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映画日記 2024年 (30本)


見た映画の記録です。2024年分です。上の方ほど新しく観たもの。 評価は ★★★★★ が最高。

年度リスト 】 【 ◀ 2025年 】 【 2023年 ▶

No. タイトル 評価 感想
30 ジャワーン
JAWAN
★★★ 腐敗した金持ちや政治家から奪い、貧農たちの借金を帳消しにしたり破綻した公的医療を改善させる義賊として活動する主人公の復讐劇。 数十年にわたる運命の輪、苛酷な悪役の非道と明快な勧善懲悪、華麗な恋愛劇に、外連味たっぷりの格闘・乱戦・カーチェイス、 必要以上に派手で長時間の群舞シーンという、インド映画らしい過剰に過剰を重ねたマシマシの娯楽作。 さらに社会的メッセージまでぶち込んで、面白いのは面白いんだけど、この年齢になるとこんなにコッテリしたものを食べると胃もたれするわ。
29 シビル・ウォー
Civil War
★★★★ アメリカ大統領選間近のタイミングで観に行った。 4年前の『ザ・ハント』は国内分断のカリカチュアだったが、 本作で描かれる分断を超えた内戦はあまりにも生々しい。舞台は戦局が一挙に傾く内戦終盤の数日間、 ニューヨークからワシントンD.C.に向かう報道カメラマンたちの視点で切り取られた局所的な物語で、内戦に至った原因や過程、 両陣営の党派性は観客には示されない。劇中で交戦する兵士たちがどちらに属しているのかもほとんど明示されない。 隣人だった人間と殺し合い、積み上げた死体の前でポーズをとったり、思い付きのような基準で行きがかりの人を区別して殺していく様は恐ろしい。 だが、これは世界のいくつかの地域で現実に起きていることだと思うと絶望的な気分になる。
28 ソウ X
SAW X
★★★ シリーズ1作目2作目の間。 メキシコで医療詐欺にあったジグゾウことジョン・クレイマーが詐欺犯らにゲームを仕掛ける。 だんだんマンネリになって4作目でリタイアしてたのだが、初代ジグゾウの物語なら、と観に行った次第。 自分の脚を切断して骨髄を採集するとか、頭蓋骨に穴をあけるとか、過激で残虐なゲームだけど、約3分しかない制限時間内にアドレナリンの勢いで ほぼ成功してしまうのは逆に軽い印象を与える。もっと偏執的・狂気的に精神をエグるゲームが『SAW』らしかったのでは。 体力的に弱り切った末期がん患者なのに、見知らぬ外国の地にあれだけの大規模な機構を作ってしまうとは、ジグゾウの匠の技おそるべし。
27 ジョーカー フォリ・ア・ドゥ
Joker: Folie A Deux
★★★ 賛否両論で興行的にも不振のようだが、この内容ではむべなるかな。 多くの観客が期待していたのは伝説的なヴィランが羽化する物語だっただろうから。 しかし、それでは裁判所の外でジョーカーの名前を叫び、無責任に彼を消費しようと集う映画の中の群衆と同じ。 振り返れば、前作で描かれたのは、 不幸な境遇に押しつぶされた末に偶然凶行を起こした男が、格差や腐敗などの社会に対する大衆の不満のアイコンとして祭り上げられる姿で、 アーサー自身の内に社会に混沌をもたらすような狂気があるわけではない。 そのような主人公の物語の閉じ方としては、実はあるべき結末だったとも思う。 バットマンなき世界では、かのキャラクターは生まれえないのかもしれない。
26 エストニアの聖なるカンフーマスター
Nähtamatu võitlus
★★★ 何本かにひとつはヘンなのを観ないと僕の精神衛生上良くないので選んだ一本。 ソ連時代のエストニア。革ジャン姿のカンフー使い3人に壊滅させられた国境警備隊の生き残りの主人公が、 ブラックサバスとカンフーにはまったニートになるが、とあるロシア正教の修道院でカンフー修行が行われていることを知り弟子入りする。 というヘンテコ映画。カンフーといっても極めてデタラメ・適当で、能天気な主人公は欲望や誘惑に負けまくる。 人物造形や出てくる品々はことごとくレトロというかチープ。でも、人生これで良いのだという謎の肯定感が得られる作品。
25 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ ★★★★ シリーズもついに、ミニシアターから全国の劇場に上映館を拡大、 宮崎ロケに、池松壮亮や前田敦子といった有名俳優を配するまでに。最初から観ている者にとってなんか感慨深い。 伊澤彩織のアクションのレベルが違うのはデフォだが、今作では高石あかりの近接格闘が明らかに進化していて、 敵役である野良の殺し屋を演じる池松壮亮の動きのキレも想像以上で、かなり豪勢なアクション巨編になっている。 その分、このシリーズの売りである主人公ふたりのユルいやり取りが少なめなのは痛しかゆしだが。 それでも気合の入った製作陣と役者が気合の入った映画を作るとこれだけ面白くなるという見本のような作品なのはうれしい。 冒頭とラストのシーンに一瞬現れる少年は何者?
