AI着色は昭和時代の夢を見るか(その3)


PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズ。中々面白いし、けっこう深いところがあって興味も湧く。だんだんAI君の得手不得手やクセもわかってきたので、アタるか外すか、どんな感じで出てくるか、大体想像できるようになった。ディレクターが職人の癖を理解してベストマッチングで使うようなもので、こういうノリがわかってくると使い方はハマってくる。ということで第3回はある程度結果が出てきそうなカットを選んで喰わせてみた。さていかがなものだろうか。今回も、こういう場合にカラー化のアルゴリズムがウマく働くというその「成果」を示すべく、吐き出したデータはそのままで、ポストプロのレタッチはしていないことを申し添えておきます。



今回は前回と同様、全て71年春の二回目の九州撮影旅行でのカット。この時は初めてブローニーの二眼レフにネガカラーを入れてカラー撮影にトライしたので、けっこうカラーで撮っているカットは限られています。まずは朝の上り貨物列車。牽引しているのは吉松機関区のC5534号機。手前は比較的得意な荒地と草原なのでそれなりに再現。バックの植林したての若い林は常套手段の「彩度下げ」で対応。全体に色味が少なくちょっと寂しいが、ここは実際に荒涼とした感じのところなので悪くはない。この時のカラーカットはないが、傾向としては当たっているといっていいんじゃないかな。ちなみに、この時が流改との初めての出会いだったりします。田野-門石間で71年4月3日の撮影。


続いては田野の方に歩いてきて、おなじみの清武川の築堤の端からの撮影。下り旅客列車を牽引するのは、鹿児島機関区のC5721号機。このカットは実はカラーでも撮影していますが、けっこう自然な感じで再現しているといっていいでしょう。とはいえこの時点では、九州ではよくあるのやり方で田圃に挽き込んでしまうべく一面にレンゲが植えられ、それが咲きそろっていて花の絨毯状態。とはいえ、それを当てるのは無理でしょう。この時期の田圃としては少し雑草が生えたそれらしい感じに仕上げているから、これはこれで良しとしましょう。あとはバラストがキレイすぎるのだけど、これは学習過程で「錆色のバラスト」を覚えるチャンスがなかったようなので仕方ないかな。でもナンバープレートと飾り帯の砲金色は秀悦。田野-門石間で71年4月3日の撮影。


こんどは緑が中心のカットで試してみましょう。清武川の築堤の中腹に陣取って、上りの貨物列車を撮影します。メインのカットは次のコマなのですが、ここはあえて草木をどう処理するか見たいのでこちらのカットにします。牽引するのは宮崎機関区のC57196号機。奥に見えるレール製の陸橋から一つ前のカットを撮影したのでした。画面の左の方にいくに従って「枯れた」感じになるのは、葉の落ちた裸の落葉樹が何本もみえるからでしょうか。それに引っ張られて草も枯れた感じになっていきますが、こういう緑から茶色へのグラディエーションは、初春の感じを出すためにはジオラマのグラッシングでもやりますから、これはこれで頑張っているのではないでしょうか。田野-門石間で71年4月3日の撮影。


次にやってくる列車は吉松区のC55の運用なので、有名撮影地の清武川橋梁を半逆光気味で狙い、スポークが抜けるところを狙いました。牽引機は吉松機関区のC5534号機。これはカラーのカットもありますが、それと比較すると中々よく表現できていると思います。今回は一部レンゲ草にも気付いて、花にそこはかとなく色を付けています。本当はメチャクチャ派手に咲いているのですが控え目に。オハフ33のぶどう色2号もよく再現できていますね。青15号は弱いけど、ぶどう色2号はよく学んでいます。さて、この日のカットはモノクロもカラーもこのコーナーではまだ発表していませんので、実は初出だったりします。田野-門石間で71年4月3日の撮影。


次はちょっと趣を変えて、朝霧の中の撮影。おなじみの大畑の築堤を行く1121列車を遠望したカット。これはまさにこの原版となったモノクロ写真を<大畑の3日間 その1 -1971年4月4日->で、同時に撮影したカラー写真を<大畑の3日間 その6 -1971年4月4日の3->で公開しています。オリジナルのカラーは撮影したときの朝の陽射しの影響で相当に色温度が低い色調になっていますが、その補正を考えてみればカラー化としてはかなりいい線行っています。レタッチで色温度を下げれば、ほとんど同じトーンになると思われます。モヤ・霞み・雨は実は強いというのが、またもや証明された感じです。大畑-矢岳間、71年4月4日撮影。


続いて朝霧にチャレンジです。えびの名物の朝霧の中をやってくる、吉都線上り一番列車。吉松機関区のC5527号機の牽引する混合列車です。流石に列車自体はくっきり見えますが、バックの山々をはじめ背景は霧の中に沈んでいます。これは東を向いての撮影なので、朝陽が出ていれば完全に逆光になってしまいますが、霧のおかげでソフトな光が列車全体に当たっています。しかしその分光は弱く、トライXでも1/60 f2ぐらいしか切れていません。当然ISO(当時はASAか)100のコダカラーでは列車を止められないのでカラーカットはありません。気を利かせてか、デフやテンダーが朝の陽射しがあたっているような色になっていますがこれはやり過ぎです。吉松機関区に石炭を運ぶセラが1輛混じっているのもちょっとそそられますね。京町温泉-鶴丸間、71年4月5日撮影。


最後は山と緑という得意技を任せてみました。熊本機関区の59670号機の牽引する豊肥本線の上り貨物列車。阿蘇のカルデラの中ですが、山も木々も草もわりと自然な感じにまとめています。緑の諧調もウマくメリハリがついていますが、それにしてもやっぱりこれ、ウッドランドシーニックスのフォーリッジの色ですね。まさかジオラマで学習したとか。この原版となったモノクロ写真を<大畑の3日間 その1 -1971年4月4日->で公開しています。そこでもハエタタキのところの木がウッドランドシーニックス製っぽいとか言っていますが、8年前ですがスゴい予言になってしまいました。ナンバープレートが緑っぽく見えるんですが、気のせいでしょうかね。立野-赤水間、71年4月7日撮影。





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