学校給食から生活習慣病予防を

 『成分無調整牛乳には飽和脂肪酸が多く、心疾患のリスクとなるので、2歳になったら低脂肪にして、無脂肪牛乳にしましょう。』は、先進国では常識です。学校給食で提供されている牛乳200mlには飽和脂肪酸が4.66gあり、海外のステーキ200gより多く含まれます。
 日本では、20歳代男性の27%が脂質異常症に罹患し、心筋梗塞が増えて、脳梗塞発症が若年化しているます。学校給食では無脂肪・低脂肪牛乳を提供しなければいけませんし、日本の学校給食も疾患予防に重点を移し、ガイダンスに飽和脂肪酸、トランス脂肪酸とコレステロールの制限を取り入れる時だと思います。
 学校給食は児童、生徒のその後の食生活に大きく影響します。疾患予防に理想的な食生活の見本になる給食を提供して頂けるように、行政まかせ、人まかせにするのではなく、我々自身が議論を深めていくことが大事なのではないでしょうか。
小児期からの生活習慣病予防・食育に関するスライド

WHOの栄養摂取基準です
米国農務省 食品と栄養サービスの学校給食についてのホームページです

アメリカの学校給食のガイダンスをご覧下さい。
イギリスの学校給食The Caroline Walker Trust and the National Heart Forum fatはP33,34です。
イギリスの FOOD STANDARDS AGENCY の飽和脂肪の項目 です。
フランス大使館の食育政策に関するホームページです
生活習慣病予防と心血管疾患予防が明記され、脂肪分の制限に飽和脂肪、トランス脂肪とコレステロールの制限が明記されています。(別表へ)


日本では、学校給食は成分無調整牛乳(Whole Milk)ですが、Whole Milkでは、飽和脂肪の摂取は制限が困難になります。
米国心臓協会は学校給食の牛乳は無脂肪、低脂肪牛乳にするように勧告しています

文部科学省の学校給食についての ホームページです
「したがって、適用に当たっては、個々の児童生徒等の健康及び生活活動等の実態並びに地域の実情等に十分配慮し、弾力的に運用すること。」と記載があります。
文部科学省の「学校給食における児童生徒の食事摂取基準策定に関する調査研究協力者会議」(平成20年3月)でも8ページ脂質の項目で「さらに、基準値として定めてないが、脂肪酸の種類にも配慮することが大切である。飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸のバランスが特定のものに偏らないように食品の組合わせに配慮する必要がある。」と記載されていますが、成分無調整牛乳が出されている現状では、飽和脂肪が多くなりバランスをとるのは困難です。


学校給食の栄養摂取基準の提案
脂質 日本動脈硬化学会の基準に合わせましょう。

@ 脂肪の摂取エネルギー全体の25%以下
A 
飽和脂肪は摂取エネルギー全体の7%以下
B トランス脂肪は
摂取エネルギー全体の1%以下

C コレステロールの多い食材はさけましょう 

 
日米の平均コレステロール値に差はありません。米国の学校給食には成人病予防の概念がありコレステロール値は下がり続けています。日本のコレステロール値は悪化の一途で対策が急務と考えます。米国におけるコレステロール値低下の結果1980年から2000年にかけて米国で冠動脈疾患で亡くなる方は半減しました。 



 厚生労働省の平成18年国民栄養健康調査では、
脂質異常症が疑われる人は、20才−29才の男性27.0%、女性17.2%です。
 
 コレステロールの摂取量は下記のとおり制限の300mgを大きく超え欧米各国と比べ2〜3倍です。

 表1−2、3  コレステロール摂取量(1日当たり平均mg)−性・年齢階級別−

. 1-6歳 7-14歳 15-19歳 20-29歳 全年齢
男性 223 363 449 369 347
女性 225 347 398 333 301


 和食は低脂肪食(脂肪分8%)でしたが、日本人の脂肪摂取量は30%まで増え洋食と同じになりました。学校給食でも昭和39年 1964年から脱脂粉乳が牛乳になりました。40年間で糖尿病の患者さんは20倍以上増えました。 国民1人1年当たりの供給純食料の推移 農林水産省
 

 和食ではあまり食べられていなかった飽和脂肪の摂取増加のためでしょうか。最近40歳代で脳梗塞になる方が目立ってきてしまいました。
北里大学の先生方ホームページ  若年性脳梗塞に関するホームページ1


 若年性心筋梗塞の方も増えてきてしまいました。
ホームページ2日本心臓病学会誌
 
  
 メタボリックシンドロームの研究で、欧米人は高脂肪食でも病気にならないように適応を済ませいるが、日本人は飢餓状態に備えた適応をしていて、高脂肪食に弱い事が遺伝子レベルで解明されています。 東京大学門脇教授 β3アドレナリン受容体 (その解説) ホームページ3