24 悪魔と夜ふかし
Late Night with the Devil
★★★ 封印されていた1970年代のTV番組の映像資料が発見されたという体裁のオカルトホラー。 司会者の人気は頭打ち、視聴率も悪くはないが今一つさえない深夜のトークバラエティショー「ナイト・オウルズ」。 テコ入れの一手のオカルト企画に招かれた悪魔憑きの少女と超心理学研究者のインタビューは、 急遽、生放送で悪魔を呼び出す流れになるのだが、制御不能の恐ろしい惨劇が起こる。 あの当時の、オカルトを真偽気にせず受け入れる鷹揚さ、面白ければアブないこともお構いなしの雰囲気は面白い。 でも、生放送でおそらく何万人単位の視聴者が目撃した事件は封印できる気がしない。 演出でした、では誤魔化せないよね。司会者役のD・ダストマルチャンが良い味出してる。
23 Cloud クラウド ★★★ 不特定多数の恨みを買った転売屋が雲のように集まった悪意に襲われるサスペンス。 無神経に他人を踏みつける主人公の言動は嫌悪されても、本来、過激な攻撃の対象になるほどのものではない。 しかし、悪意のネットワークの中で、わずか一点、偶発的に変化した害意・殺意が、ネットワーク全体を塗り替えて集団的暴走が始まる。 その現代的な不気味さが主題か。 後半、ある人物が真正の「プロ」であることが判明し、より暴力的な物語に転じるのだが、その行動の理由・目的も分からない。 この唐突さは賛否分かれるところ。主人公の奥底の狂気を感じ取り共鳴したということかな。
22 アビゲイル
Abigail
★★★ 富豪の娘を誘拐し廃屋に監禁した互いに名も知らぬ犯罪者6人が、ヴァンパイアの本性を現した少女に狩られる側となり、 いつのまにか出口が閉ざされた屋敷の中でサバイバルするスプラッターホラー。 年端もいかぬ少女が急に邪悪な顔となり、「白鳥の湖」の音楽をBGMにバレエの衣装で襲い掛かる。 首が転がり血しぶき飛び散る結構なゴアシーンが続くのだが、肝心のところをうまく省略してグロさをセーブしている感じ(それでも十分グロいけど)。 犯罪者たちのキャラは様々で戦い方・逃げ方にバラエティがあって飽きさせないが、 そのせいで誰が最初の犠牲者になって、誰が逃げ切るのかだいたい予想はついてしまうところにテンプレ感あり。
21 侍タイムスリッパー ★★★★ 単館上映の低予算自主製作映画が評判を呼び全国上映に至る、という『カメラを止めるな』 のような盛り上がり方。幕末の会津武士が現代太秦撮影所にタイムスリップしてきたところから始まる作品の骨格はコメディだが、 自分が必死で守って来た幕府や侍の世がとうに失われていることを知る主人公の喪失感、それと呼応するように、 時代劇の凋落を止められないことをわかっていながら必死でそれに抗う制作関係者の情熱にちょっと泣きそうに。 クライマックスの殺陣シーンの迫力も素晴らしく、文句なく良い映画。 同時期に真田広之の『SHOGUN 将軍』がエミー賞を受賞したのは偶然でないのかもね。
20 エイリアン ロムルス
ALIEN Romulus
★★★ 最初の「エイリアン」の後日譚。 シリーズは作数が増えるにつれいろいろと拡散しているが、 これは原点回帰を目指した一本。 ギーガーによる秀逸なクリーチャーデザインは再確認できるし、クラシックな宇宙船やステーションの造形、 閉鎖環境で追い詰められる絶望的なサバイバルはそこそこ面白い。 しかし、エイリアンの生態や、ウエイランド・ユタニ社の悪辣さは言ってみれば周知で、それを超えるような新しい要素がないのは弱い。
