大六壬、あるいは六壬神課入門


■ はじめに

 六壬神課、あるいは大六壬は難しい、という意見をネットでよく見かけます。その難しさの原因は何かといえば、どうやら課式または式盤の作り方にあるようです。ですから、課式(式盤)の作り方や見方を丁寧にわかりやすく、しかも覚えやすく解説しようというのが、この入門編のねらいです。

 普通の入門書では(これは日本だけでなく台湾でも韓国でも)課式の出し方の解説はほとんどせず、七百二十課式の一覧表を付けて、その使い方を説明するにとどまっています。また今はPCやスマホを使って、年月日時を入力すれば、簡単に課式を得られるプログラムもあります。だから、「あえて課式の出し方など学ぶ必要はない」という意見はあるでしょうし、一理も二理もあります。私も普段はPCで課式を自動作成する自作のプログラムを使っています。

 しかしながら、大六壬とは時刻をきっかけに占うものです。例えば、夜寝ているときにふと思いついて大六壬を行うとき、いちいちPCのところまで行くのも面倒ですし、外出先にPCも参考書もないときは占うことができないということになります。もっとも今はスマホがありますので、外出先で占うことは可能でしょうが。
 また『干支六壬占法』によると、透派の張耀文師が「紙に書いて表を見ながらやる六壬など、六壬を使いこなしているとはいえない」と言った、と書かれてあります。
 師の意見はなるほどもっともで、大六壬の愛好家を自称している私としては、何とか早見表などを使わずに課式を立てられる方法を編み出そうと思い、自分なりに課式を頭の中で作成する”コツ”を編み出しました。それらはこの入門編の随所に入れています。
 ただし、その”コツ”は、残念ながら十干十二支に十分通じていないと使えません。まずは十干十二支をスラスラと言えるようになること(途中からとか逆方向とか)、そして、「中国占術の基礎」で述べたことが頭に入っていれば、”コツ”が十分活用いただけると思います。

 ということで、入門編では、
 (1)課式を、できれば早見表を使うことなく、作成することができる
 (2)吉凶や象意がだいたいわかる
 (3)六壬の本が読める
ことを目標とします。できれば、課式を紙に書いてみるのではなく、手のひらや頭の中で作成できるようになればいいと思います。これは訓練次第ですが、早ければ3ヶ月程度でできるようになるでしょう。私は2年以上かかりましたが…。

 入門編の補足として六壬用語集やいちおう三伝早見表も用意しますので、覚えられない間はそちらを参考にしてください。


- 目 次 -

■ 入門者向けの参考書

 まずは、入門者向けの参考書をあげます。ホームページだけでの解説では内容に限界がありますので、より詳しく知りたい方は参考書をあたってください。以下に書名をあげますが、古書店や通販等で比較的手に入りやすい本をあげたつもりです。
   「大六壬占術」(中井瑛祐著 中尾書店)
   「六壬神課活用秘儀」(佐藤六龍著 香草社)
   「干支六壬占法」(佐藤文栞著 香草社)
   「阿部泰山全集第17巻六壬神課初学詳解」(阿部泰山著 京都書院)
阿部泰山全集は日本語が古いので、若い人には読みにくいかもしれません。
 中国語(漢文)がわかる方は、
   「大六壬預測学」(秦瑞生著 武陵出版)
   「六壬占卜講義」(韋千里編著 武陵出版)
   「大六壬探原」(袁樹珊著 武陵出版)
などがあります。これらは、通販で手にはいります。

 その他にも参考書はありますので参考文献を参照してください。また、古典については、別に紹介することにします。


1.六壬課式

■ 六壬課式(式盤)とは

 大六壬は、「六壬神課」とも言います。日本では「六壬神課」が一般的のようです。中国や台湾では、単に六壬あるいは大六壬というのが普通ですが、阿部泰山の翻訳本の影響なのかどうかはわかりませんが、六壬神課と呼び方も結構広く使われています。私は、自分の持っている本のタイトルに”大六壬”とつくものが多いので、大六壬と読んでいます。