関連文献

The progression of atherosclerotic lesions in infants, children and young adults in Japan (その解説)
1999年6月 第31回日本動脈硬化学会総会(宮崎)において発表
 
日本でも幼児期、小児期から動脈硬化は始まっています。


Lipid Screening and Cardiovascular Health in Childhood 
PEDIATRICS 2008年7月号 
 幼児、小児期から動脈硬化は始まっているので、2歳をこえたら低脂肪・無脂肪牛乳を選択して、飽和脂肪酸摂取を削減するように、小児科医は指導することとされています。


Efficacy and safety of lowering dietary intake of fat and cholesterol in children with elevated low-density lipoprotein cholesterol.
The Dietary Intervention Study in Children (DISC).
8歳から10歳のコレステロールが高い子供に、脂肪分28%、飽和脂肪8%未満、コレステロール150mg/日未満多価不飽和脂肪は9%にする食事指導を行った群は3年間で身長の伸び、栄養の指標は他の子供と変わらず、LDLコレステロールは下がっていました。

Low Saturated Fat Dietary Counseling Starting in Infancy Improves Insulin Sensitivity in 9 Year Old Healthy Children
The Special Turku Coronary Risk Factor Intervention Project for Children (STRIP) study

生後7ヶ月からご家族に食事指導をした子供は、9歳の時メタボリックシンドロームの指標であるインスリン抵抗性(HOMA-IR)が改善していました。HOMA-IRの改善は飽和脂肪の摂取制限と強く関連していました。

Substituting dietary saturated for monounsaturated fat impairs insulin sensitivity in healthy men and women: The KANWU Study.
Diabetologia 2001 Mar;44(3):312-9.
飽和脂肪酸を食べた群と1価不飽和脂肪酸を食べた群を3ヶ月後に比較すると、LDLコレステロール値とインスリン感受性ともに飽和脂肪酸群が悪化していました

. 飽和脂肪酸群 1価不飽和脂肪酸群
インスリン感受性 −10.3% +2.1%
LDLコレステロール +4.1% −5.2%

JSH 2004 高血圧治療ガイドライン2004 日本高血圧学会

生活習慣の修正
2)野菜、果物の積極摂取およびコレステロール、飽和脂肪酸の摂取制限
最近、アメリカでDASH(1997 2001)という低脂肪乳製品(飽和脂肪とコレステロールが少なく、Caが多い)ならびに野菜、果物の多い食事摂取の臨床試験が行われ、中等度の高血圧患者で11.4/5.5mmHgの有意の降圧が報告された。中略 一番問題なのはコレステロール摂取で、これは欧米よりも多い。本邦における栄養素摂取の推移をみると脂肪、特に動物性脂肪と動物性蛋白質の摂取が戦後著明に増加し、炭水化物の摂取はやや低下している。特に小児における脂肪摂取の増加は問題である。したがって、本邦においては伝統的な日本食にたちかえるとともに、コレステロールの多い卵などを控え、低脂肪乳製品を補うことによりDASH食に近い食事が達成できるものと考えられる。

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007年版   日本動脈硬化学会 
生活習慣の改善
2.食生活の是正
動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸摂取量の増加は総コレステロール値ならびに冠動脈性疾患発生率を増加させるため、総脂肪だけでなく、飽和脂肪の摂取制限が有用である。

糖尿病専門医研修ガイドブック 日本糖尿病学会編 改訂第2版
総カロリー、各栄養素の設定
A. 成人の糖尿病 2)栄養素の配分
脂質は成人期で20〜25%。飽和脂肪は10%以下にする。肥満者では特にこの脂質の割合に注意が必要になる。また、中性脂肪やLDLコレステロールが高い患者では、脂質のなかでも飽和脂肪の割合に特に注意を要する。


FDA
How to Understand and Use the Nutrition Facts Label

 米国、EUでは加工食品に飽和脂肪、トランス脂肪、コレステロールの含有量をラベルする義務があり、消費者は健康に気を付けながら買い物ができますが、日本では見たここがありません。日本で医療費が増えているのは、生活習慣病が増えているためですが、対策がとられていません。
 日本も、
加工食品に、飽和脂肪、トランス脂肪、コレステロールの含有量の表示を義務づける時期に来ています。


FDA
Questions and Answers about Trans Fat Nutrition Labeling

 給食でよく食べていたマーガリンは、現在は好ましくない食品とされていますが、FDAの見解ではバターよりはましだそうです。

「国民栄養の現状」 昭和22年(1947)〜平成12年(2000) 国立健康・栄養研究所 
 昭和45年までは、欧米の食事を見本に動物性脂肪、動物性蛋白の摂取が推奨されていました。昭和44年から成人病予防のための注意が記載され始めました。平成17年(2005)に初めてコレステロール、飽和脂肪の摂取制限が記載されました。 
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