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小説評論もどき 2008上半期 (18編)


私の読書記録です。2008年1月-6月分で、上の方ほど新しいものです。 「帯」は腰帯のコピー。評価は ★★★★★ が最高。

June, 2008
楽園の泉 (原題: The Fountains of Paradise) 著: アーサー・C・クラーク (Arthur C. Clarke) / 訳: 山高昭
ハヤカワ文庫SF 2006年(原典1979), 860円, ISBN4-15-011546-X
22世紀。国家間の確執を脱し、理性的で平和な世界を人類が手に入れた時代。 地球建設公社の技術部長モーガンは、インド洋上に浮かぶ島タプロバニー (セイロンと若干ずれた位置にあるこの物語上の架空の島)を訪れた。 ジブラルタ海峡に橋を架ける巨大事業を成功させた彼が、次に目指すのは、軌道エレベータ。 3.6万キロの上空に浮かぶ静止衛星と地上を結ぶ橋は、宇宙への安全で低コストの道を開く空前絶後の建築物だ。 そして、赤道直下のタプロバニーにある高山スリカンダは、最も安定的な地上側建設候補地なのだ。 しかし、霊山スリカンダの山頂にはこの国の仏教を司る寺院があった。 遙か昔に天上を目指した王と向き合った三千年の歴史を持つ寺院は、宗教がほぼ壊滅したこの時代においても大きな力を持ち、 交渉は難航するのだが、ある奇跡的な出来事により、僧侶達はスリカンダを降りることになる。 そして、橋の建設が始まった後も続く、様々な困難・トラブルを乗り越え、 モーガンと彼のスタッフ達はプロジェクトを成し遂げるために全力を傾ける。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 -
ゼネコンの仕事のやりがいとして「地図に残る仕事」という表現があるが、 この事業はそれどころではない。ちょっと想像して欲しい。 地球の直径は約1.2万キロ。地球から月までの距離は約38万キロ。 そして地上からそびえ立つ地球直径の3倍、月までの距離の1/10の威容を誇る建築物を。 そしてその物理的な巨大さだけではなく、人類文明を確実に変えてしまうモノを。 1960年代には既に提唱され、現実的な検討・計画さえもいくつか動いている軌道エレベータだが、 実際に建設されるとしたら本書でクラークが書いている通りに進むだろうというリアルさ。 悪役もいなければ英雄もいない、工学者・技術者の奮闘を描く本作は、読書中、 田口トモロヲのナレーションと中島みゆきの「地上の星」が頭の中で聞こえる まさに『プロジェクトX』だ。工学系ハードSFの真骨頂と言っていい。 『幼年期の終わり』から随分たって、本書を読んだ時にクラークを再発見した気分だった。 多分、現実世界では、建築主体と権益を巡る争いだとか、もっとややこしい地権問題が国際的にアレで、 そう簡単には出来ないとは思うが、僕らの文明にとって本当に必要な事業のはずだ。
イカした言葉  貴下が神と呼ぶ仮説は、論理のみによる反証は不可能とはいえ、以下の理由により不必要なものである。(p139)
幼年期の終わり (原題: Childhood's End) 著: アーサー・C・クラーク (Arthur C. Clarke) / 訳: 福島正実
ハヤカワ文庫SF 1979年(原典1953), 720円, ISBN978-4-15-010341-5 〈宇宙の旅〉は永遠に…… 追悼 アーサー・C・クラーク
20世紀後半、人類が宇宙へ進出しようとしたまさにその時、 遥かに進んだ文明を持つ異星人の宇宙船が地球にやって来た。 圧倒的な科学技術力の差を背景に地球を支配し、人類から「オーバーロード(上帝)」と呼ばれる彼等は、 しかし、領土を奪うでも資源を奪うでもなく、地球人を隷属させるでもなく、人類の抱える矛盾や課題を解決し、 よりよい生活の実現へと指導していくだけであった。 それから50年が過ぎた頃、平和と安定を謳歌する人類の中に、ある霊的変質の萌芽が現れる。 それこそがオーバーロードたちが密かに待ちかまえていたものだった。 彼等の見守る中で、人類はオーバーロードをすら使役する霊的存在へ参加する子ども達を産み出し、 そして消え去っていくのだ。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★
