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小説評論もどき 2011上半期 (14編)


私の読書記録です。2011年1月-6月分、上の方ほど新しいものです。 「帯」は腰帯のコピー。評価は ★★★★★ が最高。

June, 2011
ヴァンパイアハンター・リンカーン (原題: Abraham Lincoln VAMPIRE HUNTER) 著: セス・グレアム・スミス (Seth Grehame-Smith) / 訳: 赤尾秀子
新書館 2011年(原典2010), 1000円, ISBN978-4-403-56004-0 人民の人民による、人民のための吸血鬼狩り
アメリカの田舎の雑貨屋店員としてくすぶる作家志望の男のもとに現れた謎の人物が、 これをもとに小説を書くようにと彼に渡した数冊の古い日記。 それは、第16代米国大統領リンカーンが若いころから書き溜めてきた秘密の日記で、 そこにはアメリカ史に潜む吸血鬼の脅威と戦ったリンカーンの日々が記されていた。 母親を殺した吸血鬼の撲滅を誓った若き日のリンカーンは、 使い込んだ斧を手に吸血鬼を屠るヴァンパイア・ハンターとして活動する傍ら、政治の道を志す。 やがて、奴隷制が吸血鬼の温床であり、彼らが人類全体の奴隷化を企てていることを知ったリンカーンは、 奴隷制廃止を訴えてついには大統領となり、人類の存亡をかけた南北戦争を指揮することになる。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★
『高慢と偏見とゾンビ』で世を唖然とさせた 作者の架空歴史小説。前作と異なり、ふざけた要素は皆無。 現実の歴史と吸血鬼の存在をシームレスにつなぎ合わせる技がきわめて巧みで、本当にあった秘史にすら感じられるほどだ。 リンカーンとエドガー・アラン・ポーが吸血鬼を通じて出会い、互いの感性は逆を向きながらも 友人関係を築いていたとかのディテールが面白い。業師だなぁ。
イカした言葉 「きみも人生で学んだはずだ、リンカーン、美しさとおぞましさは共存しえる」(p314)
ねじまき少女 (上/下) (原題: The Windup Girl) 著: パオロ・バチガルピ (Paolo Bacigalupi) / 訳: 田中一江・金子浩
ハヤカワ文庫 2011年(原典2009), 各840円, ISBN978-4-15-011809-9/4-15-011810-5 『ニューロマンサー』以来の衝撃! / 2010年代をリードする超新星、登場!
石油資源が枯渇し、突然変異を繰り返す疾病・害虫がヒトや農業を蹂躙する未来。 衰退した文明は遺伝子操作された巨獣が巻き上げたゼンマイを動力として維持されているが、 その飼料も含め、疫病に耐性を持った遺伝子改変作物を供給するカロリー企業が世界経済を支配している。 その中で、タイ王国は独自の遺伝子資源をもとにかろうじて独立を維持している。 その立役者は、疫病を強引に抑え込み、違法な遺伝子物資の流入を阻止するために時に苛烈な取り締まりを行う環境庁だが、 カロリー企業などの国外勢力と協力しつつ国力を強化しようとする通産省との権力闘争が国情に不穏な影を落としつつある。 新型ゼンマイ工場を経営する、実はカロリー企業の尖兵である米国人アンダースン、 祖国を追われ富豪から難民に身を落としアンダーソンの工場で働く華僑ホク・セン、 環境省実行部隊の隊長で民衆のヒーローであるジェイディー、そして、日本製の遺伝子改変人類だが主人に捨てられ、 最底辺の娼婦としてバンコクの夜に隠れ自由を夢見るエミコ。社会の大きな変動は、彼らの運命を翻弄する。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★★★
時代の背後に流れる空気を特定し言語化するのは、SFの役割の一つであって、 この奇妙な名前を持つ作者の一連の作品群は、遺伝子と環境をキーワードとする21世紀のリアルを強烈に印象づける。 本作はその第一長編で、この陰鬱なまでに暗い未来は、あらゆる資源を浪費し続けた我々を待ち構えているであろう世界の姿だ。 とはいえ、先行する短編に比べ、インパクトは弱めかも。萌えの要素はあるようで無い。
