| 題 |
火炎人類 (原題: The Flames, and Other Stories) |
著 | 著: オラフ・ステープルドン (Olaf Stapledon) / 訳: 浜口稔 |
| 版 | ちくま文庫 2025年(原典1947他), 1400円, ISBN978-4-480-44047-1 |
帯 | 火炎-生命体が語る宇宙の秘密 |
| 話 |
夢想家の友人から届いた手紙。山で拾った不思議な石を暖炉に投げ入れたとき現れた炎が彼にテレパシーで語りかけてきたという。
太陽の表面で生まれ栄えたプラズマ状の生命体文明の一部が低温の地球に漂流し、囚われの身になっていると語る炎は、
神霊的に人類を引き上げる代わりに自分たちの活動範囲を拡大したいと要求するのだが... 「火炎人類 ‐ ある幻想」
その他、ステープルドンの短編9編とラジオドラマ脚本、講演会記録それぞれ1編を収録する日本版オリジナル傑作選。
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| 評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★ |
| ちくま文庫による『スターメイカー』
『最後にして最初の人類』を含むステープルドン復刊シリーズの1冊。
第一次大戦時に携わった負傷兵搬送の経験、米ソ冷戦下の核戦争の不安、などを下敷きにした1910~40年代に書かれた作品群。
人類の神霊的進化のビジョンは、ある種、説教臭くてオカルトな世界観なのだが、創作上のアイデアというよりステープルドン自身の信念であるのが
講演会記録「惑星間人類?」からうかがえる。これを聞いていた英国惑星間協会の宇宙工学者たちは戸惑ったんじゃないかな。 |
| 題 |
反転領域 (原題: Eversion) |
著 | 著: アレステア・レナルズ (Alastair Reynolds) / 訳: 中原尚哉 |
| 版 | 創元SF文庫 2025年(原典2022), 1500円, ISBN978-4-488-62711-9 |
帯 |
世界が鮮やかに覆る超絶展開SF! 極地の古代大建築物に秘められた真実とは? |
| 話 |
19世紀ノルウェー沿岸、帆船デメテル号に乗った探検隊が極地を目指して北上している。
目的は、人跡未踏のフィヨルドにあるという謎の大建造物。その存在に懐疑的ながら船医として参加するサイラス・コードは
乗組員の治療の傍ら冒険小説を執筆しているが、同じく同行している言語学者エイダ・コシルの辛辣な物言いに悩まされている。
やがて様々な苦難をへて目的地に到達した彼らは、途方もない大きさの不可思議な建造物の傍に難破船エウロパ号を発見するが、そこで破滅的な事故が起こる。
そして、物語は様相を変えて反復していく。 |
| 評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★ |
| 著者のアレステア・レナルズといえば、20年ほど前に『啓示空間』
『火星の長城/銀河北極』などの大ネタ満載の未来宇宙SFで名を馳せた作家だが、
久しぶりの長編のお目見え。
本書は、ネタバレになるので詳しくは書けないが、時代や場所を転調しつつ繰り返す探検行の奥に隠れた世界が真の舞台。
ところどころに紛れ込むその場にそぐわない単語や、常軌を逸した威容の大建造物の構造を手掛かりに少しづつ明らかになっていく。
あと、位相幾何における球面の連続的裏返しも重要なモチーフ。原題の“eversion”にはその意味もある。 |
| イカした言葉
「これほど醜い形状なのに、とても美しい結果だ!」(p349) |
| 題 |
骨灰 |
著 | 著: 冲方丁 |
| 版 | 角川文庫 2025年, 1000円, ISBN978-4-04-115922-4 |
帯 | 渋谷の地下には、呼び起こしてはいけない怪異が眠っている …… |
| 話 |
2015年、再開発中の渋谷駅エリア。大手デベロッパーのIR部に所属する松永は、自社が出がける高層ビル建設現場の地下に
調査のために足を踏み入れた。何者かがSNS上にアップした、地下の現場で起こったとされる異状の真偽を確かめ、会社の風評リスクを抑えるためだ。
異様に乾燥し、何かを焼いた灰のような臭いがする地下深くには神棚と大きな穴があり、その底に鎖につながれた男がいた。
