黒沢美香&Dancers『ダンス☆ショー』

ミニマル・ショー・ダンス

桜井圭介

 最近の黒沢美香は、ダンサーとして“只今絶好調!益々冴え渡る芸の魔剣!! その融通無礙、仙境とはかくや”といった感があるが、今回、「&Dancers」によって「振付家・黒沢」の高度かつ特異な作家性が浮び上がった。
 『ダンス☆ショ−』などとフザケたタイトルだが、「こんなの見たことない!」というシロモノであることは確か。「ショーの踊子さん」のコンテンポラリーなダンスとでも言うか、方法としての「ミニマリズム」(虫蜍`)とボキャブラリーとしての「ショーダンス」という矛盾するかの二極が仲良く同居というキテレツさ。
 相当に踊れる人からかなり踊れない人まで老若の女たちが同じ舞台に立つし、「ミニマル」だから、使用されるテクニックはごく平易だが、一方で、お約束の語彙でやり繰りするとはいえやはり「ショーダンス」なので、振付=ステップは非常に細かく至る所にスリルとサスペンスが仕掛けられている。「なんでこんなことで?!」というくらい単純で馬鹿みたいなことで「手に汗握る」のは驚きだし、「なんてヘタクソなんだー!」なんだけど、何でこんなに活き活きしてカッコ良く見えるのかが驚き。とにかく一瞬たりとも目が離せない。
 例えば、ゾロゾロと女たちが固まって歩いて来る。いきなり一人がコケる。この時点では上演中の事故ともとれるが、間を置いてまた別の一人がコケる。やがてボコボコと列に穴があくようにズッコケが多発・頻発していく。それでも隊列は歩いていく。怖い。けど気持ちイイ。これ、セロニアス・モンクのピアノのハズしのセンスだよ。あるいは、舞台全体に配置されたダンサー達がおのおの違う振りを踊っている。と、ある瞬間全部がシンクロして一枚の絵が成立する。が、次の瞬間そのあや取りはバラけてまた「おのおの」に。こっちはフリー・ジャズの集団即興か。
 「ハズしとシンクロ」ということで自然と連想したのだが、ジャズにおいて「グルーヴ」という「スリル」を生むオフビートやモタりが、あくまで一定のビート(ドラムパターンやベースラインの上に)に「ノる」ことを前提とするというのは、ミニマル音楽&ダンスが、パターンの「反復とズレゆき」なのと同じなのではないか。ならばジャズに乗ったダンス=ショーダンスは本来的にミニマルダンスということじゃん! やったね美香ちゃん。
 それに60年代元祖ミニマルだって、「禁欲の美」という表の理屈はあるにせよ、日常動作や遊戯をダンスに持ち込んだのは、ハイアート=当時のモダンダンスが要求する身体能力や高度なテクニックではなく、普通の身体の動きのカジュアリティによって逆にグルーヴを獲得するという発想もあったはずで、それはアートとしてこっそりとゴーゴー(ミニマルな反復運動!)を踊るようなものではないか。そう考えると、ほら、ね。美香ちゃん大正解。
(2003年 1月)


※本稿は『インビテーション』2003年3月号に掲載された原稿に修正を加えたものです。

copyright (C) by Keisuke Sakurai

黒沢美香&Dancers『ダンス☆ショー』
2003年1月11〜13日 麻布die pratze
(「ダンスが見たい!4」参加公演)
黒沢についてこれまでに書いた下記の拙稿を併せて参照されたい。

「黒沢美香讃江」黒沢美香試論
「無為ということ」『偶然の果実』
「バカ万歳」黒沢美香『薔薇の人・Roll』ほか
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