イカした言葉 「大切なのは町じゃない、人なんだ。人が奴隷状態だったら、町になんの意味があるんだ?」(下p360)
May, 2011
NOVA4 責任編集: 大森望
河出文庫 2011年, 950円, ISBN978-4-309-41077-7
特定テーマなしの日本SF短編書き下ろしアンソロジーの第4巻。9編を収録。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★
今回はおおむねSFな感じの作品が多いようなそうでもないような。 京極夏彦「最后の祖父」の何とも言えない読後感がいい感じ。
殺戮のチェスゲーム(上/中/下) (原題: Carrion Comfort) 著: ダン・シモンズ (Dan Simmons) / 訳:柿沼瑛子
ハヤカワ文庫 1994年(原典1989), 各720円, ISBN4-15-040753-3/040754-1/040755-X
アメリカ南部チャールストンに暮らす老女メラニーのもとに二人の古い友人たちが訪れる。 他人の精神と身体を操り糧とするマインド・ヴァンパイアである彼らが成果を披露しあう定例の集いのためだ。 しかし、先に帰った彼らの一人ウィリーの搭乗した飛行機が墜落した知らせをきっかけに、残った二人、 ニーナとメラニーの間に積もった不和が発火した。無関係の人たちを多数巻き込んだ争いの末、 メラニーはニーナを殺害し、街から逃げ出した。 その数日後、関連性のない多数の殺人と無害な老婦人の失踪という理解不能の事件に混乱するチャールストンに 精神科医のソールが現れた。彼は第二次世界大戦中、ポーランドでの虐殺を生き延びたユダヤ人の一人で、 彼を蹂躙したナチス大佐のヴァンパイア数十年追い続けていたのだ。 その大佐こそがウィリーで、その消息の調査の過程で事件の遺族ナタリーや街の保安官ロブと出会う。 事件の真相を求める彼らは、信じがたい真実を明かしたソールとともに、 人類の捕食者であるウィリーとメラニーを滅ぼすべく追跡を開始する。 一方、ウィリーの行方を求めるもう一つのグループがあった。 アメリカ政財界を支配するクラブを構成する5人のヴァンパイアたちだ。 制御しがたい強力な老人3人を排除しようとたくらんだ彼らの強大な権力をあざ笑うように、 姿を消したウィリーは様々な手を指してくる。 ヴァンパイアたちと彼らを追うか弱き人間たちの間で複雑なチェスの局面が展開されていく。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★
またもや古いの再読。とんでもなく面白いので人に薦めたくても、たぶんもう入手困難なのが惜しい。 クライマックスに次ぐクライマックスのドライブ感。 読者を面白がらせよう、びっくりさせよう、とするサービス精神の極みのような物語だ。 ダン・シモンズは、物語の魔人だという思いを強くする。
イカした言葉 「権力者たちは世界の関心を惹きつけることができた――たとえその権力が完全な悪の 形をしていたとしても。だが犠牲者たちは、いつまでたっても顔のない大衆のままだ。 統計の数字であり、巨大な共同墓所でしかない。」(下p349)
April, 2011
連続殺人鬼カエル男 著: 中山七里
宝島社文庫 2011年, 600円, ISBN978-4-7966-8089-9 無差別殺人、狂的妄想、暴力衝動。重層する悪意はメビウスの輪、すべては解剖台に戻っていく。カエルの解剖台に――。  作家 島田荘司
埼玉県飯能市。全裸の女性の死体が、マンションの13階から吊されているのが発見され、 その横には、子どもが書いたような稚拙な文字と内容の犯行声明が置かれていた。 のちに「カエル男」と呼ばれる連続殺人鬼の最初の犯行だった。 県警による必死の捜査をあざ笑うかの様に第二第三と続く猟奇殺人は、際だった幼児性を示す一方、 一切の証拠を残さず自らの犯行が社会に与える影響を計算しているような高度な知性も仄めかす。 進展しない捜査にいらだつ世間は、カエル男の犯行の「ルール」が見えた時、遂にパニックに陥ってしまう。 飯能署刑事の古手川は、捜査の際に出会った犯歴のある知的障碍者当真勝雄を、暴走する市民から救おうとするのだが...