2008年3月18日、90歳でこの世を去ったSF作家アーサー・C・クラークを追悼する意味で、 彼の代表作を2冊ほどピックアップ。 SFというジャンルを外したとしても、クラークが真に偉大な作家であるのは言うまでもない。 しかし、僕は高校生の頃からそれほど好きではなくあまり読んでこなかった。 それは、多分、最初に読んだこの作品のせいで、この進化のヴィジョンがあまり気に入らなかったのだと思う。 人類の変質は、自分が望むわけでなく、あまりにも理屈抜きで唐突で、しかもそのプロセスは他者に管理されていてるわけで、 なんて言うか感情移入できないのだね。 オーバーロードの外観が悪魔に似ている、って設定も含めて、西欧文明の枠内だし。 英国SFの無常観だの、ステープルドンの宇宙観との比較だのはあるにせよ、 その目で見ると、ちょっと視点が低い気がするのだ。
イカした言葉 「それに、知性あるものは不可避の事象を憤ったりはしないものだ」(p353)
オフェーリアの物語 著: 山田正紀
理論社ミステリーYA! 2008年, 1500円, ISBN978-4-652-08617-9 人形と心を通わせることができる少女の不思議に満ちた旅
8歳の少女リアは、西洋人形のオフェーリアを抱いて独り諸国をさまよい歩くうちに、 人形遣いの大道芸人、影華と出会い、彼女とともに旅をするようになった。 リアは、言葉が成すこの世界「照座御代」と表裏をなす「影歩異界」を認知し 人形を介して行き来することができる人形使(にんぎょうし)の力を持っている。 言語化される以前の「言の葉」で成り立つ「影歩異界」は、人形が魂蟲を宿し、奇妙な植物群が彩り、 時間と空間も曖昧とした世界。 リアとオフェーリアは、日本の各地で、人形がかかわる不思議な事件に出会い、「影歩異界」を通じてその謎を解いていく。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★ / ホラー人格評 ★
話といい、雰囲気といい、ほぼ『蟲師』(漆原友紀)だね。 多分、作者も意識しているんじゃないかと思うけれど。謎を解く過程はファンタジーだが、謎そのものはミステリ。 こういう言葉の仕掛けは山田作品としては随分久しぶり。実は、本編では完結していなくて続編が予定されている。 続きが出ないことで有名なこの作者だが、多分、これは本当に出そう。
哀れなるものたち (原題: Poor Things) 著: アラスター・グレイ (Alasdair Gray) / 訳: 高橋和久
ハヤカワepiブック・プラネット 2008年(原典1992), 2000円, ISBN978-4-15-208857-4 発見された奇妙な古書。そこには実在した天才外科医と女フランケンシュタインの波瀾万丈の生涯が記されていた!
スコットランドの郷土史家が廃棄書類の山から見つけ出した一冊の自費出版本。 それは19世紀末から20世紀初頭にかけてグラスゴーで働いた医師マッキャンドレスの手記なのだが、 そこには驚くべき内容が記されていた。 マッキャンドレスの知人の外科医バクスターは、卓越した理論と技術で生命を操作することに成功し、 自殺死体を元にベラという美しい女性を作り上げた。 ベラは純粋無垢な好奇心の赴くままに世界を回り、当時の社会構造の矛盾を知る。 そしてマッキャンドレスと結婚した彼女が医者となって社会運動に身を投じるまでの記録だったのだ。 しかし、マッキャンドレスの死後出版されたこの本の内容は、全くの嘘だとベラ自身が語る手紙も添えられていた。 惨めな境遇からベラを救い出したバクスターと彼女の深い精神的つながりに嫉妬した夫マッキャンドレスによる 悪意の創作だというのだ。 だが、この文書を調べ注釈をつけて本書として編んだ筆者は、当時の新聞記事などはマッキャンドレスの記述を裏付けており、 こちらこそが真実だと主張する。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★
核となる奇妙な物語と、それを否定する記述の双方で描き出されるのは、19世紀末の社会の矛盾。 女性や貧困層や植民地など弱いものたちが貶められ搾取され、それを当然のものとして享受する強いものたちが支配する社会。 それを無邪気な視点と、抑圧からの自立を試みる女性の視点からあぶり出すのが、 (タイトルからも明らかなように)この作品の一つの主眼だ。 しかし、マッキャンドレスの手記の奇想天外さと、互いに裏返しあう物語構造のせいで、 その社会的メッセージは不思議な浮遊感を帯びている。 マッキャンドレスが記す奔放なゴシックロマンス的冒険譚は、なかなかに引き込まれる。面白い。
