとにしている七政三王は、格局ということはほとんど触れません。
 私がかねてから愛読している『星平会海』はというと、格局は後回しになっています。『星平会海』の順は、基本的なことの説明のあと、「星曜入宮歌」「星曜躔度歌」「星曜交会歌」「星曜照宮歌」などの星曜と宮や宿との関係を述べた後、「入門四十四看法」等の考え方、それから十二宮論(財帛とか兄弟とか)があり、格の話は終わりの方に出てきます。『星平会海』の考え方は、星とその宮や宿との関係で星図を読み解き、最後にそれが忌格なのか貴格なのかパターンづけするというアプローチで、最初にあげた二書とは考え方が異なっているように思います。それぞれの中身はほとんど同じなんですけども。
 私は(かみさんにもよく言われますが)あまのじゃくなので、『果老星宗』ではなく『星平会海』に近いアプローチのしかたをしようと思います。もちろん『果老星宗』や他書も適宜参照するつもりです。



4.専論十主

 「専論十主」は『星平会海』では始めの方で出てきますので、2の「二十四要法」からさかのぼることになりますが、主星の重要性をあらためて説くという意味で、ここにとりあげようと思います。

(1)命主
 原詩は「命主高強一世栄、若還落陥苦期梶A相逢貴格須云貴、遇悪応知不善終」
 意味は、命主が強ければ一生安泰で、逆に弱ければ一生貧苦である。貴格を得れば必ず富貴で、弱くてさらに悪い神殺等がつけば終わりはよくないということです。
(2)身主
 原詩は「七強倶愛更閑宮、計孛来穿襁褓凶、[ショウ]得所躔度経度正、少年事業擬[キ]龍」([ショウ]はにんべんに尚という字です)
 七強というのは強い宮のことで、命宮、官禄、夫妻、田宅、男女、福徳、財帛をいいます。閑宮というのは兄弟宮のことです。襁褓というのは赤ん坊を背負うときに使う帯とおくるみです。また[キ]龍というのは龍の紋様です。ということで、意味は、身主は七宮や兄弟宮にあるのがよく、計都月孛が来るのは凶、もし躔度経度が正しければ、若くして成功する、という意味です。註には、身星はまさにその人の一身を示すとあります。
(3)恩主
 原詩は「恩居恩地喜非常、若在仇郷富不長、福禄二垣無悪攪、限行至此慶難量」
 恩主というのは、命宮の恩星のことです。恩星は「その2−4.十二宮位と七政四餘」で示しました。また恩地とは恩星が主星になる宮位、仇郷とはその宮位の仇星が主星となるところの宮位です。ちょっとややこしいかと思いますので例で示します。例えば命宮が辰宮の場合には恩星は土星(七政をとります)です。土星が主星となる宮位は子丑宮となります。この子丑宮が恩地というわけです。子丑宮の仇星は水星で、水星が主星となっている宮位は巳申です。これが仇郷というわけです。
 ということをふまえて、意味は、恩主(恩星)が恩地にいるのは非常によく、もし仇郷にいれば富は続かない、福徳官禄二宮に悪い神殺がなければ、行限に至れば必ず発福する、ということです。
(4)難主
 原詩は「難居難地事如何、大限行来災病多、若在陥中並用地、縦然填吊得平過」
 難主も恩主と同じ考え方です。「その2−4.十二宮位と七政四餘」を参照してください。註の例にしたがって説明すると、例えば子宮の場合難星は木星となり、難地は寅亥宮となります。このとき子宮の用星は金星であり、用地というのはこの金星が主星となる辰酉宮になります。
 また吊というのは吊客のことでしょうが、まあ凶の神殺全般ととらえていいかと思います。
 意味は、難星が難地にあって、大限がその宮に至れば災いや病が多い。もし難星が陥であって用地にあれば、たとえ凶殺が同宮しても平穏に過ぎる、というように意味です。
(5)財主
 原詩は「財主帰垣古石崇、重空無実范丹同、若教飛出為恩用、定主嚢箱晩景豊」
 財主とは財帛宮の主星で、命主と考え方は同じです。帰垣というのはその財主が主星となる十二宮位に財主が入ることです。
 意味は、財主が帰垣すれば富を得、陥だったり空だったりすれば貧乏である、もし財主が恩用となれば晩年は豊かであるというような意味です。ちなみに、石崇は金持ちの代名詞であり范丹は清廉な官吏で貧乏役人の代名詞です。
(6)田主
 原詩は「田宮田守祖多遺、空陥須教自鬻之、忽遇飛高逢貴格、壮年興造遍東西」
 田主は田宅宮の主星で考え方は同じです。意味は、田主が帰垣すれば祖業をさらに発展させる。もし空亡や陥になれば必ずこれを売る、というようなことです。田宅というのは不動産ですが、祖業というか先祖代々の事業という意味もあります。
(7)妻主
 原詩は「七位逢生坐実中、玉人賢淑賽花容、地喪定損兼逢難、妾奪妻権金火鎔」
 考え方は他の主星と同じです。妻主が強ければいい妻を持ち、もし陥であったり地喪星があったりすれば、妾が妻の座を奪うとします。
(8)男主
 原詩は「孤陽天狗最難招、独孛如存逆似梟、能得作恩無殺難、五枝丹桂二梅饒」
 考え方は他の主星と同じで、男女宮の主星です。男女宮は子供を示す宮です。意味は、ただ太陽のみとか月孛のみで金水がなければ孤独であるか、子供は親不孝者である、天狗星があれば子供は育ちにくい。男主が恩地にあって悪い神殺がなければ、必ず子供が多いものである、ということです。
(9)福主
 原詩は「福星守福為真福、遇難逢空享不成、劫殺亡神三悪犯、繊毫安受未堪評」
 福主は福徳宮の主星で、考え方は今までと同じです。劫殺亡神三悪犯とありますが、悪い神殺と考えていいでしょう。
(10)禄主
 原詩は「禄主為恩禄定豊、天厨再遇爵増隆、若還空陥侵仇難、寂寞寒江釣雪翁」
 官禄星の主星を禄主といいます。意味は、恩地にあり、さらに天厨星があれば高位につきますが、もし弱ければ孤独で苦労する、ということで、考え方としては、前の9つと同じです。