統合人格評 ★★★ / SF人格評 - / ホラー人格評 ★★★
2009年「このミス」大賞最終候補作「災厄の季節」を改題した本書。 選考委員の大森望氏が言うとおりマイケル・スレイドの向こうを張る、偽悪的な猟奇表現と、あざといまでの仕掛けを張り、 どんでん返しの連続で読者を驚かせる職人技の光る一品。 とは言え作家としては新人で、浮いたエピソードとか設定もいくつかあるが、その粗さも含めての意欲作。
イカした言葉 「或る状況下では、不道徳は許されないが、不謹慎は許される。」(p45)
シリンダー世界111 (原題: Emissaries From The Dead) 著: アダム=トロイ・カストロ (Adam-Troy Castro) / 訳: 小野田和子
ハヤカワ文庫 2011年(原典2008), 1100円, ISBN978-4-15-011800-6 『リングワールド』以上の特異な巨大構造体を舞台にミステリ仕立てで展開する傑作ハードSF巨篇!
人類を含む知性種族たちが競合する宇宙で、最も力を持つ勢力である独立人工知性集合体〈AIソース〉が 建造した直径1000km、長さ10万kmという途方もないサイズの円筒世界。 通常の円筒型ハビタットであれば居住空間となる内壁は高圧・有毒な大気で満たされ、 生存の為には中心軸に張りわたされた蔓状植物の森からぶら下がるしかない逆転した世界。 〈AIソース〉が創造したこの生態系を研究するために派遣された人類の調査団のメンバーが不可解な状況で死亡した。 人類外交団に所属するアンドレアが真相究明の為に送り込まれるのだが、彼女に求められているのは、 明らかに事件に関与しているとしか思えない〈AIソース〉を犯人として政治問題化することを避け、 他の犯人を見つけ出すこと(もしくはデッチ上げること)。 しかし、調査団のメンバーはそれぞれ秘密を抱えているらしく、さらにアンドレア個人に対する悪意ある正体不明の攻撃が続く。 やがて事態は意外な方向に動いていく。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★
舞台は未来の宇宙だが、主人公→過去に傷をもつ探偵、 巨大な宇宙ステーション→謎の富豪一族が隠然と支配する街、 調査団のメンバー→その暗黒街に巣くう一癖も二癖もある容疑者たち、 と読んでいる内にミステリ・ノワールのイメージが二重写しになってくる。 ものすごくハードSFなのに、ひねくれた設定とひねくれたセリフのみが前に立つひねくれた話。 そのくせラストに、主人公は何かえらく可愛らしくなってしまうし。
イカした言葉 「そして管理職というものは、人類の歴史がはじまって以来ずっと、本気で仕事をしようなんて思ったためしがない。 管理職が取り組む真の議題は、いつの世も、管理職が気分良くすごせるようにすることなんです」(p96)
アヌビスの門(上/下) (原題: The Anubis Gates) 著: ティム・パワーズ (Tim Powers) / 訳:大伴墨人
ハヤカワ文庫 1993年(原典1983), 各640円, ISBN4-15-020181-1/020182-X
コールリッジやバイロンとも親交があったことは知られているが経歴に謎の多い英国詩人アッシュブレスを 研究する英文学者ドイルは、隠遁した大富豪ダロウに荒唐無稽な仕事を持ちかけられる。 ダロウが発見した、19世紀初頭を中心として前後数百年に分布する「孔」を通じて時間を超え、 コールリッジの講演を聞くツアーのガイド役を務めてくれというのだ。 ところが、現代への帰還を前に、ドイルはジプシーを率いるエジプトの魔術師に拉致されてしまう。 エジプトを支配する英国を壊滅させるために、太古に姿を消した神々を召喚しようとした起死回生の魔術の失敗の痕跡が「孔」で、 彼らから見ると「孔」を勝手に利用する謎の魔術師の一人であるドイルにその目的を問いただそうとしたのだ。 辛くも逃げ出したダロウは現代に帰る手だてを失い、丁度そのころ世に出てくるはずのアッシュブレスとの接触を試みるのだが、 なぜか彼は記録された日時・場所に姿を表さない。 ロンドン社会の底辺に位置する物乞いのギルドの一つに身を寄せることになったドイルは、 もう一つの物乞いギルドの長で人体改造を趣味とする奇人や、他人の身体に乗り移る怪人、 そしてかの魔術師たちが跳梁するロンドンとエジプトを巡り、時代を跳躍する奇想天外な冒険に巻き込まれる。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★