19 サユリ ★★★★ 押切蓮介のコミックを白石晃士監督が映画化。郊外の丘に立つ中古の一軒家に引っ越してきた3世代7人家族が、 その家に棲む霊の悪意により、一人また一人とおかしくなり変死していく。という前半は普通の「呪われた家」ホラー。 しかし5人の命が奪われたところで認知症だった祖母が覚醒し、中学生の長男とともに悪霊への復讐を誓う急展開。 この祖母がパワフルでワイルドでハードボイルド。武術太極拳の達人で、よく笑いよく食べよく寝て生命を濃くして戦えと長男を鍛え上げ、 さらに、法や倫理を無視したとんでもない手段で悪霊に対峙する。「ONEPIECE」の強い老人たちに匹敵する猛々しさ。 正面から生命力で殴るという、これまでのオカルトホラーにはない展開が斬新。
18 箱男 ★★ 中高生時代に安部公房にハマって原作は読んでいたものの細部はすっかり忘れてた。 あとで Wikipedia で調べてみたら、かなり原作に沿ったストーリーだったようだ。 妄想と現実がゆらぎ語りの主体があやふやになる不条理さは原作由来にしても、哲学臭い世界観とか、技巧的な会話劇とか、 無意味なまでにセクシーでミステリアスな女性像とか(白木彩名は素晴らしいが)、究極の観察者を○○に押し付けるラストとか、 全体的な雰囲気は20世紀の前衛文芸映画。 とはいえ、段ボール箱をかぶったまま走り戦う奇妙な姿は面白かったかも。メタルギアソリッドか。
17 モンキー・マン
Monkey Man
★★★ 私欲をむさぼる富裕層と搾取される貧困層が混在するインドの都市。裏闘技場で猿マスクのやられ役として底辺の生活を営む主人公が、 故郷を奪い母を殺した悪徳警察署長一派に復讐するハードアクション。 テンプレ通りであまり新味はないのだが、敵ボスが警察権力と結託して街を支配する宗教指導者である一方、 復讐に失敗し傷ついた主人公をかくまうのも貧者寄りの宗教組織と、ヒンズー教が浸透したインド社会の描写が特徴的か。 主演かつ監督のデブ・パテルの近接戦闘アクションが「ジョン・ウィック」っぽいと評されているのは 痩身・黒髪・ひげ面・黒スーツ姿がキアヌ・リーヴスを連想させるからじゃないかと思うけど、 むしろ、平井堅に見えてきて困った。
16 デッドプール & ウルヴァリン
Deadpool & Wolverine
★★★ 前作よりもメタ満載らしいけど X-MENの その後のシリーズもアベンジャーズ以降のMCU作品も観てないしなぁ、と思っていたら、 むしろもっと旧い諸作をたくさん拾っていて僕みたいなオールドファンの方が楽しめるかも。 マーベル作品は数多くて主演俳優がかぶることもあり、(そもそもR・レイノルズの『グリーン・ランタン』を前作でいじってたが) それを使った、著名キャラクターと思いきやソッチかよ!という贅沢なギャグは新しい観客は置いてきぼりになりそうだ。 ネタばれになるが ブレイドを W・スナイプスのまま登場させるのはアツい。 『ローガン』のラストを掘り返す罰当たりな冒頭からやりたい放題だけど、 主人公のデッドプールだけ扱いが甘々なのはイケてない。
