自分史を書く

 自分史というと、生まれてこのかたすべてのことを書かなければならないような気がしてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。書きたい時期の書きたいことだけ書いても、それは立派な自分史の一部です。「全部書かなければならないなんて大変」なんて思う必要はないのです。

 自分史を書くコツをつかむとあとはそれを楽しむだけです。しかも、楽しむだけではなく、いろんなことを発見できます。「自分が覚えていることを文章にして何が発見できるのだろう?」と思うかたも多いでしょう。でも、実際にやってみるといろんなことが発見できるのです。

 私はインセンス(お香)を焚くのが好きです。インド産やバリ産のお香を買ってきては書斎で焚きます。ある日ふと、隣の部屋をきれいにしてインセンスを焚きたくなりました。そこでソファやベッドを捨ててさっぱりとした部屋にしてお香を焚きました。それがとても気持ちよかったので、そのことをエッセーに書きました。すると大きな香炉のことを思い出しました。高さが20cm以上もある大きな香炉です。私が小学生の頃、父がそれを使ってお香を焚いていたのでした。驚きました。父がお香を焚いていたことをすっかり忘れていたのです。私は自分がインドやバリに行ってインセンス(お香)が好きになったのだと思っていました。

 そのことを文章に書いているうちにさらに思い出したことがありました。父の書斎のにおいです。父の書斎には古本が山のようにあり、敷きっぱなしのカーペットがあり、さらには父のポマードのにおいが重なり、すごいにおいの部屋でした。私はそれが嫌いでした。その部屋でお香を焚いていたのです。「きっとさっぱりとした部屋で焚けばいいにおいなんだろうなぁ」と思っていました。そこまで思い出してなるほどと思いました。私は幼い頃に抱いた「さっぱりとした部屋で焚けばいいのに」という思いを三十年もしてから実現させていたのです。

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Healing Writing

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