イカした言葉  「宇宙は本質的なものを何ひとつとしてわれわれに隠しはしない。それはすべて、今ここに贈物として存在している。 神は宇宙に精神を加えたもの。神や宇宙や自然を神秘だと言う人は、神は嫉妬深いとか自然が怒っているという人に似ている。 結局、自分たちの孤独で混乱した精神状態を表明しているにすぎない」(p145)
May, 2008
Dark Fantasy Collection 8 終わらない悪夢  (原題: The Sixth Pan Book of Horror Stories) 編: ハーバート・ヴァン・サール (Herbert Van Thal) / 訳: 金井美子
論創社 2008年, 2000円, ISBN978-4-8460-0767-6 ジョン・コリアから経歴不詳の謎の作家まで 名アンソロジストが贈る英国ホラー・アンソロジー
1960年代前後に出された、イギリスのホラー・アンソロジーシリーズの1冊。 あのジョン・レノンの1編から、日本では経歴が全く知られていない作家の数編を含む、20編。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★ / ホラー人格評 ★★★★
ジョン・レノンとジョン・コリアの1編ずつを除くと、日本初訳の短編ばかり。 ゴースト・ホラーもあれば、サイコ・サスペンスやスプラッタもあれば、奇妙な味に属するものもあり、 でバラエティ豊かというか、とりとめもないというか。全体としてなんとも不思議な印象をうけるアンソロジー。 まさか、あのジョン・レノンがこんなヘンなショートショートを書いていたとはね。
スキズマトリックス (原題: Schismatrix) 著: ブルース・スターリング (Bruce Sterling) / 訳: 小川隆
ハヤカワ文庫SF 1987年(原典1985), 680円, ISBN4-15-010751-3
太陽系空間に進出した人類のうち、小惑星帯と土星衛星群にそれぞれ本拠地を構える 〈機械主義者〉と〈工作者〉の2大勢力が覇を競う時代。 人類が宇宙に進出しはじめた頃は文明の中心だったが、いまや斜陽の地となった月軌道上コロニー群の一つにおける 政治抗争に敗れ追放されたアベラード・リンジーは、〈工作者〉に教育された外交手腕を駆使し、 歌舞伎公演の企画をテコに追放先の現地勢力に食い込む。 しかし、かつての盟友でいまや仇敵となったコンスタンティンの策謀により、逃避を余儀なくされる。 放浪の果てに朽ち果てかけたリンジーだが、突然現れた異星種族が社会に与えた衝撃の中、彼等を利用し再び頭角を現していく。
広大な太陽系空間に拡散し、無数の政治・科学的主義主張を持つグループに分かれた人類は、サイバネティクスや遺伝子工学で、 野放図に自らを改造し、爆発的に変容していく。 生来の放浪者たるリンジーは、居場所と立場を変転しながら、人類の変容を見続け、これに関わり、 100年を超える年月を生き抜いていく。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★
まだまだ続く旧作。今度はサイバーパンク運動の聖典の1つを。 読むのはおそらく5回目くらいで、僕が選ぶオールタイムベスト5に入るSF小説だ。 生命とは変化であり、人類は人類であることの制限を自ら脱し、無数に枝を広げていくことができる。 そしてそれはきっと素晴らしいことなのだ。この技術過信で脳天気なビジョンを僕は支持する。
イカした言葉 「希望はわたしたちの義務だ。いつも希望だけはもっていなければいけないよ」(p448)
April, 2008
ヘルバウンド・ハート (原題: The Hellbound Heart) 著: クライヴ・バーカー (Clive Barker) / 訳: 宮脇孝雄
集英社文庫 1989年(原典1986), 300円, ISBN4-08-760167-6
退廃の悦楽を尽くし倦んだフランクは、究極の快楽を約束するパズルボックス《ルマンシャンの箱》 を入手し、それを解くことに成功する。 しかし、《亀裂》の彼方から現れた魔導士たちが彼に与えたのは快楽と苦痛が逆転する拷問の異界への幽閉だった。
真面目だがつまらない夫ローリーとの結婚を後悔しているジュリアは、 ローリーの兄で危険な放浪者フランクとの情事を思い返している。 ある日、彼等が相続し移り住んだ家の閉ざされた部屋で、ジュリアは残骸となって陰に隠れたフランクを見いだす。 彼方の世界から逃げてきたフランクはジュリアをそそのかし、復活のための血を欲する。 彼女は請われるままに、その部屋での殺人を繰り返す。 ローリーにほのかな恋心を抱くカースティがそれを目撃してしまうのだが、 彼女が逃げ出す際に手にしたのは《ルマンシャンの箱》だった...