15 温泉シャーク ★★★★★ タイトルだけでわかるバカ映画。海沿いの温泉街で入浴中だった観光客の失踪事件がサメの仕業と分かる前半から、 ついには日本存続の危機に事態が拡大していく。とことんチープな特撮、徹頭徹尾くだらなくふざけ倒したストーリー。 人によっては観たら怒り出しそうな作品なので表立っては薦めづらいが、一部のバカ映画愛好家にとっては間違いなく傑作。 実は物語の構成・構造だけはしっかりと筋が通っていて、話が迷走したりグダグダになってないのが評価高い。 で、脈絡なく現れたかと思うと当然のように画面の中心に陣取り、深海でも平気でサメをぶん殴るマッチョ、 結局あんたは誰なんだ。
14 キングダム 大将軍の帰還 ★★★★ 「キングダム 運命の炎」の後編。 本作の主人公は、なんといっても大沢たかお演じる王騎将軍。いままでの泰然とした構えから一転、 ついに、戦場を駆け大矛を振り回して敵陣を粉砕し、因縁の敵、龐煖(吉川晃司)と憤怒の形相で打ち合う。 そして、死に瀕してなお自軍を鼓舞し活路をこじ開ける雄姿はまさに大将軍。 回想シーンの挟み方がちょっとテンポ悪いんだけど、シリーズのクライマックスとして期待を上回る大作。 李牧(小栗旬)は、前作ラストで登場したときは、派手な色とデザインの衣装が au の CM を思わせるようなコスプレの印象だったのだが、 本作では後方から戦場のすべてを支配する底知れなさが存在感あってよい感じ。賛否あるが私は有りだと思う。
13 ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン
Vampire humaniste cherche suicidaire consentant
★★★ カナダ発のパラノーマルロマンス。英語タイトルをそのままカタカナにした邦題はさすがに長すぎ。せめて直訳で「優しいヴァンパイアは自殺志願者を探す」とか。 ラストは吸血鬼・人間の平和的共存の新しい形を示したっぽいけど、どちら側から見ても矛盾だらけだし、母親の立場や医療従事者の職業倫理上あれ受け入れられるの?  ただ内容は結構好みで、サラ・モンプチ演じる人を狩れない吸血鬼と、自殺願望のある青年のなんとももどかしい関係がなんか尊い感じ。 大量の血は流れるがね。
12 男女残酷物語 サソリ決戦
Femina ridens
★★★ 日本初公開となる1969年のイタリア映画。宣伝文句にいわく「ウルトラ・ポップ・アヴァンギャルド・セックス・スリラー」は半世紀前のレトロさはあるが、 サイケデリックな美術や音楽がかなりカッコいい。変態エロ映画だけどね。 主人公の一人セイヤーは、エリートで富豪の顔の裏で自らの屋敷に女性を監禁して責め、支配する嗜虐者なのだが、後半の手玉に取られ具合が どう見ても女性恐怖と性癖をこじらせた童貞。 性的なシーンを暗喩する描写(唐突に吹奏楽器を演奏する女性たちが乗った機関車が現れたり)が妙におしゃれだし、 また、冒頭の行列やアイパッチの男の意味が最後に明らかになる構成とか意外に緻密に作られている。 映画史の澱の底からすくい上げられた珍品。
11 マッドマックス フュリオサ
Furiosa: A Mad Max Saga
★★★★ 『マッドマックス 怒りのデスロード』の前日譚。同作で重要な役割を演じる女戦士フュリオサの半生を描く。 こういう世界観を確立したジョージ・ミラー監督の神業は今作も健在で、異様な熱量に圧倒される高揚の2時間半。 人類がこの時代を生き抜き再び文明を築いたとき、神話として語られるであろう物語の一話で、 どの登場人物も類型的なキャラクターとして与えられた役割を演じるある種の様式美に彩られている。 そういう視点からは、バイカー集団を率いるディメンタスを演じるクリス・ヘムズワースが、マイティ・ソーに見えて仕方ない。 (類型としてはトリックスターなのでロキじゃないか、とは思うが)
