AI着色は昭和時代の夢を見るか(その2)


先月実験的に試みたPhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用。意外と面白がってもらえたり興味を持ってもらえたりしたし、個人的にもその可能性を試してみたいので、しばしそのトライアルの結果にお付き合い願いたい。基本的な特性は前回で掴めたが、得意な分野の中でもやはり得手不得手があるのでいろいろ試してみたい。またどうやらユーザーのカラー化データを利用してさらに学習していると思われるふしもあり、一月前よりもあきらかに出来が良くなっている。ということで、前回よりもっとクセのあるカットを選んでカラー化してみた。今回も、こういう場合にカラー化のアルゴリズムがウマく働くというその「成果」を示すべく、吐き出したデータはそのままで、ポストプロのレタッチはしていないことを申し添えておきます。



のっけから結構難題をぶつけてみた。雨にけむる景色の中を爆走する関西本線の下り貨物列車。これを見る限り、雨天の景色もかなり学習しているようで、なかなか良い霞み具合。かえって元の画像が雨でくすんでシャープでない分、印象派というか色の乗り方がどぎつくなくていい感じという評価もできる。AI君のイメージだと、爆煙はこの色なんだね。いつもこの感じで乗せてくるけど、これも曇天だと悪くない。総合的には「雨天は得意」と判断していいんじゃないかな。モノクロ版は、<雨の加太越え その3 -1971年3月31日->の中で発表しています。暗いのでカラー版は無し。牽引するのは龍華機関区のD51452号機。加太-中在家間で71年3月31日の撮影。


次もけっこうシビアな条件。日の出からすぐで、朝の霧がまだ残っている情景。これもモヤっている遠景が結構いい味に仕上がっています。シャープでない画像の方がアラが出にくいということなのでしょうか。前照灯のレンズだけ色を変えてきているのは、ちょっとあざとい感じもしますが、その努力は買いましょう。あと、「名菓千鳥饅頭」の看板は赤地なんだよね。まあこれは難しいか。自分でレタッチして赤をいれればいいんだからなあ。モノクロ版は、<四条の煙が行き交う路 -筑豊本線 折尾-中間間 1971年4月1日(その4)->の中で発表しています。これもカラー版は無し。筑豊本線折尾-中間間で、行き先別複々線が方向別複々線に変わる立体交差のサミットのところで。若松機関区のC5557号機が牽引する下りのセラ返空貨物列車。71年4月1日撮影。


ここからは冷水峠での撮影。逆向のD60の補機が付くので有名だった、朝の上り旅客列車。本務機は若松機関区のC5519号機。九州への転入が遅かったので、九州のC55型式では珍しく小工デフではないカマです。これは同時に撮ったカラーのカットはありませんが、急いで持ち替えて補機を捉えたカラーのカットは、<冷水峠の足跡 -筑豊本線 筑前内野-筑前山家間カラー編 1971年4月2日(その1)->の中で発表しています。見比べてみると、築堤の脇にある畑は、AI君は土が露出しているように仕上げていますが、実は雑草が生い茂っていることがわかります。それ以外は、かなり肉薄していますね。やはり自然の木や草の景色には強いということがよくわかります。3輛目の客車は実は青15号ですが、これは仕方ないでしょう。71年4月2日撮影。


この日は午前中は筑前山家側、午後は筑前内野側で撮影したようですね。続けて若松機関区のD5142号機が牽引する下り旅客列車。これは同時に撮影したカラーのカットがあり、<冷水峠の足跡 -筑豊本線 筑前内野-筑前山家間カラー編 1971年4月2日(その1)->の中で発表しています。実際にはかなり芽吹き出して地面は緑になっていますが、AI君は冬枯れした景色と判断したようで、みんな枯草の色にしてきています。あと、バラストが実際にはかなり錆で汚れていますが、換えたばかりの新品のような感じに仕上げています。大体バラストはこういう感じにしてくるので、鋳鉄製制輪子ではなくなった最近の線路の情景を沢山学習しているのかと思います。天賞堂の銀箱のような妙なツヤがある煙室扉は、なかなかリアルですね。冬の景色としてみれば、良くまとまっているのではないでしょうか。71年4月2日撮影。


さてそのD5142号機が原田で折り返して、上りの貨物を牽引いて戻ってきました。実はこの列車、引っ張っているのはセフ1輛のみなんですよね。絵にならないので、急いで望遠レンズに付け替え、機関車のアップを狙うことにしました。ということでこれはカラーはありませんし、今まで未発表のカットです。今度はけっこう緑が多い仕上げになっています。それにしても、機関車はウェザリング効かせ過ぎですね。まあ北海道だとこんな感じのカマもいましたからいないとは言えないし、ウェザリングのやり方としては決して間違っていません。モデラーにはヒントになる部分もあります。セフの黄帯が惜しいですが、これは手動でレタッチですね。71年4月2日撮影。


次は午後になって筑前内野側に移動して撮影したカットから。冷水トンネルに向かって登ってゆく若松機関区C5553号機の牽引する下り旅客列車。機関車は小さいのですが、8-20テンダに換装し、ノーマルのK-7小工デフを装備していることから、機番を比定できます。今度はちゃんと草を生やしていますし、全体の色味のバランスも良い感じです。この列車のカラーカットはないのですが、<冷水峠の足跡 -筑豊本線 筑前内野-筑前山家間カラー編 1971年4月2日(その2)->にある同日にこの付近で撮影したカラーのカットと見比べてみると、かなり良くイメージを再現していると言えるでしょう。これなら使えますね。71年4月2日撮影。


最後はちょっと意地悪く、夜間撮影をどのくらい再現できるかトライしてみました。この時の撮影旅行の帰り、急行天草の最後尾のスハフ43に乗車し、後補機のD60型式の活躍を味わおうとしたときに撮影したカットです。飯塚駅に停車中に、降りてバルブ撮影を行ったモノ。機関車は直方機関区のD6046号機です。スマホでの夜間撮影のようなトーンになっていて、リアルに銀塩カラーでは撮れない絵ですが、これはこれで完成度は高いといっていいでしょう。機関車のキャブの白熱灯と客車の蛍光灯で色を変えてきているところなど、なかなか芸が細かい。苦手な青15号も、極端なコントラストでそれっぽくも見えてきます。それより驚いたのは、急行サボに赤を入れてきたところ。これは学習してますね。これには脱帽です。夜間撮影には使えるということがわかりました。71年4月7日撮影。





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