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★★★
これも本棚の奥からの旧作。映画「ヘルレイザー」の原作である本書は、 僕がモダンホラーの世界へはまるきっかけとなった一冊で、パズルを重要なモチーフとしている。 その観点からの紹介は、このサイトのパズルのページに置いている。 いや、文庫本で180ページほどの短い作品ながら、申し分ない傑作。残酷でグロテスクで病んでいるが、美しい。 良くできたホラー映画を観ているようで、実際にバーカー自身が監督を務めた映画「ヘルレイザー」も その筋の人間には忘れられない傑作だし。 彼がここで確立したイメージは、爾後の数多くの作品で引用・転用・流用され続ける原型となった。
イカした言葉 「どんな熱に憑かれていても、おまえの想像力では追いつかない末梢神経の快楽が、ここには存在するのだ」(p15)
吸血鬼ドラキュラ (原題: Dracula) 著: ブラム・ストーカー (Bram Stoker) / 訳: 平井呈一
創元推理文庫 1992年(原典1897), 780円, ISBN4-488-50201-6
英国の弁理士ジョナサン・ハーカーは、異国の貴族がロンドンの地所を購入する手続きを行うため、 東欧の最奥トランシルヴァニアへと赴く。 荒城に住む依頼人ドラキュラ伯爵は、やがて妖魔の素性を明らかにし、ジョナサンを城に幽閉して英国へ向かう。 そのころ、ジョナサンの婚約者ミナは友人ルーシーの家に滞在しているが、死体が操舵する無人船が近くの港に 漂着する騒ぎと時を同じくしてルーシーは原因不明の衰弱におちいる。 ルーシーの友人の医師セワードが招聘したヘルシング教授は何かに気づいた様子だが、 教授の奇妙に見える治療もむなしく、彼女は命を落とす。そして、死後むしろ美しくなるルーシーと、 周辺の町で起こる怪異を確かめた教授は、セワードたちに吸血鬼の脅威を明かす。 ルーシーの婚約者ゴダルミング卿とセワードたちは、教授の導きにより吸血鬼となったルーシーの死体を清め、 彼女を汚した存在の退治を誓う。そして城から瀕死で逃れたジョナサンと、彼と結婚したミナも加わり、 ドラキュラ伯爵こそが目標であることを知った彼等は、伯爵が英国に置いた地所を丹念に浄化していく。 ミナを毒牙にかけるものの、ついに領地への遁走を余儀なくされた伯爵を、ハンターたちは追いかける。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★★★
新刊を手に入れられない時期なので、本棚の奥から古典を一冊。 世界にある全て(本作より先に書かれた少数を除いて)の吸血鬼を扱う物語の源流であり、 人類文化に与えた影響度の意味で真に偉大な書物の一つ。このサイトでも数多くの子孫を採り上げている。 改めて読むと、神様神様と主人公たちの信仰がいささかうるさい感じはするけれど、 メロドラマ的な盛り上げが古くさいながら恐ろしく巧妙。 しかし、これはヘルシング教授やハーカー達側からの記録であり、ドラキュラ伯爵は不当に卑小化されている印象は受ける。 人間の頃からカリスマ的武将であり、神に背き吸血鬼に堕ちた後も、 数百年の歳月をくぐり抜けてきた彼がそんなものであるはずがない。 もちろんその認識に立って、偉大・強大な吸血鬼像を確立する物語も多数あるわけだけどね。
イカした言葉 「笑いは王者だよ。いつ何時でも、好きなようにやってくる。笑いは人を問わない。 時と場所も選ばない。笑いの王者は『おれはここにおる』と常にいう。」(p264)
蒸気駆動の少年  (原題: The Steam-Driven Boy and other stories) 著: ジョン・スラデック (John Sladek) / 訳: 柳下毅一郎 他 / 編: 柳下毅一郎
河出書房新社 奇想コレクション 2008年(原典1966-1990), 2100円, ISBN978-4-309-62201-9 みんなはおまえだ おまえは俺だ
変なSF、変なミステリ、変なオカルト、その他「変」以外では形容しがたい物語だけを書き続けた 極めつけの異色作家スラデックの傑作・怪作23短編。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★★
変な小説は随分たくさん読んできたつもりだけれど、これは抜群にヘンテコだ。 正気の精神では到達できるとは思えない、異世界の幾何学に沿ったようなタガの外れたスラプスティックな小説ばかり。 かと思えば、平山夢明ばりの純粋悪意でおとぎ話を換骨奪胎する 「血とショウガパン」みたいな物語もあるし。ちなみにアクチュアリーが出てくる話もあるので、それは 「描かれたアクチュアリー」のページで別途紹介。
オブ・ザ・ベースボール 著: 円城塔
文藝春秋 2008年, 1143円, ISBN978-4-16-326730-2 文學界新人賞受賞作 奇想天外にして自由自在な文学空間!
