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小説評論もどき 2012上半期 (14編)


私の読書記録です。2012年1月分-6月分、上の方ほど新しいものです。 「帯」は腰帯のコピー。評価は ★★★★★ が最高。

June, 2012
天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ (上/下) 著: 小川一水
ハヤカワ文庫 2009年, 各660円, ISBN978-4-15-030968-8/4-15-030969-5
入植から300年を経た惑星メニー・メニー・シープ。 資源の乏しいこの星の文明は、首都の地下深くに埋もれた植民船シェパード号の原子炉が供給する電力で支えられており、 それを掌握する臨時総督が植民地を支配している。まだ少年である当代の総督は過酷な配電制限を各地に課し、 植民地に不穏な空気が流れ始めるなか、《海の一統》が統治する独立の気風の強い港町セナーセーに謎の疫病が発生する。 医師カドムは、その病気がかつて「冥王斑」と呼ばれたこととその対応策を突き止め、 さらに疾病の発生源らしき正体不明の怪物を捕獲する。 やがて、総督の配電制限は厳しさを増し、不満から行動を起こす人たちを、総督配下の軍事警察は容赦なく弾圧していく。 総督の目的は何なのか。カドムや《海の一統》の若きリーダー・アクリラ、そして 各地の人々は、総督の目的を突き止め、そして彼を打ち倒すべく密かに連携を始めていく。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★
全10巻の長大なシリーズということで敬遠していたが、巻を重ねて評判が高く、 本当に21世紀初頭の日本SFを代表しそうな勢いで、それであれば読まねばと。 壮大な物語の開幕となる本書は、一言でいえば謎の提示だ。 謎めいた単語がちりばめられたまま、次第に見えてくるメニー・メニー・シープの世界の成り立ちと実態は、 しかし、最後に根底から覆され、巨大な謎だけが残る。さて、とりあえず数巻は追いかけてみよう。
イカした言葉 「してほしいって誰にだい。誰もどうにもしてはくれんよ。自分たちでやらにゃな」(上p158)
ホーンズ 角 (原題: Horns) 著: ジョー・ヒル (Joe Hill) / 訳: 白石朗
小学館文庫 2012年(原典2010), 980円, ISBN978-4-09-408465-8 ジョー・ヒルの最高傑作誕生!
青年イグは、長年の恋人メリンを殺害されて失ったばかりか、その容疑者として逮捕される。 証拠不十分で釈放されたものの、街の人たちからは犯人と思われ疎まれている。そんなおり、突然、彼の頭に角が生えてきた。 その角は、それを見た人を支配し、抱え込んだ心の奥をさらけ出させてしまう力を彼にもたらした。 信用していると口にしていた人々や家族までもがイグが犯人だと考えていることや、 彼らの隠していた様々な罪にショックを受けるが、メリン殺害の真犯人も明らかになる。 彼は人生を奪った意外な真犯人に復讐を決意する。 物語は、イグがメリンと出会い、分かちがたい恋人になった子ども時代や、 メリン殺害前後を様々な視点で語るエピソードを重ねつつ、真犯人との壮絶な対決へ向かっていく。 全ては、森の中の廃工場跡を隠れた中心とし、さらにある超現実的な存在に導かれて動く。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★★
『20世紀の幽霊たち』でデビューした作者の第二長編 (第一長編の『ハートシェイプト・ボックス』は何かタイミングが合わなくて読んでない)。 やっぱりうまくて、単なるホラーの枠を超えた現代文学のたたずまい。 ホラー、もしくはファンタジーとしても常に読者の予想を外し続ける展開が良い。良い、のだが、 この作者の出自を考えるとそういう王道へ向かうのはどうかと思う。 もっといろんな意味で外道なのを書ける才能があるはずだ。
May, 2012
バナナ剥きには最適の日々 著: 円城塔
早川書房 2012年, 1500円, ISBN978-4-15-209290-8 芥川賞受賞作第1作
2008年から2010年にかけて様々な媒体に発表された短編9編を収録。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★
この人は、本当に軽やかにいろんな媒体に書いている。 本書はサブカル系の雑誌に掲載されたものが多いが、その中でも異色なのは、 テクノユニットagraphのアルバムにつけられたブックレット「equal」。 その「equal」を筆頭に、相変わらずの難解さながら、文章の切れ味が尋常ではない。 意味を超越して、数学的もしくは詩的な美的構造が稠密な唯一無二の世界。
