2003.12.20
『寄生虫館物語 可愛く奇妙な虫たちの暮らし』を読み終えた。

 我ながら意外なのだが、あの有名な「目黒寄生虫館」に、私はまだ行ったことがない。
 特に理由はない。いつか行きたいと思いつつ、ただなんとなく、その機会を先送りにしてきただけのことだ。

 本書は、その「目黒寄生虫館」の創設者にして名誉館長でいらっしゃる亀谷 了氏のエッセイ集。
 寄生虫について、また寄生虫館についてを、実にわかりやすく教えてくださっている。

 面白い、面白い、面白い!
 寄生虫の生態って、うわぁ面白い!
 私のペットである“クローン量産生物”プラナリアに負けず劣らずの不思議ちゃんが、いっぱいいるよ。
 不気味な格好でカタツムリの触覚になりすましたり、寄生すべき場所に辿り着いた途端に自らの目を潔くポロリと捨ててしまったり、無数の卵巣と精巣を持って身体のあちこちで受精したり。
 プラナリアと違って見てくれが悪いので、可愛いとは決して思えないけれど、ヘンテコリンで愉快なヤツらだということは認識できた。

 寄生虫は種ごとに寄生したい生物が決まっていて、本来寄生すべき動物にめでたく寄生できた場合は、その相手に害をなすことはないのだそう。
 たとえば日本海裂頭条虫=通称サナダムシは、人間を終宿主(寄生虫が最終的に辿り着きたい目的の生物)とする虫なので、寄生した人間の腸内で成長はするものの、その人間には悪影響をほとんど与えないらしい。
 何の悪さもしないんだったら、まぁ1匹ぐらい、体内で飼ってもいいかな、なんて考えた。
 いや、マジでいいよ。虫の1匹や2匹、どーんと飼ってあげましょう。まぁ私ったらなんて太っ腹!

 さて。
 本を読んで興味が大いに膨らんだので、いよいよ行かねばなるまい、その場所へ。
 「目黒寄生虫館」、近々覗きに行くつもり。
 

文春文庫PLUS『寄生虫館物語 可愛く奇妙な虫たちの暮らし』
著/亀谷 了 解説/伊藤潤二 発行/文藝春秋
2001年2月10日第1刷発行 ¥524 ISBN4-16-766009-1


2003.12.06
『蠅の王』を読み終えた。

 登場人物の誰にも気持ちを寄せられなかった。
 どいつもこいつも、腹立たしいガキだった。

 孤島に取り残された少年たち。
 団結して逞しく生きていくはずが、彼らは内部分裂を起こし惨劇への道を転がってゆく。

 殺伐として救いの少ない物語。
 少年漂流記“暗黒ヴァージョン”。
 

新潮文庫『蠅の王』
著/ウィリアム・ゴールディング 訳/平井正穂 発行/新潮社
1975年3月30日発行 ¥590 ISBN4-10-214601-6


2003.12.03
池袋シネマサンシャインで『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』を観た。

 ビール、ビール、ビール、ビール、ビール、ビール、ビール、ビール。

 私も「野球狂の詩」でビール呑みてぇ〜。
 ぶっさん、バンビ、マスター、アニ、うっちー、大好きだ−っ!!
 

『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』
2003年 日本映画 123分
監督/金子文紀 脚本/宮藤官九郎
出演/岡田准一、櫻井 翔、酒井若菜、岡田義徳、佐藤隆太、塚本高史、阿部サダヲ、山口智充、古田新太、森下愛子、小日向文世、薬師丸ひろ子、内村光良、哀川 翔、氣志團、ユンソナ、嶋 大輔、渡辺いっけい、三宅弘城、平岩 紙、須之内美帆子、中尾 彬、伊佐山ひろ子、岩松 了、ケーシー高峰、船越栄一郎、坂井真紀、袴田吉彦ほか


2003.12.02
『AP THE BEST 猿屋ハチ ─ハチ丸編─』を読んだ。

 『ONE PIECE』同人誌界でご活躍の猿屋ハチさんの短編マンガ集。
 内容はもちろんすべて『ONE PIECE』パロで、これまでに出された同人誌の中からのセレクションと描き下ろしを所収。