第104回文學界新人賞を受賞、第137回芥川賞の候補となった表題作を含む短編2編
何もない田舎町ファウルズ。何もないが、年1回の割合で空から人が落ちてくる。 なぜか野球のユニフォームとバットが支給されているレスキューチームは、いまだかつて 落下完了前に何かをできたことはない。主人公の〈俺〉はレスキューチームの一員で、 いつ起こるかわからない事態に備えて日々を送る。「オブ・ザ・ベースボール」
素性不明のR氏なる人物の遺稿を偶然に再現しようとする試みにして、テキストとテキストの 距離に関する思弁からなる自己言及的テキスト (と要約していいものかどうか...) 「次の著者に続く」
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 -
表題作は、『Self-Reference ENGINE』『Boy’s Surface』と較べると拍子抜けするほど平明な話だが、 文學界新人賞において島田雅彦が「世界のなめ方において、群を抜いているので、これを推す。」と 評したのも肯ける円城節。文学の新しい方向性を示す、と言えば言えるけど、 これが芥川賞候補作とは、冗談を何か意味のある言明と勘違いしちゃってるような。 一方の「次の著者に続く」は難解すぎ。他作を通じて、僕の内部に円城塔のモデルが構築されているので それを足がかりに読めるのだが、初めて読んだのがこれだったら多分途中で投げ出してた。 まあ、難解というよりは実際はこれもナンセンスなんだろうけど。ひょっとして、何か意味がある?
March, 2008
虎よ、虎よ! (原題: Tiger! Tiger!) 著: アルフレッド・ベスター (Alfred Bester) / 訳: 中田耕治
ハヤカワ文庫SF 2008年(原典1956), 880円, ISBN978-4-15-011634-7 顔に異形の刺青をされた男の、絢爛たる復讐の物語
意志だけで瞬間移動を行う技術〈ジョウント〉が確立された25世紀、 〈ジョウント〉がもたらした社会・経済混乱は、太陽系惑星間での戦争を引き起こしていた。 攻撃を受け破壊された宇宙船《ノーマッド》の中で6ヶ月の漂流を生き延びた乗員フォイルは、 近辺を通過しながら救助信号を無視して去った《ヴォーガ》への徹底的な復讐を誓う。 復讐の炎に突き動かされ奇跡的に活路を見いだした彼は、小惑星帯に隠れ住む奇怪な部族に異様な虎の刺青を施される。 そして、地球にたどり着いた彼は、鉄の意志と烈しい憎悪で《ヴォーガ》を追い求める。 しかし、《ノーマッド》に密かに積載されていた戦略物資を探す地球財界の有力者、軍諜報部もフォイルを追いつめる。 圧倒的な権力に対し、他の全てを巻き込み犠牲にしながら強靱な野生でフォイルは立ち向かう。 『モンテ・クリスト伯』をなぞる、憎悪と愛に彩られた復讐劇は、波乱に満ちて進む。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★★
50年前の原作で、30年前にハヤカワ文庫SFとして邦訳も出ていたSF史上屈指の名作の復刊。 寺田克也の表紙が何と言っても目を引く。僕も随分昔に読んだ作品だけど、これを機に再読。 ページからほとばしる熱気に圧倒される。破綻を恐れず、高速・高加速度で展開される怒濤の物語は、 今もなお力を失っていない。視覚的描写・映画的表現の達人であるベスターの代表作は、 若いSF読者で未読の人がいれば、絶対に読んでおくべき傑作の一つだ。
イカした言葉 「何か信ずるものをもつことは必要ではない。 どこかに何か信ずるに値するものがあることを信ずることが必要なのだ」(p66)
兇天使 著: 野阿梓
ハヤカワ文庫JA 2008年(初出1986年), 952円, ISBN978-4-15-030916-9 日本SF史上最高の、幻想と奸計
華麗であること、猥らであること、荘厳であること――  見よ! ここに一糸まとわぬ〈SF〉が、屹立する — 飛 浩隆
凶暴で美しい熾天使セラフィは、上帝から、天界の霊的秩序混乱の原因究明と解決の命を受ける。 地上に下り調査を始めたセラフィは、1960年代の米国の大学教授に化身した美神アフロディトが、 我が子を殺めた悪竜ジラフと、彼を匿う北欧の神々に対する戦争を準備していることを突きとめる。 アフロディトを止めるためジラフの心臓を約束したセラフィは、竜の文化的痕跡を追って、時代を超え世界を駆ける。 人類が精神的な進化の果てに神と合一するオメガ・ポイントを夢想するイエズス会士テイヤールが参加する1930年代の 中央アジア探検隊や、シーザーが滞在中に始まった内戦で炎上するアレクサンドリアで、セラフィはジラフを追い続ける。
セラフィの追跡行と平行して語られるのは、十字軍が終わったころのヨーロッパ。 過酷な過去に縛られ、ハンザ同盟のスパイとしてデンマークに送り込まれた青年ホレイショの物語。 時に冷酷に状況を操りながら、大学時代からの知人で愛人だった王子ハムレットを裏切りつつ支える ホレイショの工作は着実に進むが、悲劇が重ねられるなか、さらに何か霊的な要素が入り込んでくる。