10 関心領域
The Zone of Interest
★★★ ポーランド郊外の広く快適な邸宅。多数の使用人にかしずかれた裕福な生活、美しく手入れされた花咲く庭園では子どもたちが遊んでいる。 実はアウシュビッツ強制収容所に隣接する、収容所所長ヘスとその一家が暮らす屋敷。 映画は能吏として働くヘスと理想の生活を楽しむ妻や家族の姿を淡々と映すものの、高い壁の向こうは描かれない。 しかし、不明瞭な悲鳴や怒声、銃声が昼夜を問わず背景音として聞こえ、煙を吐き続ける煙突が画面の隅にそびえる。 史実としての残虐行為を直接に描かないことで逆に観客に強く意識させる仕掛けで、少しでも歴史を知る者は心穏やかには観られない。 ただ、その仕様のために、評論家が語るための映画になってしまっているように思う。
9 胸騒ぎ
Gæsterne
★★★ デンマーク・オランダ合作のヒトコワなホラー。ある家族が旅行先で意気投合した一家に招待されて訪れたオランダの田舎。 にこやかで人好きのするホスト夫妻の行動の微妙な違和感、居心地の悪さが積み重なる先にある忌まわしい結末。 スクリーンのこちら側にいると、君ら逃げるか戦うかしろよ、と言いたくなるし、実は彼らは引き返す選択肢を常に示しているのだが、 主人公たちはマナーとか人からの見た目を気にして逃げないし逃げられない。 正常性バイアスのもたらす最悪中の最悪の悪夢。自分はこういうときにきちんと逃げられる/抗える人間でありたいと思う。 でもさすがにオランダの官憲は気づいて捜査していないとダメな気がする。
8 フォロウィング
Following
★★★ 1998年発表のC・ノーラン監督長編デビュー作を監督自らHDリストア。街ゆく人の尾行を趣味とする作家志望の青年が あるとき見つけた奇妙な空き巣行為を繰り返す男。その男に感化されて同行するようになった先に待ち受ける悪夢のような事態。 モノクロのスタイリッシュな映像、時系列を複雑に行き来する構成と、その上に二重三重に仕掛けられたトリック。 実質的な登場人物3人だけの小品ながら、のちの大作群に繋がる才能・センスはすでに完成形。
7 ビニールハウス
비닐하우스
★★★ 韓国の深刻な格差社会を背景とするサスペンス。家を失い郊外のビニールハウスで暮らし(これは現実の社会問題らしい)、 盲目の老人とその認知症の妻の訪問介護で生計を立てる女性が、あるとき起きた不幸な事故を糊塗するためにとっさに選んだ最悪の判断。 危ういバランスの上に成り立つ仮初の平穏は次第にはがれ、思わぬ方向に物語は転がり、すべての登場人物が不幸になる絶望のラストに至る。 『パラサイト 半地下の家族』の後追い的な作品だが、それを逆手に取った「半地下はまだマシ」は 映画の内容を的確に表した(品は良くないが)良くできたコピー。
6 DOGMAN ドッグマン
Dogman
★★★★ リュック・ベッソン監督のバイオレンスアクション、なんてジャンル分けには収まらない重たい物語。 多数の犬を載せたワゴン車を運転していた血まみれの女装者が警察に保護される。精神科医との面談で明かされるその男ダグラスの半生記。 父親からの虐待で半身不随となるが、その対価として犬たちとの共感の力を得た少年時代。その後も社会や神から拒絶され続け、 かろうじて犬たちと暮らす居場所を得て、そしてある種の犯罪に手を染め富の再分配だとうそぶくも、裏社会の一派に目を付けられる。 聖性と狂気と道化を行き来する複雑な主人公を演じるケイレブ・ランドリー・ジョーンズがとにかく鬼気迫る。 ストーリーや諸々は『ジョーカー』を思わせるが、よりコンパクトで濃密な物語。