ファイナル・オペラ 著: 山田正紀
ハヤカワ・ミステリワールド 2012年, 2000円, ISBN978-4-15-209279-3 『ミステリ・オペラ』三部作完結
敗色濃厚な昭和20年。 八王子の長良神社では、代々神職を務める明比家が14年ごとに演じる能「長柄橋」の準備が行われていた。 さらわれた子どもを殺された母親が、仏法に救われようとする人さらいに、仏の力を越えて復讐しようとする筋書きだが、 詳細は家長のみに口伝で継承される秘能だ。当主の三男で20歳になる花科は、先代がシテを演じた前回を回想する。 そのときは、舞台上で人が殺され、子どもが一人消えたようなのだが、 現実にはありえない記憶が混在していて、自分が出演したのかも定かでない。 今回の舞台に際しても、子どもの失踪や前回の事件に連なる不穏な出来事が続き、 さらに、なぜか特高や憲兵が明比家と舞台に不気味な関心をよせている。 そんなおり、黙忌一郎と名乗る青年が現れ、「長柄橋」は世界最古の探偵小説であると語り、 「長柄橋」の意味を明比家の人間たちに問いかける。 そして、能舞台が幕を開けたとき、八王子を焼き尽くす大空襲が始まった。
統合人格評★★★ / SF人格評★★ / ホラー人格評 ★★
『ミステリ・オペラ』『マヂック・オペラ』に続く、 「オペラ」三部作の完結編。今回も探偵役は検閲図書館・黙忌一郎なのだが、実のところ、本作において彼は何もしない。 それに限らず、ミステリとしての緻密さを放棄しているのはいつものことで、回収されない伏線や破綻した論理が目立つ。 しかし、子どもの命が理不尽に失われ続けるこの世を断罪し、フィクションの力で悲惨なリアルを打ち破るという、 月を素手でつかもうとするような無謀な試みは、一定程度成功しているように思える。
イカした言葉 「なに、よく頭をつぶしときましたからね。万に一つも生き返る気づかいはありません」(p320)
夢宮殿 (原題: Nepunesi i pallatit te endrrave) 著: イスマイル・カダレ (Ismaïl KADARÉ) / 訳: 村上光彦
東京創元社創元ライブラリ 2012年(原典1981年), 1100円, ISBN978-4-488-07070-0 迷宮のような建物の中には、選別室、解釈室、筆生室、監禁室等が扉を閉ざして並んでいた……。
19世紀後半のオスマントルコ帝国。旧家の若者マルク=アレムが職を得たのは、 独自の権勢を誇る役所〈タビル・サライ〉。帝国全土から人々の見る夢を収集し、選別し、分類し、解釈して、 帝国の運命にかかわる予知夢を皇帝に献上するその機関は、無数の部屋からなる巨大な迷宮のような建物を拠点とし、 別名「夢宮殿」と呼ばれる。 その建物同様、巨大な迷宮である官僚組織の迷宮のような業務の歯車として働くマルク=アレムは、 やがて、国家と彼の一族にかかわる全貌の見えない事件らしきものに巻き込まれていく。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★
アルバニアを代表する作家で、後に独裁国家であった祖国からフランスに亡命したカダレの長編。 不条理な世界を描く東欧の作家ということでカフカを連想させるし、 国家権力による個人精神の検閲の恐ろしさ云々みたいな書評があったりするが、実のところそんな感じでもない。 主人公の仕事も、彼が巻き込まれる事件も、何か巨大なものを仄めかしつつも、全体像は決して明らかにならない、 という寓話があてはまるのは、別に独裁国家に限られたものではないしね。
イカした言葉 「ここにあるのは、冬のあいだ風がひどくて苦労する民族が夢に見た世界の終末だよ」(p207)
NOVA7 責任編集: 大森望
河出文庫 2012年, 950円, ISBN978-4-309-41136-1
10編を収録する、日本SF短編書き下ろしアンソロジーの第7巻
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★
今回は、新人からベテランまで、やたらイキのいい作品がそろった。 宇宙の貸金業者の奮闘というどちらかというとギャグ的な舞台に、ダン・シモンズやイーガンばりの ハードで奇抜なアイデアを乗せるギャップが抜群の「スペース地獄篇」、 ヘンテコな宇宙下ネタの2編「コズミックロマンスカルテット with E」「土星人襲来」などなど。 日本SFの豊穣を証明する一冊。こうなると、編者の伯楽ぶりが際立ってくるなぁ。
April, 2012
ポオ小説全集(1-4) 著: エドガー・アラン・ポオ (Edgar Allan Poe)