そして、16世紀のロンドン。破滅的な恋情と複雑怪奇な政治情勢に巻き込まれたシェイクスピアは、 ある魔術的な状況のもと、悲劇「ハムレット」の構想を紡いでいく。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★★★
書かれてから20年の年月を経ての復刊であるが、確かにこれは傑作だ。 絢爛で緻密で濃厚で哲学的で耽美。これはダン・シモンズの向こうを張るね。 SF的なガジェットもテーマも含有しないのにまごうことないSFの傑作として確立する奇跡。 序盤のテイヤールの議論の効果でSFとして印象づけられるんだとは思うけど。 竜をメタファーとした権力・国家論の硬質さと過剰なまでのイマジネーションが渦巻く外枠も凄いが、 内枠の「ハムレット」に、波瀾万丈の大河伝奇ロマンを重ね、 連続殺人の真犯人を解く本格ミステリを挿入し、やおいの耽美で彩るとは。 原典たるシェイクスピアは(恥ずかしながら)未読なのだが、絶対にこんな濃い話じゃないよね。
イカした言葉 「政治的決断の闇は、人間の心の暗黒の中でも一番くらく、濃いのだ。」(p291)
Boy’s Surface 著: 円城塔
ハヤカワSFシリーズJコレクション 2008年, 1400円, ISBN978-4-15-208890-1 C  Love dz= 2π i (boy + girl) 博士を愛せなかった数式。
写像やアルゴリズムが、自分は写像やアルゴリズムなのだが、と断りながら語る恋愛小説4編。
人の視覚に錯覚を誘導する写像が語る、その写像の発見者にまつわる恋愛とその不可能性の証明「Boy’s Surface」
相容れない数学論理体系同士の境界を探索するアルゴリズムと、そこに混沌をもたらした人物の、 詐称する語り手による入り組んだ物語「Goldberg Invariant」
ユニバーサル・チューリング・マシンか何かが読者を使って書き出す/読み出す恋愛小説。世界の破滅あり「Your Heads Only」
数理的な世界の終末と、時間をねじ曲げてそれを避ける計算を発見した少女と、 そことは交差しない世界との間で交わされる恋愛的な何か「Gernsback Intersection」
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 -
『Self-Reference ENGINE』に続く、 超絶の数理的駄法螺。はっきり言って意味不明の内容で、語り口もふざけているとしか思えない。 しかも恋愛小説。恋愛小説という集合に入ると言えば入るが、恋愛小説からは遠くかけ離れたデタラメな構造だしね。 しかし、このナンセンスはクセになる。僕はハマってしまっている。 こんなモノが書けるのは、または書こうと思うのは円城塔だけなのでこの方向を今後も貫いてほしい。 とりあえず付いていきます。
February, 2008
レヴェレーション・スペース 火星の長城/銀河北極  (原題: Galactic North and Diamond Dogs, Turquoise Days) 著: アレステア・レナルズ (Alastair Reynolds) / 訳: 中原尚哉
ハヤカワ文庫SF 2007年(原典2002,2006), 各940円, ISBN978-4-15-011630-9/978-4-15-011645-3 ニュー・スペースオペラの旗手が描く壮大なる宇宙史の全貌がここに! / 銀河SFのあらゆるエッセンスを凝縮 史上最大のスケールで描く遠大なる未来!
『啓示空間』と同じ宇宙史に属する全短編を、 舞台となる時系列順に編み直した2分冊。 相対性理論による光速の壁をものともせず、工学的自己改造と冷凍睡眠で宇宙の様々な領域に広がっていくうちに、 様々な形態に分化・進化していく人類の壮大な運命の断片を描く。 工学的な進化を始めた人類の中でも、集合知性の道を選んだ過激な一派が、比較的保守的な勢力との戦争の末、 封じ込められた火星からの脱出をはかる「火星の長城」から、2つの星域を結ぶ近光速宇宙船の船長が、 海賊に奪われた積荷の乗客を取り返す追跡行の末、9万年の時を超える「銀河北極」までの10編。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★★
これでもかというSFガジェットの連発で、派手派手な物語なのだが、意外にも薄口の印象。 というのは、強烈なイマジネーションというわけでもなく、リアルを追求しているわけでもなく、 登場人物たちの視点が、今の僕らとあまり変わらないこともあって、優れたSFの持つ異化機能に乏しいんだよね。 『啓示空間』の様な長編であれば、 変転するプロットとかネタの振り方で魅力的に見せられたんだろうけど。 幾つかはGONZOあたりにアニメ化して欲しい気もする。「ウェザー」はツンデレ。