 以上で「専論十主」の説明を終わります。ここで注意すべきは主星をみるのは、身主、恩主は別として、いわゆる強宮についての主星のみ論じていることです。すなわち、兄弟、相貌、遷移、病厄、奴僕の五宮については主星を論じていません。もちろん考え方としてはありうるわけですが、強宮ほどは重視しなくてよいということなのでしょう。
 しかし、現代では見た目や職業や上下関係、病気ということは、昔以上に重要なポイントですから、考え方をやや変える必要があるかもしれません。



5.最緊四事

 「最緊四事」とは大限、小限、童限、月限とのことです。これについてはすでに解説しましたが、『星平会海』をひもときながら改めて説明します。

(1)大限
 原詩は「命宮十五為定例、命立午宮未上是、或問末限行幾歳、量天尺内討真機」
 命宮は15歳を平均としますが、太陽の位置によって下一桁が変わります。例えば、命宮が午宮で太陽が午18度にいるとすると、18を3(定数)で割って6、命宮は生まれてから16年間、数え歳でいえば17歳までが命宮とします。大限は十二宮位を順に進みますから、午宮の次は未宮です。
 あとは相貌宮10年、福徳宮11年、官禄宮15年、遷移宮8年、疾厄宮7年、夫妻宮11年、奴僕宮4.5年、男女宮4.5年、田宅宮4.5年、兄弟宮5年、財帛宮5年、という年数になります。これはすでに解説したとおりです。
 0歳から満16歳が子供だということで童限の期間ということです。
 また、原詩中の量天尺とは『星平会海』の初めの巻にある「行大限過宮量天総尺」という表のことでしょう。
(2)小限
 原詩は「其法仮如子命人、子上起子向逆尋、一年一位細推究、太歳到処小限名」
 訳すと、例えば子が命宮とすると、命宮を子として逆に数えて太歳までいったところの宮位を小限と名付ける、という意味です。これはややこしいのですが、要するに、子年は命宮、丑年は財帛宮、寅年は兄弟宮、卯年は田宅宮、辰年は男女宮、巳年は奴僕宮、午年は夫妻宮、未年は疾厄宮、申年は遷移宮、酉年は官禄宮、戌年は福徳宮、亥年は相貌宮、ということになります。
(3)童限
 原詩は「一命二財云、三疾四妻評、五福六官禄、順向地支輪」
 童限とは子供のときに看る宮を示します。原詩は数え歳であることに注意です。満年齢でいえば、0歳が命宮、1歳が財帛宮、2歳が疾厄宮、3歳が夫妻宮、4歳が福徳宮、5歳が官禄宮で、あとは地支の順に行くということになります。この0歳から5歳までの順番が何の根拠にもとづくものかはよくわかりません。後を続けますと、6歳が遷移宮、7歳が疾厄宮、8歳が夫妻宮、9歳が奴僕宮、10歳が男女宮、11歳が田宅宮、12歳が兄弟宮、13歳が財帛宮、14歳が命宮、15歳が相貌宮、と続きます。あとも続けるか、それとも小限で見るかは術者によって異なりますが、もし大限が相貌宮に入ったならば、童限はその時点で終わりとするのが私の考えです。