創元推理文庫 1974年, 720円/740円/700円/680円, ISBN4-488-52201-7/4-488-52202-5/4-488-52203-3/4-488-52204-1
活躍した19世紀アメリカを超え、世界の文学史の中で皓然と輝く巨星の全集。 推理小説を生み出し、怪奇幻想、SF、冒険ロマン、ナンセンスなユーモア、とジャンル小説のほぼ全領域で卓越した業績を残し、 それぞれの方向性を定め、後世に多大な影響を与えた天才の長短65編を収録。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★★
ふと思い立って200年前の古典にチャレンジ。子ども向けに翻案された「モルグ街の殺人」とかだけで、 実はまともに読んでいなかったポオだが、僕が好んで読むほぼ全ジャンルのルーツだし、教養としてちゃんと読んでおかねば。 古めかしく、作中のロジックはもう意味をなさない作品も多いが、それでも面白い。 「ハンス・プファアルの無類の冒険」「メルツェルの将棋差し」「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」 「メエルシュトレムに呑まれて」など、なんとなく知ってはいた作品の数々をようやく実際に読むことができた。 何かの機会に引用してカッコつけるネタが増えた。
March, 2012
第六ポンプ (原題: Pump Six & Other Stories) 著: パオロ・バチガルピ (Paolo Bacigalupi) / 訳: 中原尚哉・金子浩
新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 2012年(原典2008), 1600円, ISBN978-4-15-335002-1 ローカス賞/スタージョン記念賞受賞!
『ねじまき少女』でSF界に 大きな衝撃を与えた著者の第一短編集。『ねじまき少女』と同じ未来を舞台とする2編を含む10編を収録。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★★★
SFマガジンに掲載された「カロリーマン」で著者を知った2007年以来、出版を渇望していた短編集。 荒廃し牙をむく自然環境を、生き残るためになりふりかまわず克服しようとする人類と、 それに取り残される/踏みつけにされる一部の人々を描き続ける著者の視点は、21世紀の文明が抱える不安を精確に抽出する。 その鋭さにおいて他を圧倒する著者の技は、長篇の『ねじまき少女』より、短編の方が冴える。現代人は読んでおくべき。
February, 2012
怪談実話FKB 饗宴/饗宴2 監修: 平山夢明
竹書房文庫 2011年, 各648円, ISBN978-4-8124-4538-9/978-4-8124-4754-3
怪談の語り手だけでなく、グラビアモデルや芥川賞作家なども集まった実話怪談集のシリーズ2冊。 様々なジャンルで活躍する語り手たちが採集した、不思議で不気味で不可解な掌編。
統合人格評★★★ / SF人格評★ / ホラー人格評 ★★★★
言ってみれば実話怪談版の異形コレクション。 実話怪談という文芸様式は嫌いなわけじゃなく、書店ではよく流し読みをしていたのものの買い求めるほどではなかった。 しかし、今回あらためて購入に至ったのは、 2冊ともに円城塔が参加していたためで、 その点からもわかるように、節操のないともいえる語り手のラインナップが良いね。
バレエ・メカニック 著: 津原泰水
ハヤカワ文庫JA 2012年, 660円, ISBN978-4-15-031055-4 これは困難とされている前衛とSFの間隙を滑空し幻想的未来へと読者を誘う異色作である。筒井康隆
突如として発現した大規模な集団幻覚により機能停止した東京を、 天才ともてはやされる芸術家の木根原は行く。昏睡状態のまま入院している娘の病院を目指して。 しかし道中に遭遇する非現実的な事物に、彼はこのパニックの根底に娘の理沙がいることに気づく。 彼女の失われた脳機能を東京という街のネットワークが肩代わりし、それが暴走しているようなのだ。 やがて、異常な事態は一旦終息するのだが、ネットワークの中に拡散した理沙の存在は、ここで暮らす人々を変えていく。 数十年の時間を経て変容する東京を描く連作短編。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★
サイバーパンクだ!  しかも80年代のギブスンそのままの。 この作者らしくフェティッシュとシュールの香りの濃厚さはむせ返るほどだが、 これほどまでにストレートなサイバーパンクとは、ちょっと驚き。