新編 真ク・リトル・リトル神話体系3 著: H・P・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) 他
国書刊行会 2007年, 1500円, ISBN978-4-336-04964-3 邪悪な敵意を懐く侵入者等に対し、人類に好意的なる件の神々はここに勢揃いした…… 「触手」
国書刊行刊版クトゥールー神話シリーズ第3回配本。 ラヴクラフト没後の1937~41年に発表された8編
統合人格評 ★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★
時の流れの果てに知る人が絶えたか、深奥に隠されているはずなのに、 なぜか誰でも知っている禁断の忌まわしい知識がてんこ盛りの3集目。 前編では、単なる怪獣にしか見えなかった古の邪悪が、じわじわとクトゥールー本来の姿に戻りつつある気はするけれど、 それでもまだ野暮ったいなぁ。と、文句たらたらながらも次回以降もおつきあい。
モナリザ・オーヴァドライヴ (原題: Mona Lisa Overdrive) 著: ウィリアム・ギブスン (William Gibson) / 訳: 黒丸尚
ハヤカワ文庫SF 1989年(原典1988), 600円, ISBN4-15-010808-0
ヤクザの大物の娘、13歳の久美子は、激化する裏社会の抗争を避けるため、 父親の配下スウェインの許に身を寄せるべくロンドンに向かった。 そこには客分として、サリイという女性がいた。彼女は15年前(当時はモリイと名乗っていた)、 電脳空間の神話的相転移に直接的にかかわっていた人物だ。 ところが、スウェインは何者かに弱みを握られ、ある裏仕事を進めていると同時に、 久美子の父親とは別の覇権を得ようと画策しているのだが、そこにサリイも巻き込まれているらしい。
廃棄物埋立地の荒野に建つ《ファクトリイ》で、世捨て人のように暮らすスリックたち。 そこに奇妙な装置につながれ昏睡している男が運び込まれる。伯爵と呼ばれるその男は、 装置の中にある仮想空間に没入しつづけているようだ。《ファクトリイ》の主で、 電脳空間の変化の謎を独自のアプローチで研究している技術的隠者ジェントリィは、装置への侵入を試みる。
7年前にマース社を離れ、電脳空間に住まうヴードゥーの神々の導きで、いまや擬験ソフトの大スターとなったアンジイ。 彼女は薬物中毒治療のための休暇中なのだが、自分に迫る不穏な陰謀の気配を感じている。
社会の底辺で暮らす娼婦のモナは、ヒモのエディと一緒に自分を女優としてスカウトした男のもとに向かう。 しかし、慇懃無礼なその男プライアーの何か恐ろしい意図が見えてくる。
4つの物語が交錯するなか浮かびあがるのは、現在は消滅した軌道上財閥の残骸から、 電脳世界変化の焦点になったかつての恋人たちに迫る、財閥一族の狂気の残り火。 そして、二人の邂逅は、再び大きな変化を電脳空間にもたらす。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★★
『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』に続き、 「スプロール」3部作の最終話を再読。といっても、衰えた記憶力が幸いして、それなりに新鮮な読書。 『ニューロマンサー』ならともかく、本作になると、もう、登場人物の一人二人程度と ラストのあやふやなイメージしか記憶していなかった。 登場人物たちの行動の動機や目的はかなりわかりづらくて、なんでそうなるのか/そうするのかの描写はかなり割愛されている。 ギブスンの描く未来社会の濃度の高いシャープさは問答無用に格好いいのだが、この不親切さをどうとるかね。 また、シリーズを通して繰り返されるモチーフは、古物の再構成による価値創造で、 それもあいまって、モダンアートとしての印象が極めて強い。
イカした言葉  「ここはイングランドだよ。“ゴミ”が主要な天然資源なのさ。“ゴミ”と才能。」(p66)
January, 2008
カウント・ゼロ (原題: Count Zero) 著: ウィリアム・ギブスン (William Gibson) / 訳: 黒丸尚
ハヤカワ文庫SF 1987年(原典1986), 560円, ISBN4-15-010735-1
多国籍企業同士が重要な資源である人材を奪い合う、 半ば軍事的・戦術的な活動を請け負うプロであるターナーは、 生体素子開発で急成長するマース社のトップ研究者を電脳技術メーカーホサカ社に移籍させる仕事を引き受けた。 綿密な準備を進めるが、企業離脱の現場に現れたのは、対象のミッチェルではなくその娘アンジイだった。 そして正体不明の勢力に爆撃された現場からかろうじてアンジイを連れて脱出したターナーは身を隠し事態の打開に動く。 どうやらミッチェルはアンジイの体内に何かを仕込んでいるのだが...