 さて、大六壬とはどんな占いなのでしょうか?
 大六壬を行うためには、課式あるいは式盤というものを作ります。四柱推命でいう命式、紫微斗数でいう命盤にあたり、次のようなものです。簡単のため、というか美しく(?)見えるよう表にしています。

例題1 立春の頃、「丙戌」の日の「酉」刻(午後6時頃)に占った場合

日干支丙戌
占時
月将

初 伝六合妻財
中 伝貴人官鬼
末 伝玄武父母

四課三課二課一課
白虎太陰貴人六合
-日支-日干

 この表というか課式は、私が普通に使っているものです。この他に神殺も使いますが、神殺を入れると繁雑になるので、神殺は入れていません。

 この課式は、原則として占う時刻で求めます。何か占おうと思った瞬間の時間を利用して占うわけです。これを「占機をとらえる」というような言い方をしますが、とにかく何かを占おうとしたその瞬間が、物事が動こうとしている証拠だと考えるわけです。ですから大六壬は偶然性にかなり依存する占いといえるでしょう。これをユング心理学の共時性によって説明できるかもしれません。なお同様に占機をとらえる占術としては代表的なものは易ですね。またタロットやホラリー占星術などもそれに属する占いです、しかししょせんは占いですから、現在の科学で説明しようとするのは土台無理な話だと私は思っています。で、そのことについてくだくだ説明するつもりはありません。興味のある方はユング心理学の本をひもといてみてください。

 さて、いったん課式が求められれば、その後は六壬の作法にのっとってそれを解釈していきます。この作業は普通の占いの作業と同じです。吉凶を判断し、いろいろな象意から取捨選択してその意味を読み取る作業となります。
 この課式を立てるための具体的な方法を、次から説明します。


2.四課の求め方

 ここでは四課すなわち下の表の、一課から四課までの求め方を解説します。
 まず1.で示した3つの表の一番上の表、日干支、占時、月将についての求め方から。

■ 課式を出す日と時間

 大六壬は、原則として、占おうと思った時刻、あるいは占いを依頼された時刻で課式を作ります。”原則として”というのは、例外があるからです。
 例えば、気象占などは、知りたい日の時刻を使う場合があります。また、身命占では生まれた時刻を使うことがありますし、家宅占では方位を使う場合があります。
 さらに付け加えれば、「六壬金口訣」のように、依頼者の来た方位を使ったり(時刻も使うが)、占う時刻の代わりにくじを引いたり(抽籤)することもあります。
 しかし、一般的には、自分や依頼者が占おうとするまさにその時刻を使います。

■ 日干支と時支(占日と占時)

 日干支は、占う当日の干支です。普通に売っている神宮暦などを見ればわかりますし、ネットでもすぐに検索可能です。上の例の場合だと、「ひのえいぬ」の日です。
 占時とは占うまさにその時刻の十二支です。不定時法など、やかましいことをいえばきりがないので、詳細は暦に関する解説書にまわします。
 おおまかにいえば、子は前日の23時から夜の1時まで、丑は夜の1時から3時まで、寅は夜の3時から明け方5時まで、卯は明け方5時から朝の7時まで、というふうに、順に2時間ずつ割り当てればいいです。
 例の場合は、酉刻ですから、17時から19時の間ということになります。
 ここで、日の境界という問題がありますが、一応、日の境界は亥刻と子刻の間、すなわち23時頃とします。つまり、23時からは次の日の干支を使うということです。これは”hiroto的”四柱推命と同様です。当然のことながらここも異説がありますが、私は子刻の入りを一日の境としています。

■ 月将

 月将とは何か?については、「課式の構造」に詳しく解説していますのでそれを参照してください。一言でいえば、太陽の位置を示すものです。西洋占星術で使われる星座(太陽のいる位置)と同じようなものです。
 月将は、占った日が1年のどの時期になるかで決まります。表にまとめると、次のようになります。
 見方ですが、冬至から大寒まで、すなわち12月23日頃から1月21日頃までは月将は丑、1月21日頃から2月18日頃まで月将は子、というふうに見ます。二十四節気の入りの日、時刻は毎年変わりますので、その年の暦を参照してください。