(4)月限
 原詩は「小限宮内起、生月逆行輪、如遇本月上、依星断吉凶」
 この詩は微妙で、生月というのが旧暦の月なのか、それとも生月支なのかがはっきりしません。ただ1周が1年だとすると、1つの宮が約30日ということになりますから、閏月のある旧暦の月よりは生月支の方が適当という感じがします。
 意味は小限の宮を生まれ月の支として、その一か月間は小限宮、次の一か月は地支を逆行した宮ということになります。例えば、卯月生まれの人が申年の運勢を占う場合、申年は遷移宮が小限ですから、遷移宮を卯月として、辰月は官禄宮、巳月は福徳宮、……、というふうに看ます。
 同様に日限とかも採れるでしょうが、そこまで細かく運勢を見る必要はないでしょう。せいぜい月限どまりでいいと思います。



6.歩天経訣

 この論は耶律学士の書とあります。耶律とは人の名前です。
 ここでは、原詩はあげず説明のみとします。

(1)子丑二宮
 子丑二宮の主星は土星です。子宮は木剋土で木星を恐れますが、木星の餘である紫気は恐れません。丑宮は木星を恐れ金星を喜びます。これは丑が金局の地であるためで、ここは子宮と違うところです。また火星羅[ゴウ]を喜び、水星月孛を忌みます。
(2)寅亥二宮
 寅亥二宮の主星は木星です。水星月孛を喜び、火星羅[ゴウ]を忌みます。亥宮の場合はとくに火星を忌み、寅宮の場合は土星や計都を恐れます。ただし、火星を忌むといっても星宿が水の場合、例えば箕宿は水ですが、箕宿に火星があっても恐れません。
(3)卯戌二宮
 卯戌二宮の主星は火星です。木星や土星を喜び水星月孛金星を恐れます。ただし卯宮は羅[ゴウ]は恐れず、戌宮は最も忌みます。
(4)辰酉二宮
 辰酉二宮の主星は金星です。酉宮は洩らすのを嫌い水星月孛を忌みます。しかし辰宮は水星月孛を喜びます。火星羅[ゴウ]は金を剋すので必ず水が必要となります。土星計都は金を生じて良いです。木星紫気は閑神ですが土を剋すので、土星計都がある場合はよくありません。
(5)申巳二宮
 申巳二宮の主星は水星です。土星計都は土剋水で最もよくありません。巳宮はもともと火ですが、昼生まれであればさらに火(火星羅[ゴウ])が加わるのを恐れます。月孛は水の餘ですが、月孛が水星に重なるのはよくありません。巳宮の場合は火星羅[ゴウ]を恐れ、申宮の場合は木星紫気を恐れます。
(6)単論午宮
 午宮の主星は太陽です。とくに忌むものはありませんが、春夏生まれの場合に木星を恐れます。
(7)単論未宮
 未宮の主星は月です。土星と計都を忌みますが、木星紫気があれば問題ありません。木星や紫気が弱ければ、浮沈が大きいものです。

 読めばわかるとおり、主星との五行関係で大体の喜忌が決まります。さらに十二宮位の五行を併せて考えればいいです。とにかく主星を覚えなければ話になりませんので、それは覚えてください。基本的には四柱推命などで使う六合の五行変化と同じです。