 かつて一作品だけ目にする機会があって、以来ずっと、もっと読んでみたいと思っていたんだよ、この方のマンガ。
 ところが、同人誌を手に入れようとネットオークションなどを覗いたら、どの本にもかなり法外なプレミアが付いていて、んな金払えるかーってな状態だったので、仕方なしと諦めていた次第。

 嬉しい。丸ごと一冊ハチさんだよ。
 ハイテンションなギャグ満載だよ。
 やっぱりウマイ!
 絵も話も巧み。
 笑えた。満足。

 ところで私、勉強不足で、この方がエロもお描きになっているとは知らなかった。
 ほのかな風味程度だと思っていたので、ライトではあるけれど明らかなHシーンにちょっと驚き。
 いや、たいがい好きだけれどね、ホモエロ。
 たとえそれがハードな濡れ場でもOKだけれどね。
 ただまるで予想してなかったのでビックリした。
 へぇ〜、そうだったのかー。ふむふむ。
 

『AP THE BEST 猿屋ハチ ─ハチ丸編─』
著/猿屋ハチ 発行/ハイランド
2003年10月20日第1刷発行 ¥900 ISBN4-89486-296-4


2003.11.23
練馬区立美術館で『異端画家 秦テルヲの軌跡──そして竹久夢二・野長瀬晩花・戸張孤雁…』を観た。

 明治・大正・昭和時代の日本画家、秦(はだ)テルヲの回顧展。

 労働者や娼婦を題材とする暗く退廃的な作品から、迷いを振り切った風の力強い仏画、温かな空気の流れる優しい風景画まで。

 肖像写真の中の画家は鬚ボウボウの似非教祖のような風貌で、怪しい匂いをプンプン発していた。
 全裸の女性をどでーんと画面いっぱいに描いた作品がある一方で、やたらちまちまとした俯瞰的な風景画があり、豪放なんだか繊細なんだか、いまひとつ性格的な部分も読み切れなかった。
 しかしどの絵からも彼の生真面目な様子だけは窺い知れた。
 多分、誠実な人だったのだろう。

 なぜだか淡々と眺めて終えてしまったが、京都の山里の四季を描いた掛け軸絵にドバッと使われていたピンク色が目に焼き付いた。ほかに人物画などにも用いられていたかもしれない。
 妙なピンク色だった。
 桜でもない桃でもない。強いていえばサーモンか。
 鮮やかとも、くすんでいるともとれ、また上品とも下品とも言い難い、非常に曖昧なピンク色で、だいたいこんな色を恐れることなく塗りたくるなんて随分と個性的な色彩感覚だよなぁとまず思い、けれど決して悪くない色遣いだとやがて思った。
 使う人が使うと妙な色も誠実な色に化けるから不思議。
 

『異端画家 秦テルヲの軌跡──そして竹久夢二・野長瀬晩花・戸張孤雁…』
2003年10月21日〜11月30日 練馬区立美術館
主催/練馬区立美術館・日本経済新聞社


2003.11.20
『Day Light』を読んだ。

 不覚にも昼間の書店で落涙しそうになり、買うしかあるまいと思った。
 青森や秋田や山梨や滋賀で撮影された、森林の風景写真集。

 日本国内の緑を記録した写真集はほかにもいくつか書店のコーナーに並んでいたけれど、これほどに惹かれた一冊はなく、なぜ私がこれを眺めているうちに泣きたくなったのかを考えようとして、家に持ち帰って開いたらまた視界が滲んでしまった。

 森や林に分け入って撮られた写真だ。
 樹や草、岩や川などばかりが写っている。
 誰もいない。見当たらない。
 見当たらないが、気配はする。
 生き物たちが、人間すらも、近くに存在すると感じられる。
 それほど深い森の中ってわけではないことを、温かそうな木漏れ日や、枯れ葉に埋もれた細道が、教えてくれる。