イカした言葉 「恋愛が裁かれうるとは思えないな。ほかにひどいことをしてたら別だけど」(「貝殻と僧侶」p139)
道化師の蝶 著: 円城塔
講談社 2012年, 1300円, ISBN978-4-06-217561-6 第146回 芥川賞受賞作
人生の大半を航空機の旅客として過ごした奇矯な大富豪が追い求めた、多言語を操る謎の作家。 素性の一切が不明で、世界中を気ままに移動し所在も生死も不明だが、その滞在先に無数の原稿が発見されることで、 かろうじてその足跡を知ることができる。着想を捕まえる捕蝶網をめぐる、書くこと、読むこと、翻訳することに関する物語。 芥川賞受賞作「道化師の蝶」
外国の同業者と互いの著作を翻訳しあう作家が、あるとき相手の作家の居所を訪ねる。 翻訳の名のもとに、相手の作品、さらには相手自身を好き勝手に解体し再構築し捏造する試みを競い合っていたのだが、 訪れた先にいたのは相手の作家ではなく、そこにいた人物が語るのは作家の正体についての奇妙な言明だった。「松ノ枝の記」
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 -
この読書録をはじめて10年。ついに、芥川賞受賞作そのものをとり上げるときが来た。 といっても、円城塔は円城塔なので、わけのわからないのはいつものこと。 芥川賞受賞をきっかけに初めて手に取る人は面食らうだろう。 物語そのものは相当に意味不明ながら、語り口のリズムと、その語りによって連れて行かれる先の突拍子のなさと、 それでいて緻密な作品の構造は相変わらず心地よいのだが。そのうちノーベル文学賞でも獲るのかね。
イカした言葉 「この連語は、扉のような形をしている。広がりが狭い。連絡がない。」(「道化師の蝶」p35)
都市と都市 (原題: The City & The City) 著: チャイナ・ミエヴィル (China Miéville) / 訳: 日暮雅通
ハヤカワ文庫SF 2011年(原典2009), 1000円, ISBN978-4-15-011835-8 主要SF/ファンタジイ賞を独占した驚愕の小説
バルカン半島にある都市国家ベジェル。ベジェル警察のボルル警部補は、 身元不明の若い女性を被害者とする殺人事件の捜査を進めるうちに、彼女が隣国ウル・コーマに暮らしていたことを突き止める。 ベジェルとウル・コーマは、地理的には同一の場所にあり、複雑に絡み合う領土で構成される両国家の住人達は、 すぐ隣にある他方の都市の事物・住人を〈見ない〉〈聞かない〉ことが厳しく求められ、 〈ブリーチ〉と呼ばれる領域侵犯のタブーを犯した者は、超越的な権能を持つ機関〈ブリーチ〉に連行され二度と帰ることがない。 手に余る〈ブリーチ〉の可能性を持つ事件に、ボルルは、公式な国境を越えてウル・コーマ民警とも協力しながら捜査を続けるが、 被害者の関係者を巻き込む事件が続く。そして一連の事件に共通するのは、 二つの都市の狭間にあると噂される実在しないはずの第三の都市〈オルツィニー〉をめぐる何かのようなのだ。 迷宮のような都市間の迷宮のような事件を探るうちに、ボルルは触れてはいけない領域に踏み込んでゆく。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★
不条理とも見える設定の社会を舞台としたハードボイルドな警察もの、となると、 『ユダヤ警察同盟』を彷彿とさせる。 本作もSF要素はほとんどないのに、ヒューゴー賞、ローカス賞、クラーク賞などのSF各賞を獲得しているが、 それも納得のミエヴィルらしい世界構築で、異様極まりない世界の上に世界情勢や歴史の歪みのアナロジーを乗せる渋い技。 カフカのような不条理かと思いきや、物語が進み、視点が広がるにつれ、現実的論理を増していくのが面白い。
イカした言葉  陰謀があると考えるのと、陰謀などないと考えるのとでは、どちらがより愚かで子供じみているだろう?(p231)
January, 2012
リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (原題: Leviathan) 著: スコット・ウエスターフェルド (Scott Westerfeld) / 訳: 小林美幸
新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 2011年(原典2009), 1600円, ISBN978-4-15-335001-4 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ創刊 第1回配本はローカス賞受賞に輝く熱血スチームパンク!