月将二十四節気およその新暦開始日
冬至12月23日頃
大寒1月21日頃
雨水2月18日頃
春分3月21日頃
穀雨4月20日頃
小満5月21日頃
夏至6月21日頃
大暑7月23日頃
処暑8月23日頃
秋分9月23日頃
霜降10月24日頃
小雪11月23日頃

前の例の場合だと、立春(2月4日ごろ)だというわけですから、大寒のあと、すなわち月将は子ということになります。

 さて、これをどう覚えるかですが、月将の境の日は二十四節気の中気ですので、だいたい月の20日ごろです。正確には、毎年の暦をみなければわかりません。しかし、20日近辺でなければだいたいわかります。
 中国占術では立春を年の境とします。立春日は月将は必ず「子」です。で、順に3月1日前後は「亥」、4月1日前後は「戌」、と逆に割り振っていけばいいわけです。次の3つのポイントを覚えておけばいいでしょう。
   ①月将は中気から中気まで(正確には暦で確認)
   ②西暦1月1日の月将は丑、立春(年の境)の月将は、子
   ③月将は年を逆行する

■ 十干の寄宮支

 四課の説明の前に、十干の寄宮支について説明しておきます。
 十干の寄宮とは、十干に十二支を当てはめるものですが、下の表のようになります。
 実はなぜこうなるかはよくわかりません。が、まあとりあえず。

十干
寄宮支

 さてこの寄宮はどう整理すればいいでしょうか。
 まず、十二支を季節でまとめる次のようになります。いわゆる方局です。
   春:寅卯辰   夏:巳午未   秋:申酉戌   冬:亥子丑
 このうち旺の十二支つまり卯午酉子は寄宮になりません。春は木、夏は火、秋は金、冬は水で、土に関しては十二運と同様火と同じにします。
 さらに、始めの支を陽干、終わりの支を陰干にあてはめます。すると、
   春:甲の寄宮は 「寅」   乙の寄宮は 「辰」
   夏:丙の寄宮は 「巳」   丁の寄宮は 「未」
   土用:戊の寄宮は 「巳」   己の寄宮は 「未」 すなわち丙丁火と同じです
   秋:庚の寄宮は 「申」   辛の寄宮は 「戌」
   冬:壬の寄宮は 「亥」   癸の寄宮は 「丑」
と表と同じようになります。
 覚えておくべきことは、
   ①旺の十二支、子卯午酉を除き、季節の前と後ろの十二支
   ②前が陽干、後ろが陰干
   ③土行は火行と同じ

■ 四課

 さていよいよ四課の作成です。
 例題1の四課の表を再掲します。

四課三課二課一課
白虎太陰貴人六合
-日支-日干

 四課は、表の上の4つの十二支です。上の例の場合だと一課が申、二課が亥、三課が丑、四課が辰、ということです。
 一課は日干から求めますので日干の上に、二課は日干から求められた一課から求めます。そこで、再度二課の下の欄に一課を書き、その上に書くのが通例です。三課は日支から求めますので日支の上に、三課から四課を求めますが、まず三課を再び四課の下の欄に書き、その上に四課を書きます。

 この四課を求めるのに、天地盤という表を作った方がわかりやすいのですが、天地盤を作ってしまうと頭の中や手のひらや指を使って立課する方法が身につきません。天地盤については後で述べるとして、まずは指を折って盤を作る方法を伝授(?)しましょう。

 四課は月将と占時の関係(それぞれの支がいくつ離れているか)で作成できます。以下その手順をわかりやすいように手順を箇条書きにしてみましょう。

(1)占時から月将が何番目の支に当たるかを数えます。
   例の場合、占時は「酉」、月将は立春(2月4日頃)で「子」です。
   酉、戌、亥、子 の順に数えると、月将は時刻の支から3つ先です。
   この3つ先というのを利用して、各課を求めていきます。