『幻影の航海』が「パイレーツ・オブ・カリビアン」第4作の土台になって、 ふいにスポットがあたったティム・パワーズの出世作を再読。 なんでこれが映像化されていないのか疑問なほど、映画的な面白さを堪能。 ドイルの脳天気なタフさが良い。その時代と現代にいたる歴史を知悉しているとはいえ、 完全なる異境である過去のロンドンに身一つで放り出され物乞いにまで身を落としているのに、 あっけらかんと適応する生命力が物語の駆動力で、その軽さが身上だ。 史実と虚構を混ぜる手業、時間を行き来する仕掛けもよく、本当になんでまだ映画になってないかね。
イカした言葉 「歪められし美徳は、萎縮せる悪徳よりも、むしろ遥かに警戒すべきものではあるまいか。」(下p349)
March, 2011
江戸迷宮異形コレクション 監修: 井上雅彦
光文社文庫 2011年, 914円, ISBN978-4-334-74901-9 全篇時代劇
異形コレクション第47弾。江戸を舞台とする時代小説を縛りとして集められた、異形の物語18編
統合人格評★★★ / SF人格評★ / ホラー人格評 ★★★★
『京都宵』に続き地域限定の異形コレクション。 さらに時代も限定された時代小説のフォーマットで、その領域で活躍する書き手たちも参戦している。 一方、いつもは室町時代を舞台とする一休宗純もので課題をこなす朝松健への嫌がらせのようなテーマ設定でもあり、 さすがに今回は別の物語。江戸に奇譚・怪談は良く馴染む。
February, 2011
NOVA3 責任編集: 大森望
河出文庫 2010年, 950円, ISBN978-4-309-41055-5 日本SFの危険なビジョン
特定テーマなしの日本SF短編書き下ろしアンソロジーの第3巻。9編を収録。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★
今回は色々とバラエティに富んだSFが楽しめる一冊になっているかな。 円城塔と浅暮三文のあいも変わらずヘンテコな作品もSFの香りだけはする。 小川一水「ろーどそうるず」はベタだが泣けるね。
華竜の宮 著: 上田早夕里
ハヤカワSFシリーズJコレクション 2009年, 1600円, ISBN978-4-15-209163-5 滅びゆくこの星の上で、彼らは生きるため闘い続けた。
25世紀、地球内部構造の変化により250メートル上昇した海面にほとんどの陸地は沈み、 人類は一時は滅びかけたが、海上都市の建設や遺伝子改変で混乱の時代を脱し、再度の繁栄を謳歌している。 わずかに残された大地に暮らし高度な文明を維持する陸上民と、 ヒト由来の遺伝子で作られた巨大な〈魚舟〉に住み、海上を自由に移動し暮らす海上民に分かれた人々の間で、 社会が安定し人口が増加するにともない対立が深まりつつあった。 日本の外交官、青澄は、海上民を支配下に置きたい政府の意向を受け、大船団の一つを率いる女性の長ツキソメとの交渉に臨む。 海上民の主張と利益も尊重する青澄は、政府と海上民の利害を満たす策を求めて奮闘する。 しかし、アメリカを中心とする連合ネジェスがツキソメを犯罪者として追っていることがわかる。 実際、ほとんど老化もせず自分自身でも出自不明の彼女にまつわる謎は多い。 そのころ、アジアの大国が、海上民を暴力的に排斥する動きに出てアジア地域の海上の緊張が一気に高まる。 そして、国際的研究機関が地球の更なる大変動を予測する。50年以内に必ず発生するそれは人類どころか 地球上の全生命を滅ぼす恐るべきもので、世界中の政府組織は極秘に人類の改変を含めた対策に取りかかる。 青澄はそれでも海上民も含めた全ての人々を救うべく世界中を駆け回る。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★
地球科学や遺伝子工学を扱うハードSFであり、それを基盤とする社会構造をリアルに描く社会派SFでもあり、 全盛期の小松左京にも比肩する大作だ。 常に現場に身を置き、自分の所属組織に反抗してでも他者の幸福の為に全力を尽くす主人公青澄 (映画化するならやっぱり織田裕二?)をはじめ、登場人物は、皆、 熱い人物ばかりでそれぞれの正義を掲げて困難極まる戦いに身を投じる。 結末が投げっぱなしなのが気になるなぁ。人類はどうなっちゃったんだ?