松永は男を解放するのだが、直後に起こった出火騒ぎのなか男は姿を消してしまう。
その後、灰や見えない何者かが松永の住む高層マンションに侵入した気配を契機に、奇怪な出来事の数々が彼と彼の家族の心身を侵していく。 |
| 評 |
統合人格評★★★ / SF人格評★ / ホラー人格評 ★★★★ |
| 2022年に出版され翌年の直木賞候補作となった作者初のホラー作品の文庫化。
江戸の世から現代まで、数多の火災や震災、戦災による無数の焼死体が東京の土壌に溶け込んで、祟りの根となっているという設定は
真に迫っていて、本書を読んだ後では地鎮祭を見る目が変わる。
再開発が進み新しいビルや商業施設が次々と姿を現す渋谷のきらびやかな街並みと、その地下に古くより積み重なり怨嗟の声を上げ続ける祟りの
ギャップが物語を動かす。怪異に憑りつかれた松永が、明らかに異常なことをしているのに本人がまるで気づいていない描写は結構怖い。 |
| イカした言葉
「祟られてはいませんか?」(p212) |
| 題 | 去年、本能寺で |
著 | 著: 円城塔 |
| 版 | 新潮社 2025年, 1900円, ISBN978-4-10-331163-8 |
帯 | 時空大乱
AI並起 奇想迸る円城史観 珠玉の歴史×SF全11編。 |
| 話 |
関ケ原の戦いの際に、田辺城をわずか500人の手勢で守った武将で文人の細川幽斎をAIとしてその発展をなぞる「幽斎闕偽抄」。
蝦夷を〈ガリア〉と読んで、ガリア遠征に向かった坂上田村麻呂を軸に西暦700年の日本とその千年前のヨーロッパを重ね合わせる「タムラマロ・ザ・ブラック」。
など、とてつもない射程の奇想日本史小説11編。 |
| 評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★ |
| 日本史の史実と後世の創作の間、異なる創作の間で定義される写像からなる空間上で無限回の積をとって作られたような作品群。
どれも複数の参考文献に基づいていて史実や原典を正しく扱っているのだが、物語に変換する写像がエキゾチックすぎる。
上記の「話」で紹介した以外にも、斎藤道三、本居宣長などが取り上げられているのだが、
日本史上おそらく最も多く創作上の登場人物になっている織田信長を題材にとった作品が複数。
歴史小説は当然として、SFだろうが、ゲームだろうが、英雄であろうが、魔王的な悪人であろうが、時を越えようが、転生しようが、美少女にされようが、
どう処理されても強固な「信長」の概念を本人が自覚している表題作。他にも、
地球創成期40数億年前に散在する将来信長を構成することになる原子群から本能寺を投影する「冥王の宴」とか。 |
| イカした言葉
「みんなー、念仏してるー?」(p247「偶像」) |
| 題 |
筋肉少女帯小説化計画 |
著 | 著: 大槻ケンヂ, 空木春宵, 柴田勝家, 滝本竜彦, 辻村深月, 和島慎治 |
| 版 | 角川書店 2025年, 1900円, ISBN978-4-04-116033-6 |
帯 | 豪華執筆陣が描く“筋少”の世界! 奇想と熱狂のロックバンド、小説と化す! |
| 話 |
人間椅子の『夜の夢こそまこと』に続く文芸ロックバンド小説集でフィーチャーされるのは、
大槻ケンヂ率いる筋肉少女帯。
「中2病の神ドロシー」「サンフランシスコ10イヤーズ・アフター」「レティクル座行超特急」「ディオネア・フューチャー」
「福耳の子供」「香奈、頭をよくしてあげよう」の歌詞世界から生まれる6つの物語。表紙装画は藤田和日郎。 |
| 評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★ |
| 筋肉少女帯はメジャーデビューから90年代末の活動休止まで、すべてのアルバムを買って毎日のように聴いていたけど、
活動休止後にアルバムは手放したし再結成後はご無沙汰という程度のファンなのだが、
このアンソロジーは当時を思い出す感じで楽しんだ。
小説家、エッセイストとしても卓越した才能の大槻ケンヂによる「サブカル」の結晶のような歌詞世界と、
そこから各作家が醸成する物語に当時の熱狂が蘇りそうになるね。大槻ケンヂ自身が自らの半生を題材にした「香奈、頭をよくしてあげよう」は流石。
収録作のうち半分は再結成後のもので聴いたことない曲由来なので、これを機会にアルバムもう一度手に入れようかな。 |