7.星曜歌訣について

 『星平会海』では「歩天経訣」の後に、「星曜入宮歌」「星曜躔度歌」「星曜交会歌」「星曜照宮歌」が続きます。これらの一部はすでに紹介しました。中身は異なりますが、考え方は西洋占星術の方法と同じです。(どちらが正しいというのはあまり意味のないものと思いますので議論しません)
 「星曜入宮歌」は各十二宮位に各星曜(七政四餘)が入った場合の名称と象意を示したものです。
 「星曜躔度歌」は各二十八宿に各星曜が入った場合の名称と象意を示したものです。星曜が二十八宿に入る場合を「入」とは言わずに「躔」といいます。
 「星曜交会歌」は各星曜が会となった場合の象意を示したものです。
 「星曜照宮歌」は各宮(命宮とか財帛宮とかいった宮)に各星曜が入った場合の象意を示したものです。一部はすでに紹介しています。
 これらは歌(詩文)の形で羅列したものです。詩文なのでちょっとわかりにくいところもあります。
 『星平会海』では上のようにまとめているのですが、『果老星宗(張果星宗)』では巻七、巻八に星曜ごとにまとめています。例えば木星の場合には、「歳星交会 聿斯経」「歳星入宮 枢要歌」「歳星躔度 玉関歌」「歳星照宮 琅[カン]経」といった具合に並んでいます。中身は、『星平会海』と若干違うところもありますが大体同じです。
 以上の内容についてはここでは詳述しません。どういうことが書かれているかは、原書にあたるか、日本国内の出版物としては『七政四余』(判田格著)や『七政占星術』(張耀文、佐藤六龍著)がありますので、それを参照してください。
 『七政占星術』の場合、「星図の角度」「二十八宿と七政」の章がそれにあたります。ただし、全部が全部古書の引き写しということではなく、独自(透派)の考えも入っています。
 ということで、上の歌訣については他書に譲ることにします。



8.主星守宮歌

 原文は省略しますが、意味はほぼ原文のとおりです。
 命主が身宮に入り身主が命宮に入れば、悪星や凶殺が会しても富貴栄華は間違いありません。
 命主身主が田宅宮に坐すれば財産を守ることができ、田宅宮の主星が命宮に入れば財産を得て貯めることになります。
 命主身主が男女宮を守れば母は子に恩恵を与え、男女宮の主星がもし命宮に入れば、地位は高く福禄は厚くて世に出ることになります。
 命主身主が奴僕宮に入れば、吉星があっても苦労し、また人に使われることになる。さらに奴僕宮の主星が命宮に入るのはよくありません。
 命主身主が夫妻宮に入れば、妻財は盛んで顔はきれいです。夫妻宮の主星が命宮に入れば、おそらくは外戚を招き横財(不労所得)を得ます。
 命主身主が八殺宮(疾厄宮?)に入れば財禄は若いうちに得て、もし疾厄宮の主星が命宮に入れば、疾厄が身にまとわりついて離れません。
 命主身主が遷移宮に入った場合には養子になったり家を出たりする。もし遷移宮の主星が命宮に入れば養子を得ます。
 財帛、田宅の主星は身主、命主と遇うのを喜び、もし悪星、凶殺がなければ大変な富を得ます。
 兄弟宮の主星が命宮に入れば、吉星があっても空となり、日中からぼーっとして過ごすことになります。
 官禄宮の主星が命宮に入れば、忌星があっても空とはなりません。命主が官禄宮に入れば高位に上ります。
 福徳宮の主星が命宮に来れば、主に福寿が長く続き災いなしとします。命主が福徳宮にいれば高位に上ります。
 相貌宮の主星が命宮に入れば、顔つきは堂々としています。もし凶殺がくれば顔は悪いです。
 五星(木火土金水の各星)を論ずるには多くの言葉はいらず、まず宮主を明らかにして判断すればいいです。世の人は元守星を説きますが、元守星にはあまり作用はありません。
 上の文でいう元守星とは、その宮に居る五星のことだと思いますが、居る星自体の意味よりも宮主や命主身主がどこにどうあるかが重要であるという意味でしょう。これはなかなか重要です。



 これで「基礎その6」を終わりにします。
 ここでは基本用語と主星の働きや重要性を述べてきました。主星という考え方は、西洋占星術ではあまり用いられず非常に重要ですので、このことを再度強調しておきます。
 具体例は挙げませんでしたが、今『星命説証』を翻訳中で、実例はそこで示すことにします。あしからず。


   作成  2013年1月3日


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