イカした言葉 「子供たちは、おれが常世でしっかり面倒を見ておく。おまえはゆっくり来たらいい。 いいか。ゆっくりとだぞ。急いでくるんじゃないぞ」(p129)
ゼロ年代日本SFベスト集成 ぼくの、マシン / 逃げゆく物語の話 編: 大森望
創元SF文庫 2010年, 各1000円, ISBN978-4-488-73801-3/978-4-488-73802-0
2000年代の日本SFを総括する傑作選。 主に未来・宇宙を舞台とする11編を収録した「ぼくの、マシン」と、 世界と自分の関係を考える12篇を収録した「逃げゆく物語の話」の2冊。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★★
同じ創元から出ている年刊日本SF傑作選と趣向はかぶっているのだが、 あちらはスタートが2007年分からなので、本書の方が守備範囲は広めで、また、 10年間を通じた印象みたいなものもあるので、これはこれで意義深い。 あいかわらず、いくらなんでもこれはSFでは無いのでは、という作品まで入っているし、 田中啓文「嘔吐した宇宙飛行士」はやっぱり選んじゃダメだよね、という点でこの編者らしいアンソロジー。
January, 2011
そこに、顔が 著: 牧野修
角川ホラー文庫 2010年, 629円, ISBN978-4-04-352214-9 その「顔」を見たものは、必ず死ぬ――!!
両親の離婚後、縁遠くなっていた父親が、 得体の知れない「顔」が見えるという奇妙な電話をしてきた直後に死んだ。 小さな広告代理店に勤める高橋は、大学教授だった父の遺品の中に見つけたノートに、死を予期する妄想めいた書き付けや、 若いころ体験した気味の悪い実験の記録を見つけ、気になって父親の生前を調べ始める。 その結果、父親の同僚や周辺で奇怪な死が連続していることを知るのだが、その死は、高橋自身と彼の周辺にも、 幻覚のような顔とともに忍び寄ってくる。父の大学で行われた禁断の実験と、 封印されたその研究を継続している人物がいるらしいのだが...
統合人格評★★ / SF人格評★ / ホラー人格評 ★★★
正直言って、ちょっと粗い。霊的な怖さを理論づけようとする試みで、 ある種のグロいホラー映画を思わせる仕掛けだが、 その文脈で見れば決して新しいものでも卓越するものでもなく、十人並みに留まる。 同じ趣向の『リング』には及ばないね。
イカした言葉 「悪いとは思っているんだよ。だって君は本当に可哀想だからね。」(p219)
SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー
スティーヴ・フィーヴァー
編: 山岸真
ハヤカワ文庫SF 2010年, 960円, ISBN978-4-15-011787-0 人類の未来、変容する未来
SFマガジン創刊50周年記念アンソロジーより、ポスト・ヒューマンSF傑作選。 人類の変容を描く12編。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★★
人類はやがて人類とは異なる何かになるだろう。それはテクノロジーによる自己改変か、 変化する環境への適応か、またはそれ以外の何かによるものか。 これを描くことの出来るのはSFというジャンルだけで、僕が偏愛するテーマでもある。 それぞれ選ばれるだけの名作ぞろいだが、この中からあえて一作を選ぶならばイーガンの表題作も良いが、 ストロスの「ローグ・ファーム」の異様さが面白い。
SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー
ここがウィネトカなら、きみはジュディ
編: 大森望
ハヤカワ文庫SF 2010年, 940円, ISBN978-4-15-011776-4 一瞬の時、永遠の叙情
SFマガジン創刊50周年記念アンソロジーより、時間SF傑作選。古今の時間SFを代表する13編。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★
時間SFは奇想とパズルと、そしてロマンチックの宝庫なのだと改めて知る、このジャンルの古今の名作選。 テッド・チャン「商人と錬金術師の門」は、むしろ淡々とした、ある意味なんの変哲もない作品なのだが、 練りに練られた傑作。