 帯に『見たことのない風景、見たことのない日本。』というキャッチが横たわっている。
 多分これはつまり、この一冊が既成の風景写真集とは距離を置くものだ、ということをアピールするために用意されたコピーなのだろう。
 「見たことのない“風景写真集”」だという点では頷ける。ポストカードにしたくなるような景色を並べた端正で美しい写真集が多い中で、こういうふうに森林の無造作な姿を低い目線で切り取った写真集は、ありそうでなかった。珍しい。
 けれど、けれど。
 「見たことのない“風景”」だろ?と訊かれたら、私は大袈裟に首を横に振っちゃうよ。
 逆だ、むしろ逆なんだ。
 私には、ここにある風景が、「見たことない」どころか「いつかどこかで見た風景」だと思えてならない。

 私を泣かそうとしたものの正体は、きっと「郷愁」だ。
 「いつかどこかで見た風景」を前にして、「還りたい、還りたい」と私の中の奥底で何かが呟いている。
 それが何なのかよくわからない。魂ってやつ? あるいは遺伝子内に残る遠い記憶?
 いや、本当に何なのかわからないし、還るって何だよ!とツッコミ入れたくもなるんだけれどね、「還りたい、還りたい」というせつない願いだけはなぜだかはっきりキャッチできて、しかもすんなり同調させられちゃうんだ。

 もう一度この写真集を開いてみる。
 途端に懐かしさが込み上げてきて、ほら、やっぱり泣きたくなってしまうんだ。
 

『Day Light』
写真/MOTOKO 発行/ピエ・ブックス
2003年4月10日初版第1刷発行 ¥3800 ISBN4-89444-260-4


2003.11.10
『尾田栄一郎画集 ONE PIECE COLOR WALK2』を読んだ。

 突飛なアングル、極端な遠近法、キャラたちの活き活きとした表情に胸躍る。

 楽し〜。
 

JUMP COMICS DELUXE『尾田栄一郎画集 ONE PIECE COLOR WALK2』
著/尾田栄一郎 発行/集英社
2003年11月9日第1刷発行 ¥1200 ISBN4-08-859376-6


2003.11.08
東京ステーションギャラリーで『浮世絵アヴァンギャルドと現代』を観た。

 浮世絵って、そうさ、アヴァンギャルドなんだよ!
 だから観てて楽しいんだ。

 尖鋭映像作家の眼を持つ広重の仰天アングル風景画。
 解剖学的にも正確な骸骨を巨大怪物に仕立て上げた、国芳の大判錦絵三枚続の武者絵。
 同じく国芳の猫づくしの当て字絵や、上下逆さまにすると別の顔が見える両面相の絵。
 シュール画家アルチンボルドの影響か、裸体人物像をうじゃうじゃ組み合わせて描いた特異な肖像画。あ、これも国芳だったかな。

 ああなんて、浮世絵世界はフリーダム!
 幕府の目もなんのその、かなりやりたい放題じゃん。
 柔らか頭の自由な発想がたくさんの絵の中でスパークしてるよ。

 特に国芳。なんなんだ、この人は。
 先週観た『浮世絵 大武者絵展』に続き、今回も最も目立っていたのが歌川国芳で、彼の作品は良も質もまったくもってハンパじゃねぇなと改めて認識させられた。
 表には出てこないが、春画なども描いてるんだよね、確か。
 庶民向け娯楽派No.1、浮世絵界エンタテインメント部門堂々1位は、国芳なのか、やっぱり。
 悔しいけれど、そうなのか、そうなのかも。

 ところでこの企画展には浮世絵のほかに、明治時代の石版画の数々と、奈良美智さん作のカラーゼロックス製版画“UKIYO”シリーズ全16点も出品されていたのだが、浮世絵をベースにした奈良さんの作品はともかく、石版画のほうはなぜここに紛れ込んでいるのか不思議なほどにイベント全体のトーンから(あるいは趣旨から?)離れて浮いていて、しかもどの絵も強烈にデロリ()で凄まじかった。
 “キモかわいい”というより“キモこわい”子供がわんさか。
 楳図かずおさんの傑作キャラ“赤んぼう少女タマミ”に似た不気味っ子がたんまり。
 浮世絵の幽霊画などよりよほどホラーで怖かったよ。
 

