なぜ批評家がワークショップを開くのか?                                  桜井圭介



      おそらく、批評家がダンスのワークショップをすることなど      前代未聞のことでしょう。そんなことは百も承知です。では何故      こんなことになったのか?       『西麻布ダンス教室』という本を作ったとき考えたことは、バレ      エ、モダン、舞踏、コンテンポラリー、さらにはエンタテイメント      系、ストリート系のダンスまで、ダンスすべてを一点から見るとい      うことでした。ダンスには「いいダンスとダメなダンス」があるだ      けだということを証明するために。       次に『ダンシング・オールナイト』という本では、ダンスのなか      の「いいダンス」と同じように「いい感じのモノ・事」をすべて      「ダンス」とみなし、僕らをとりまく「時代のあれこれ」をダンス      してるか否かという基準で眺めることで、さらにダンスの本質に迫      ろうとしました。       この「迂回」を経て、あらためて現在劇場で踊られるダンス、      通常人がダンスと呼んでいるもの、ダンスと名乗っているものを見      ると、それらの多くが「ダンスの形態はしているがダンスと呼びた      くない」ものであることに愕然とするのでした。そんなもの見るく      らいなら、サッカーとかバスケのほうがはるかにダンスしてるよ、      って。       もちろん、確実にダンスなダンス(いいダンス)は存在する。数      少ないけど。だから批評家としてはそれをどんどん評価していけば      いい、ダメなものはほっとけばいい、という考え方もあるとは思う      のですが、観る舞台観る舞台、がっかりするという日常ではちょっ      と辛いですよ。一人のダンス好きとしては。気持ちが萎える。そこ      らじゅう面白いダンスばかりという状況のほうが嬉しいじゃないで      すか。       というわけで(「私の考える」という前提はあるにせよ)      「ダンス(いいダンス)」が成立するためには何が必要か?をダン      スを実践する人たちと一緒になって、身体で考えてみたかったので      す。それぞれにひとつぐらいは「新しい認識」があったでしょう。      それが今回のパフォーマンスにかたちとして出ていればいいと思い      ます。そして僕のほうはと言えば、批評に立ち返ったときにここか      らフィードバックされた何かが出てこなくては、と思うのでした。

    


*「ダンス」とは何か?(世界の定説集より)  *ダンス再入門〜迂回路を通って〜(ワークショップ参加者募集のチラシより) *何故批評家がワークショップを開くのか? *百メートルを三日で走る by 宮沢章夫