産業革命以来発展を続ける機械工学を国力の基礎とするドイツ、オーストリアと、 ダーウィンが進化論を超えて確立した遺伝子工学により改変された様々な生物を使役して栄えるイギリス、フランスが対立する、 別の歴史をたどった20世紀初頭のヨーロッパ。 オーストリアの大公夫妻がセルビアで暗殺されたことを発端に、ヨーロッパ全土を巻き込む戦乱が始まる。 暗殺された大公夫妻の息子アレックは、数名の家臣とともに一台の2足歩行機械・戦闘ウォーカーに搭乗して、 大公暗殺の黒幕であるドイツ軍からの逃避行に出る。 一方、父親の影響で空にあこがれる少女デリンは、性別を偽って英海軍航空隊の士官候補生試験を受ける。 試験中の事故により空を漂流しているところを、体内に蓄積した水素を浮力とするクジラ由来の巨大飛行獣リヴァイアサンに救出され、 そのままその乗務員となる。 しばらくして、リヴァイアサンにはロンドンから一人の科学者と極秘の積荷を載せてオスマン帝国へと向かう任務が与えられる。 そして、スイスの山奥で、ともに14歳の若者たち、アレックとデリンの運命が交わり、 第一次世界大戦下のヨーロッパの歴史が大きく動き始める。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★
熱いね、これは。伝説の「ハヤカワ銀背」を復活させたレーベルの第1弾は、 アメリカのヤング・アダルトの三部作開幕編。 若い読者を想定した物語ながら、血沸き肉躍る冒険譚として、 スチームパンクな世界構築も含めて大人の読者にも魅力十分で読みごたえあり。続編にも期待大。 遺伝子工学の〈ダーウィニスト〉と機械工学の〈クランカー〉の科学技術は、いくらなんでもな オーバーテクノロジーだけどね。漫画化は荒川弘にお願いしたい。
イカした言葉 「風変わりな人間というのは、時として誰も気づかないことを発見するものなのよ。」(p184)
マインド・イーター [完全版] 著: 水見稜
創元文庫SF 2011年, 1100円, ISBN978-4-488-74201-0 「日本SFが成し遂げた最高の達成」 — 飛浩隆
ビッグバン以前の宇宙の残滓で、純粋な憎悪をたぎらせながら星間を漂う無数の鉱物的存在 マインド・イーター(M・E)。M・Eに襲われその悪意にさらされた人間は、精神と身体が異質なものに変貌し、 さらに、その影響は距離を超え精神的紐帯をたどって恋人や肉親にまでおよぶ。 宇宙に進出した人類が遭遇したM・Eとの戦いの変転する諸相を描く8編。1980年代に発表された連作の復刊。
統合人格評★★★ / SF人格評★★★ / ホラー人格評 ★★
ど真ん中なのに、どこか遠くにある。この歴史的なシリーズを読んでの感想だ。 科学的にどうこうとかではなく、人類・生命・言語・音楽についての繊細な思索を核とする、 あの頃の時代的感覚を象徴するような作品だと思う。しかし、この作品をいま復刻する意味はよくわからないな。