『浮世絵アヴァンギャルドと現代』
2003年9月27日〜11月9日 東京ステーションギャラリー
主催/東京ステーションギャラリー(財団法人東日本鉄道文化財団) 協力/神奈川県立歴史博物館


2003.11.03
『蟲師』第4巻を読み終えた。

 愛おしい。

 この作品と同じ時代に生きられること
  ──が嬉しい。
  ──を幸せだと感じる。
  ──を誇りに思う。
  ──を感謝します。

 ありがとう。
 

アフタヌーンKC『蟲師』第4巻
著/漆原友紀 発行/講談社
2003年10月23日第1刷発行 ¥562 ISBN4-06-314332-5


2003.11.01
町田市立国際版画美術館で『浮世絵 大武者絵展』を観た。

 浮世絵の武者絵分野の革命児は歌川国芳で、幕末の世に見事な作品を数多く送り出した。
 武者絵自体は古くから在り、北斎や広重などを含む人気浮世絵師たちも何枚ずつかは残しているものの、観るならやはり国芳と彼の影響下にある絵師たちのものに限る。

 迫力満点のド派手な構図とアングル。
 緊迫した場面を再現するアクションとスピード感。
 わぉダイナミック!

 それらは現代の少年マンガの戦闘シーンの絵に似ている、と思う。
 他の方々のご意見ご感想はてんで存じ上げないけれど、少なくとも私は、一部の少年マンガの絵を観るときと同じ興奮を、国芳らの武者絵にも覚える。

 考えてみれば、武者絵ってヒーロー絵なんだよね。
 ヒーローの闘う姿を描いた絵なんだから、そりゃ少年マンガの絵と同類と言ってもあながち無茶ではないでしょう。
 とりわけ国芳らの作風は極めてエンタテインメント的であるがゆえ、今どきのポップな少年マンガとますます近い。あれま親戚?いや兄弟ってなくらいに、多分近しい。

 さて、武者絵ばかりを集めた今回のこの企画展。
 展示品の半分近くは国芳で、その点には満足。納得。楽しめた。
 しかし私は国芳も好きだが、実は彼の弟子の月岡芳年のほうがもっと好き。大好き。
 なので、芳年の作品が思ったより少なかったことがちょっと悔しく、えっ、どうして?と腑に落ちなかった。
 芳年も国芳に負けず武者絵の傑作を多く残している。
 当然たんまり観られると大いに期待して出かけたのになぁ。

 肩透かしを喰らったような気分になり、却って思いが募った。
 芳年の絵のすべてを心ゆくまで眺めてぇ。
 ああ、もっと芳年!
 ギブミー芳年!
 レッツ芳年!
 カモン芳年!
 

『浮世絵 大武者絵展』
2003年10月11日〜11月24日 町田市立国際版画美術館
主催/町田市立国際版画美術館


2003.10.25
『死ぬための教養』を読み終えた。

 「宗教を信じられない人間には、ただ「死ぬための教養」だけが必要となります。いざとなったら、死に対する教養のみが、自己の死を受け入れる処方箋となるのです。」

 然り。

 幸いなことに大病にも事故にも無縁でここまで生きてきた私だが、自らの死に対して無関心でいられるはずもなく、というよりむしろ過剰なほどに興味を抱き続けてきたので、だからこういう一冊は大層ありがたい。

 嵐山光三郎さんが、自己の死を受容するために身につけたい教養として46冊を厳選し、ご紹介くださっている。
 過去に5度も死にかけたという嵐山さんご自身の体験やお考えを交えつつ、の肩の凝らない読書案内だ。

 何冊かに目をつけた。
 これはぜひ読んでみたい!と思った。

 「「死ぬための教養」は、百人いれば百通りが必要であって、それは各自ひとりひとりが身につけていくしかない。幸い、先人たちには、死についての深い考察をなした人がいて、そういった識者の本を吟味熟読して読み、自分なりに納得するしかないのだ。」