(2)日干の寄宮の十二支を求めます。
   例の場合、日干は「丙」ですから、寄宮は「巳」となります。

(3)寄宮支から、占う時刻と月将の差の分だけ数えます。
   この十二支が一課となります。

   一課は日干の上に書くのが普通ですので、「干上神」ともいいます。
   例の場合、「巳」から3つ先は、巳、午、未、申で、「申」となります。

(4)二課は、一課の支に占う時刻と月将の差の分だけ加えます。
   例の場合、「申」から3つ先は、申、酉、戌、亥で、「亥」となります。

(5)三課は、日支から、占う時刻と月将の差の分だけ数えます。
   三課は日支の上に書くので、「支上神」ともいいます。
   例の場合、「戌」から3つ先は、戌、亥、子、丑で、「丑」となります。

(6)四課は、三課の支に占う時刻と月将の差の分だけ加えます。
   例の場合、「丑」から3つ先は、丑、寅、卯、辰で、「辰」となります。

 これで、一課から四課まで求められました。

 課の意味ですが、
 日干と一課は自分のこと、依頼者のこと、結婚、恋愛においては、男性のことを示します。
 二課は、一課をとりまく環境、援助者等を示します。
 日支と三課は相手のこと、目的、結婚、恋愛においては、女性のことを示します。
 四課は、三課をとりまく環境、援助者、状況などを示します。
 実占においては、日干または一課、日支または三課を何にするかが非常に重要になります。

■ 天地盤

 先に示した占時と月将の差を使って天盤というものを作ります。前項でも述べたように、天地盤を作ってから各課を求めた方が効率がいいと思いますし、実際他書では天地盤を四課の作成の前に説明しています。しかし、繰り返しになりますが、天地盤は紙に書かないと作成は難しいですが(手のひらと指を使ってもできますが)、数を数えて四課を作ることは「そら」でできます。それはそれとして天地盤について説明します。

 まず地盤の説明ですが、地盤は固定です。子が北となり、丑が北北東、寅が東北東、卯が東、辰が東南東、巳が南南東、午が南、未が南南西、申が西南西、酉が西、戌が西北西、亥が北北西、という方位になります。図にかくと時計回りとなります。なお、中国占術の世界では北を下にするのが普通ですので、次のようになります。

 

地盤:十二支の位置は固定

 ほんとは子と午が真北と真南ですので真ん中に書きたいのですが、習慣として上のように書くのが普通です。
 これを私の場合は手のひらの位置で覚えています。左手を使って、左手の薬指の付け根を子とし、中指の付け根を丑、人差し指の付け根を寅、人差し指の第二関節下を卯、第一関節下を辰、人差し指の先を巳、中指の先を午、薬指の先を未、小指の先を申、小指の第一関節の下を酉、小指の第二関節の下を戌、小指の付け根を亥、として覚えています。

 次に天盤ですが、地盤の支に占う時刻と月将の差分を加えて作ります。例の場合だと3つ先でしたから、子の天盤の支は、子、丑、寅、卯で、「卯」となります。丑の天盤の支は、丑、寅、卯、辰で、「辰」となります。以下順に時計回りに配布します。すると、

 

天盤:地盤支に占時と月将の差分を加える

 すなわち、一課というのは日干寄宮の支の天盤の支であり、二課は一課の天盤支、三課は日支の天盤支、四課は三課の天盤支、ということになります。

 以上で課の出し方は終わりですが、ここで間違えてはならないことは、「占時の上に月将を置く(天盤支が月将、地盤支が占時)」すなわち「占時から月将まで数える」ということです。これは私もよく混同しましたので注意してください。

■ 三伝

 初伝、中伝、末伝のことをまとめて、三伝と呼んでいます。例題1の課式の表では真ん中の表にあたります。
 三伝は、占う事件の顛末を示します。
 一般的に、初伝は事件のきっかけ、中伝は事件の経過、末伝は事件の結論を示します。
 三伝の求め方については、5.で詳述します。

■ 十二天将

 「貴人」とか「六合」とか書いてあるのが、十二天将です。
 これは次の3.で詳しく述べます。
 また、十二天将の示す意味も、後ほど一覧表にあげます。


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作成  2008年 5月19日
改訂  2021年 4月15日  HTML5への対応、一部修正

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