贋作事件に巻き込まれ信用を失った元画廊経営者マルリイは、大富豪の美術蒐集家ウィレクに招かれる。 現実の身体は病に冒され槽に収められたまま、仮想的な投影として活動するウィレクは、 彼女に作者不詳の芸術作品 — 宇宙を、詩を、人間の経験の限界に凍りつかせた箱 — を見せ、 その作者を探し出すことを依頼する。
駆け出しハッカーの伯爵(カウント)ゼロことボビイは、初めての仕事で没入した電脳空間で、 セキュリティプログラムに殺されそうになったところを、不思議な少女のイメージに助けられる。 逃げ出した彼を、電脳空間に住まうヴードゥーの神々を信仰する黒人グループが拾い上げる。 彼等は、ボビイの経験に神の姿を見いだし、何かに狙われるボビイを連れ出す。
やがて彼等の道は、からみ合い、7年前に解放されたAI(cf. 『ニューロマンサー』)から産まれたモノたちと、 それを知り近づかんとする人物の野望が仄見えてくる。
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★★
『ニューロマンサー』の続編を再読。 いやぁ。やっぱりカッコいい。とにかくカッコいい。 本作は、前作以上に謎めいていて、主人公たる3人とも最後まで、または最後になっても、 自分が何をしているのか、何に向かって動いているのか、何と闘っているのかを分からずに 動く。読者にしたところで、ネットに住まう神々の動機は解釈次第だ。 しかし、圧倒的な未来世界のヴィジョンに酔う読書体験は20年前の初読時とあまり 変わらないし、むしろ現実世界が作品世界に近づいていることに改めて驚嘆する。 前作同様、古さは感じられない。 このまま「スプロール」3部作を締めくくる『モナリザ・オーバードライブ』へ突入。
イカした言葉 「やがてわかる。ものごとによっては、忘れることを憶えるようにしなくちゃ」(p390)
残虐行為記録保管所 (原題: The Atrocity Archives) 著: チャールズ・ストロス (Charles Stross) / 訳: 金子浩
早川書房 2007年(原典2004), 2000円, ISBN978-4-15-208880-2 異界からの異形の侵入者 その怖るべき野望を打ち砕くべく秘密組織〈ランドリー〉の 若きエージェントは数学的魔術を駆使して立ち向かうが……
ある種の数学理論の証明とその応用が、隣接する宇宙から魔物を召喚してしまうことがある。 誰かが偶然に証明に至らないように、また異界からの侵入や魔術テロを防ぐために創設された英国政府の秘密組織〈ランドリー〉。 危うく町を一つ滅ぼしそうになったことから〈ランドリー〉に徴用されたハワードは、 組織のシステム管理から現場任務へと身を転じる。 最初のミッションは、自分ではそうと知らずアメリカのオカルト国防の理論的研究を支える数理哲学教授モーの英国帰国を サポートする比較的簡単なはずのものだったが、ハワードの目の前では魔術を使うイラク系テログループが彼女をさらう。 何とかそのときは事なきを得たが、その背後には、第二次世界大戦終戦時に完全に消滅したはずの ナチスのオカルト研究機関の影が見える。 正体不明の敵を誘い出すため、ハワードとモーはアムステルダムの残虐行為記録保管所に向かう。
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★
僕の趣味のど真ん中。 高度な数学理論がクトゥールー神話的オカルトの秘儀として機能する仕掛けだし、 主人公のハワードは反権力志向のハッカー気質で、英国的ねじくれユーモア満載の物語だし。 確かに、現代数学理論というのは常人には目的すら意味不明で、 そのくせ整数論の様な純粋理論がネットに不可欠な暗号の基盤として強力に作用するし、 奇怪なシンボルを駆使した証明は、まさに魔導書。 チューリングやヒルベルトやクヌース(本書中に出てくるこの数学者セレクトもまたナイス) の未発表の数学的定理が、現実世界の基礎を波立たせ穴を開けるといわれれば、そうかなと言う気にもなるよね。 本書とともに著者の第一長編である、 『シンギュラリティ・スカイ』もそうだったが、 若書きな印象は否めないけど、面白いのは確かで続編も早く訳して欲しい。誰か漫画化しないかな。
イカした言葉 「男の自尊心ってのはおかしなもんだね。小さな大陸なみの大きさがあるけど、ものすごくもろいんだ。」(p96)
私を猫と呼ばないで 著: 山田正紀
小学館 2007年, 1700円, ISBN978-4-09-379778-8 男、女。おんな、おとこ。 あまくて、辛くて、せつなくて……  もつれた糸がほどけるような…… 珠玉の短編小説集。
月刊誌「遊歩人」の連載を精選して加筆した14の掌編。 男と女の愛憎、すれ違い、それだけでもない関係を、軽妙に描き出す。
統合人格評★★★ / SF人格評 - / ホラー人格評 -
この作者でなければ、まず手に取らない普通小説集。うまいことはうまいんだけど、 それが狙いなのか装丁・内容ともにいやに古めかしい。 バブルちょい前の昭和とか、新宿のなんとか横丁あたりにある酒場のイメージといったらいいかな (そういう題材の話があるわけじゃないけどね)。