5 デューン砂の惑星 Part2
DUNE Part2
★★★ Dolby Cinemaで視聴。前作同様、映像と音響は圧倒的なので観るなら映画館に限る。 だけど、主人公ポールが救世主に覚醒とかといわれても、相変わらず世界観の説明が少ないので、原作未読者は置き去りになりそう。 迫力はあるけど何が起こっているのか良くわからない、とならなければいいのだが。 一方で、原作からは乖離しているところもあって、例えば皇帝親衛隊サーダカーはザコ扱いだけどもっと強敵だったような。 そして、惑星アラキスや香辛料メランジの秘密はいまだ語られていないので、次作に続くのか。
4 ゴールデンカムイ ★★★★ 映画化発表時はまた山崎賢人主演かよ、などの声もあったが、いざ上映されたらやたら評判が良い。確かにコミックの実写化としては完璧といっていい仕上がり。 壮大な物語の序章を迫力あるシーンの連続で描き、なんといっても、キャラクターの再現度がおそろしく高い。どの登場人物も原作そのままの姿と動き。 今後は、実写化するには色々とヤバいエピソードが控えているのだが、この勢いで続けてほしいな。
3
올빼미
★★★ 17世紀朝鮮で起きた王子の怪死という史実を題材にした韓国映画。王宮の内医院に採用された盲目だが腕の良い鍼医ギョンスが、 人質に取られていた清国から帰還したばかりの王子が謀殺される現場を「目撃」したうえに、その罪を被せられ、夜の王宮を逃げながら真相を明かそうと奔走する。 時代に翻弄される人々がそれぞれの立場で葛藤するなかで陰謀が生じてしまう様を、緩急の利いたストーリー、細やかな表現で描いていて、かなり面白い。 卑しいものは生き延びるために見えないふりをしないといけない、と何人かの登場人物が口にするのだが、 強国清に屈辱的な服従を強いられている当時の朝鮮の姿を表しているようだ。
2 レザボア・ドッグス
Reservoir Dogs
★★★ 1991年制作のクェンティン・タランティーノ監督の監督第1作をデジタルリマスター化。 当時はその斬新さに世界が驚き、今でも傑作として名が挙げられる作品だが未見だったのでリバイバル上映はありがたい。 ただ、この四半世紀に世に出た、このスタイルをまねた作品を相当数観たあとなので、インパクトが薄れているであろうことは残念だが。 宝石強盗の場面や警察との銃撃戦を(コストの関係もあるそうだが)大胆に省略する余白の使い方のセンスは絶品。
1 サンクスギビング
Thanksgiving
★★★ 新年しょっぱなからエゲツない人体損壊シーンが連続するスラッシャー。 清教徒が初めて入植した地プリマス。キリスト教の感謝祭が商業化してしまったブラック・フライデーにスーパーマーケットで起こった悲惨な事故 (無数の買い物客が暴徒化するシーンはゾンビ映画のオマージュか)から始まる。 その1年後に町を恐怖に陥れるのがプリマス植民地創設者ジョン・カーバーの仮面をかぶった殺人鬼ということで、随所にホラー映画らしい現代社会への皮肉が効いている。 犯人の正体をめぐる謎解き要素もふくめて結構しっかりした造りで出来は良い。 正体不明の異常な殺人鬼が捕まっていないのに感謝祭パレードを強行するプリマス市民は肝が据わっているのか思考停止なのか。