 果たして私は、いずれ間違いなくやってくるその日のために必要な教養を身につけることができるだろうか。
 たとえそれがいつであろうと、恐れずに悠々と、笑いながら逝きたい。
 こんな願いは贅沢至極かもしれない。死の受容どころか、死への挑戦だな、こりゃ。
 しかしそういう最期もあり得るだろうと夢見て、私もせっせと知恵を溜め込んでいくとしよう。
 

新潮新書『死ぬための教養』
著/嵐山光三郎 発行/新潮社
2003年4月10日発行 ¥680 ISBN4-10-610004-5


2003.10.24
『HUNTER×HUNTER』第18巻を読んだ。

 グリードアイランド編終了〜。
 ビスケともここでお別れ。

 グッバイ、ビスケ。
 サンキュー、ビスケ。
 ビスケのおかげで、ゴンとキルアの無邪気な子供っぷりがたくさん楽しめたよ。
 ビスケのおかげで、ゴンとキルアのすくすくな成長っぷりがじっくり楽しめたよ。

 お疲れさまー。
 ここまでホント、ありがとね。

 (なにゆえ私は作中キャラクターに向かって真面目に話しかけているのでしょう…。)
 

ジャンプ・コミックス『HUNTER×HUNTER』第18巻(NO.18 邂逅)
著/冨樫義博 発行/集英社
2003年10月8日第1刷発行 ¥390 ISBN4-08-873516-1


2003.09.24
新宿ピカデリーで『パイレーツ・オブ・カリビアン〜呪われた海賊たち』を観た。

 私は断然ジョニー・デップ派だよ。
 

『パイレーツ・オブ・カリビアン〜呪われた海賊たち』
2003年 アメリカ映画 143分
監督/ゴア・ヴァービンスキー 脚本/テッド・エリオット&テリー・ロッシオ 製作/ジェリー・ブラッカイマー
出演/ジョニー・デップ、ジェフリー・ラッシュ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジャック・ダヴェンポート、ジョナサン・プライス、リー・アレンバーグほか


2003.09.20
『死刑囚 最後の晩餐』を読み終えた。

 死刑執行直前の囚人が食べたいものをリクエストできる制度、というのがアメリカにはあるそうだ。  そこでこの本。
 各死刑囚が最後の晩餐にどんなメニューを選んだのかを紹介する一冊。

 登場する囚人は66人。
 それぞれの“名前”を見出しにして以下、“死刑執行日および執行方法”“罪状”“簡単なプロフィール”“犯行前後や処刑前後のエピソード”、そして“最後の晩餐メニューのイラスト”によってページが構成されている。

 ──死を目前にして選ぶメニューに、各人の人間性は反映されるのか?
 ──彼らの凶悪な犯行とメニューには、何らかの因果関係が存在するのか?
 帯にも、まえがきにも、そういった疑問が書いてあって、大いに興味が湧いた。
 それらの問いに対する答えを知りたい。読めば、ひょっとして知り得るのか?
 期待して手に取った。

 しかし結果からいえば期待外れ。

 “最後の晩餐メニュー”が単なるプロフィールの一部に堕していて、そこからは何も掬い取れなかった。
 だいたい各囚人に関する情報が少なすぎる。“最後の晩餐メニューのイラスト”&たかだか1000字、2000字の紹介文じゃ、とうてい彼の人間性までは辿り着けないよ。あまりに素っ気ない。
 最後の晩餐メニューから何かを解き明かそうという気概が微塵も感じられない、いやもしかしたら端からそんなつもりなど毛頭なかったんじゃないかと思えるような、いっそ潔いほどの素っ気なさだ。

