私の読書記録です。2014年1月~3月分、上の方ほど新しいものです。
「帯」は腰帯のコピー。評価は ★★★★★ が最高。
なお、4月以降、私の環境が大きく変わるので一旦ここで中断。
題 | ルーティーン | 著 | 著: 篠田節子 |
版 | ハヤカワ文庫JA 2013年, 900円, ISBN4-15-031142-1 | 帯 | 自在にジャンルを越境する偉才のSF的達成を精選 |
話 | 篠田節子SF短編ベスト集。 SF読者の知らないSF(だけでない)巧者の10編+エッセイ(?)+インタビュー。 | ||
評 | 統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★ | ||
この作者の小説が凄いのは聞いていたけれど、読んだことがなかったので、まずはチャレンジ。 実際のところ、いわゆるSFなのは「子羊」「世紀頭の病」「人格再編」くらいであとはかなり一般小説なのだが、 物語の建て付けとか視点の角度が、論理とか倫理とかを踏まえたうえでさらにそれを超越していくところのパワーが凄い。 日常の日常たる本質をあぶりだしつつ、それを肯定も否定もせずに分解して組み替えていく。 それにしてもこの人の書く女は怖いなあ。 |
題 | ブックマン秘史2 影のミレディ (原題: Camera Obscura) | 著 | 著: ラヴィ・ティドハー (Lavie Tidhar) / 訳: 小川隆 |
版 | ハヤカワ文庫SF 2013年(原典2011), 1040円, ISBN978-4-15-011932-4 | 帯 | 最新型ハイブリッド・スチームパンク! |
話 | 『革命の倫敦』に続くシリーズ2作目。 科学的合理主義を追求した結果、機械知性である自動人形による議会が統治するフランスは、 蜥蜴の王室が支配する英国と対立している。 そんなパリのモルグ街で起こった猟奇的な殺人事件の捜査を議会から命じられたエージェント・ミレディは、 被害者が腹の中に収めていた翡翠の仏像を奪った犯人ではなく、翡翠像そのものが議会の目的なのだと知る。 死体を復活させることも可能な地球外の力を秘めた翡翠像を求めて、英国、フランスだけでなく、 中国などの勢力が暗躍し陰謀を張り巡らせるなか、ミレディは、翡翠像とこれを使うために 殺人を続ける犯人を追って新大陸ヴェスプッチア(アメリカ大陸)へ向かう。 | ||
評 | 統合人格評 ★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★ | ||
前作同様、三銃士やらフランケンシュタイン博士やら、さまざまなキャラクターを 賑やかにぶち込んで、派手なアクションで盛り上げるのはいいのだが、ちょっとガチャガチャしすぎだね。 ついていきづらくなってきてしまった。前作以上にアニメ向きな感じ。 | |||
イカした言葉 「質問しなければ嘘を聞かなくて済む。」(p55) |
題 | ユゴスの囁き | 著 | 著: 松村進吉, 間瀬純子, 山田剛毅 |
版 | 創土社 2014年, 1500円, ISBN978-4-7988-3012-4 | 帯 | 脳缶って知っていますか? |
話 | クトゥールー神話のひとつ「闇に囁くもの」に描かれる 太陽系辺境の惑星ユゴスとそこから地球に飛来する異様な宇宙生物を題材とするアンソロジー。 FBIで児童虐待事件を担当する捜査官が、ある小児性愛者を追い訪れたテキサスの寂れた炭鉱の町で見た異様な事件、 松村進吉「メリーアンはどこへ行った」。 父親の経営する工場が鉄砲水で被災し、また、その父親がおかしくなったと聞いて故郷の山村に帰ってきた教師が 怖ろしい体験をする、間瀬純子「羊歯の蟻」。 ある記者が拾った不思議な絵草子にまつわる、山田剛毅「蓮多村なずき鬼異聞」の3編を収録。 | ||
評 | 統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★★ | ||
これまでのシリーズにくらべると若干マイナーなテーマだし、作者陣も(失礼を承知で書くと) マイナーだが、思ったより相当面白かった。実話怪談の人と思っていた松村進吉の直球SFホラーとか、 間瀬純子の、想像を超える方向へ転がる調子の外れた展開とか。 |
題 | インスマスの血脈 | 著 | 著: 夢枕獏×寺田克也, 樋口明雄, 黒史郎 |
版 | 創土社 2013年, 1500円, ISBN978-4-7988-3011-7 | 帯 | 夢枕獏×寺田克也 夢の饗宴! |
話 | クトゥールー神話の 代表作「インスマスの影」を題材とするアンソロジー。 海妖に魅入られた男の独白を描く、夢枕獏の文に寺田克也の絵を乗せた絵巻物語「海底神宮(わだつみのみや)」。 日本海に面した原発の街を取材に訪れた作家が、震災後の原発稼働停止で衰退した街の それだけでない奇怪な影に飲み込まれる、樋口明雄「海からの視線」。 死体愛好というアブない趣味にふける女性たちが、富士の樹海を訪れたことから 人知を超えたおぞましいモノに囚われていく、黒史郎「変貌羨望」の3編を収録。 | ||
評 | 統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★★ | ||