 何らかの思いを寄せる間もなく読み終えてしまう素っ気ない人生、また人生。
 ページを捲っているうちに胸焼けがしてきた。
 どの囚人の人生も大差なく感じられ始め、どの最後の晩餐メニューもやはり大差なく感じられ始めた。
 ハンバーガー、ステーキ、ピザ、フライドポテト、コーラ、ケーキ、アイスクリーム……。
 いかにもアメリカ的なメニューが続く。
 もはやどんな凶悪犯がオーダーしたのかさえ気にも止めなくなっていたが、脂っこい品の連続は気になった。
 みんな似たようなものばかり食うなよー、ああ誰か、もっとあっさりサッパリしたものを注文してくれないかなぁ、なんてことを考えつつ、ムカツく胃を宥めすかしながら読んだ。
 

『死刑囚 最後の晩餐』
著/タイ・トレッドウェル、ミッシェル・バーノン 訳/宇佐和通 発行/筑摩書房
2003年7月10日初版第1刷発行 ¥1600 ISBN4-480-86348-6


2003.09.19
ブリヂストン美術館で『恐い、怖い、こわい』を観た。

 美術館所蔵の油彩、版画、陶器、彫刻の中から“こわさ”をテーマに46点を選んでのコーナー展示。
 「死と悪魔」「奇怪なるもの」「人間の中の恐ろしさ、不安」と分類されていた。

 小規模なのが、残念。
 もの足りなかった。
 古今東西より作品を集めて同テーマでビッグな企画展を催したなら、それってさぞや楽しかろうになぁ。
 

『恐い、怖い、こわい』
2003年6月17日〜9月28日 ブリヂストン美術館


2003.08.19
『仮面の告白』を読み終えた。

 華麗と言われる三島の文体は、私に薔薇の花を連想させる。

 薔薇……いや、別に、三島が同性愛者だからってわけじゃなく。

 美しい、とは思う。
 思うのだけれど。

 薔薇の花の美しさも、三島の文の美しさも、軟弱な私では受け止めきれない。
 それらの美は、いささか濃すぎ、重すぎ、激しすぎると感じられるので。
 

新潮文庫『仮面の告白』
著/三島由紀夫 発行/新潮社
1950年6月25日発行 ¥438 ISBN4-10-105001-5


2003.08.13
下北沢 本多劇場で『ウーマンリブvol.7 熊沢パンキース03』を観た。

 クドカンの作品。
 死に至る奇病に翻弄される男たちのドタバタな物語。

 松尾スズキさんの体から発せられるオーラに、阿部サダヲさんの肌の白さの艶かしさに、田辺誠一さんのスレンダーな体躯に、佐藤隆太さんのなぜだか私を不安に陥れる奇妙な存在感に、ちょっとドキドキした。

 誰もが呆れるほどのあまりにくだらねー駄ジャレに、ふいにツボを刺激しされてしまい、誰も笑っていない場面で思わず吹き出しちゃって、気恥ずかしいそんな状況にも、ちょっとドキドキした。
 

『ウーマンリブvol.7 熊沢パンキース03』
2003年7月30日〜8月17日(東京公演) 下北沢 本多劇場
作・演出/宮藤官九郎
出演/松尾スズキ・阿部サダヲ・宮崎吐夢・佐藤隆太・皆川猿時・荒川良々・少路勇介・宮藤官九郎・田辺誠一


2003.07.28
『EDEN』第9巻を読んだ。

 ひとつのマンガ作品で示された未来のシナリオがそのまま現実になるなんて、そりゃあ勿論信じているわけじゃない。そこまで妄信的な人間じゃないよ、私は。
 それでも、SARSの恐怖に世界中が脅えていたころ、私の頭にあったのはこの『EDEN』で、ああ、いよいよ私たちは『EDEN』に近づいていると本気で感じた。

 SARSの突発的な出現を見るより早く、この『EDEN』の中では、近未来の人類が謎のウィルスの猛威によってすでに大ダメージを受けていた。世界の有り様は、そう、まずはウィルスによって変貌を余儀なくされるのだ。
 そして国々の統合・再編。民族紛争や宗教対立などの火種を抱えたまま、地図が塗り替えられる。平和など訪れないのは当然。地球の北で、南で、東で、西で、テロや小競合いが絶えることなく繰り返される。世界はいつまでも不穏で、きな臭い。