クトゥールー神話の代表作中の代表作といえるラヴクラフトの「インスマスの影」。 寂れた漁港の退廃的な住人達の血筋に潜む人ならざる異形と、 海中深くに沈む邪神の蠢動に否応なく巻き込まれる青年の恐怖をそれぞれの作者が、 (今回はたまたまだと思うが)日本を舞台に語りなおす。 何といっても、夢枕獏と寺田克也のコラボレーションが豪華。16ページと分量は少ないが、濃度・存在感は抜群。 そろそろ巻末解説での編集者のはしゃぎぶりが鼻についてきたが、出来上がった仕事は見事なので文句は言うまい。 |
題 | 冥談・幽談 | 著 | 著: 京極夏彦 |
版 | 角川文庫 2013年,各520円, ISBN978-4-04-101152-2/978-4-04-101153-9 | 帯 | くらい。 / こわい。 |
話 | 怪異の姿はおぼろげで、理があるのかないのか定かでなく、 語り手の存在さえあやふやな恐怖を積み上げる掌編集。『冥談』『幽談』それぞれ8編を収録。 | ||
評 | 統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★ / ホラー人格評 ★★★ | ||
実話怪談からリアリティの生々しさを抜き取り、残りのエッセンスのみを文芸として磨き上げた、 決してホラーではない「怪談」の数々。その様相はバラエティに富み、物語巧者の作者の筆が冴える。 『幽談』掲載の「予感」が僕のベストかな。 |
題 | 白熱光 (原題: Incandescence) | 著 | 著: グレッグ・イーガン (Greg Egan) / 訳: 山岸真 |
版 | 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 2013年(原典2008), 1600円, ISBN978-4-15-335012-0 | 帯 | 現代SF界最高の作家が描く、ハードSFの完成形! |
話 | はるか未来。人類の末裔を含む多数の星間文明が交雑し、 銀河系円盤部全体に広がる〈融合世界〉を形成している。姿形だけでなく存在様式まで自在に変えられる融合世界住民には、 あらゆる事物が既知・分類済みなのだが、銀河系中央部には、限定的な通信・交通経路としての利用以外、 融合世界の接触・侵入を完璧に拒絶する謎の何者かが太古から存在している。 その〈孤高世界〉で何者かにDNA基盤の生命の痕跡を見せられたと、ある旅人から聞いた人類由来のラケシュは、 それが〈孤高世界〉からの(目的は不明ながら)招待であると悟り、融合世界では絶えて久しい新たな発見を求めて、 高密度で天体がひしめく銀河系中央部へ旅に出る。 一方、〈白熱光〉からの光と風をエネルギーの基盤とする岩塊〈スプリンター〉で暮らす種族の一人ロイが、 重力について考えている老人ザックと出会う。これをきっかけにロイは重力に関する実験と理論の構築に没頭し、 やがて、〈スプリンター〉の成り立ちと未来に起こる危険に気付く。 | ||
評 | 統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★ | ||
大学で物理学を学んだか、その辺を流し読みできるSF経験値がないと、 多分まったく読み進められないハードルの高い一冊(僕は後者)。 イーガンの(少なくとも長篇としては)ストレートなハードSFというのは珍しいが、 知的存在への干渉に関するラケシュの倫理的葛藤がイーガン流。ここを倫理の観点で語る人は他にいないだろう。 そして、それまで体系的科学知識を持っていなかったロイの種族は、たった一世代で、重力に関する理論と、 それを記述する高度な数学体系を生み出し、さらには、 それをもとに種族全体の運命を左右する一大工学プロジェクトを始めてしまう。 宗教とか権力みたいな夾雑物なしに世界と対峙できる彼らだからこそ、アレになれるのかもしれないけれど、 あまりにも理想主義的かも。 | |||
イカした言葉 「知識はそれ自体ですばらしいものだ。理解することもそれ自体が素晴らしい」(p351) |
題 | 天冥の標Ⅶ 新世界ハーブC | 著 | 著: 小川一水 |
版 | ハヤカワ文庫 2013年,760円, ISBN978-4-15-031139-1 | 帯 | 第7巻のさらなる絶望 |
話 | 異星人の干渉により人類のテクノロジーを超越した《救世群》とロイズの戦争の末、 《救世群》がばらまいた「冥王斑」原種により、太陽系中の全ての国家・コミュニティは壊滅したが、 小惑星セレスの内部に秘かに作られていた空洞に5万人の子どもたちと少数の成人が避難していた。 集団活動の経験を積んだスカウトの少年少女たちの的確なリーダーシップにより、なんとか秩序が維持される地域がある一方、 混沌とした空洞内では多数の命が失われる事故・悲劇が続く。 それでも、自治組織を軌道にのせた彼らは、外部の怪物化した《救世群》から見つからないように、 また、閉鎖環境での生存をかけて、重度のプレッシャーに耐えながら奮闘する。 数年後、人類文明最後の橋頭保として壮大な決断が下される。 | ||
評 | 統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★★ | ||
ついに1巻の世界の成り立ち、偽りの歴史の始まりが描かれる。 そうだとすると、1巻の最後の方で登場した、外部から来たあの2人の正体は? とか、 色々と残る疑問が今後明らかになっていくのだろう。残り3巻のクライマックスに向けての期待が高まる。 はたして、異星の勢力に侵食・改竄された人類の運命はどうなることか。 | |||
イカした言葉 「愛を誓えるのは生きているうちだけだ。」(p63) |