 世界の歴史はこの先、ひょっとしたらこの物語をなぞるようにして進むのではないか。  巻数が増すごとに、その考えも色濃くなっていく。
 なぜだかね。
 なぜなんだろう。
 

アフタヌーンKC『EDEN』第9巻
著/遠藤浩輝 発行/講談社
2003年7月23日第1刷発行 ¥514 ISBN4-06-314325-7


2003.07.26
『無限の住人』第14巻を読んだ。

 死んだと思ったあの男が生きていた!
 恐怖!
 ほんと、すっげー怖い。

 卍、凶、どうするどうするどうする!?

 どきどきしながら、殺られないでと祈るばかり。
 

アフタヌーンKC『無限の住人』第14巻
著/沙村広明 発行/講談社
2003年7月23日第1刷発行 ¥514 ISBN4-06-314326-0


2003.07.17
『文人悪食』を読み終えた。

 一緒に食事をしてみると、相手の人となりや価値観が多少なりとも見えてくるものだ。たとえそれが知り合って間もない人であったとしても。
 その人が何を好み、何を嫌い、何に頓着し、何を見過ごして食べるか。それらを観察することで導き出される答えは、その人の本質から決して遠く離れてはいないだろう。

 だから本書の著者、嵐山光三郎さんの企画意図は、なるほど的を得ていると思う。
 文士の食卓を覗き見て、その観察の結果の下に再び彼らの作品を捉え直してみよう。
 まさにグッドアイデア!だ。

 そしてその考えの閃きだけでもスゴイのに、この先が、嵐山さんの真骨頂。
 俎上にのぼせた文士の数は37人。参考文献の数が700余り。書き上げるまでにかかった月日は約5年。
 巻末に参考文献の一覧が掲載されているが、ズラリ並んだ本のタイトルを前に、これらを全て繙かれたのか!と考えたら、頭が下がって床まで達しそうだったよ、ホント。

 さて中身。
 これはもう、期待に違わず面白かった!

 夏目漱石は、弱った胃に悪いからと止められていた 砂糖まぶしのピーナツを隠れて食べて死に至った。
 芥川龍之介は、「羊羹の文字は毛が生えているようだ」とその字面から羊羹を拒んで嫌った。
 宮沢賢治は、西洋かぶれのベジタリアンで、粗食派ではあるが大食いだった。
 永井荷風は、その豪奢な人生の最後で、安いカツ丼の飯粒の混じった血を吐いて孤独に逝った。
 谷崎潤一郎は、ヌラヌラ、ヌメヌメ、ドロドロ、ふにゃりとした食べ物を好んだ。
 太宰治は、元来屈強な肉体の持ち主で、実は豪放磊落な大食漢だった。
 三島由紀夫は、一流店をよく知る店通ではあったが決して料理通ではなく、料理そのものへの執着は少なかった。

 例えばこういう、いかにもその人らしい、あるいは驚くほど意外なエピソードに次ぐエピソードで、ページを捲るたびに胸が躍った。
 ああ、楽しい。

 多くのエピソードを繋げて、合間に鋭い洞察や鮮やかな批評を滑り込ませる、嵐山さんの書き手としての技量にも敬服。
 明解で読みやすく、キレがあって、無駄がない。
 嵐山さんのお書きになる文は、言葉の選び方といい、それらの並べ方といい、そこから生じさせるリズムといい、悉く、私の好み、と言うのもおこがましいな…私の憧れ、かな。
 お手本にしたい文ランキングの、間違いなく上位に、私は嵐山さんを挙げる。

 うむ。素敵だな、嵐山さん。
 本書と、もう一冊、こちらも夥しい数の文献をもとに書かれた『追悼の達人』は、いつまでも、末永く、手元に置いておきたいと思っている。
 

新潮文庫『文人悪食』
著/嵐山光三郎 発行/新潮社
2000年9月1日発行 ¥743 ISBN4-10-141905-1


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